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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第四章 空と陸の邂逅
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レイニー・エンド(2)

 三機のクウィール(シュリーフェン)は巧みなコンビネーションで彼らに迫ってきた。一機がマシンガンを敢えて広範囲にばらまきこちらの照準を狂わせながら残りの二機が射線を絞って火力を一転集中させる。あっという間にオルルカンの機は頭部と右腕を破壊され仰向けに地に倒れてしまった。不思議なことに狙われることのなかったリンドは、その幸運を噛み締める余裕もないまま倒れているオルルカンの元へと向かい庇うようにしてしゃがみ込んだ。

「クッソ、狙いが……!」

 低空を高速で飛行している飛行型ALは、システムでは捉えることもあったものの、それをあやつる人間の方が対応できずに引き金を引けずにいた。パイロットの脳が感知してその信号をALのシステムが捉えて敵機に照準を追従させ、そして引き金を引き、銃弾が発射されるころには照準の中に敵機はいない。空しく無駄弾ばかり宙を飛んでいく。リンドはすぐさま火器管制システムを操作し対空及び高速照準に切り替えるが何も専門的なことをしているというわけではない。彼にそんな高度なITのスキルなど全くないのだから。これはパイロットが戦闘中でもメカニックの助けもなしにその場で簡易的にシステムの調整をできるようにプログラムが組まれているのだ。これによってこのような高速で飛行する空の敵を狙うのに適したものや、はるか遠く二千mも向こうの静止目標を狙撃するためのシステムなどいくつものパターンに知識がないものでも変更できるようになっている。もちろん、このシステム変更操作のための学習自体は必要だが。

 あわただしくもその場しのぎの調整を行ったリンドは、改めて三機のクウィールを追うがその三機に構ってられない状況に突如陥ることとなる。それは頭上から新たな敵の反応があったためであった。

「新たな敵!?そんな今まで反応がっ!」

 各種レーダーにも映らなかった敵が突如現れたことでリンドはパニックに陥る。

「敵です!ず、ずじょっ直上!!!一機!!」

 言葉に詰まりつつも味方にそれを伝える、皆のレーダーにも当然新たな敵影は映っていたのだが、皆最初の三機の対応に手間取っておりそちらまで手を回すことが出来ずにいたのだ。こうなればこの新手に自分一人で対応せざるを得ない、リンドは運が悪いと思いながら機首を上げたのだが実はこの対峙はその新手のパイロットの手によって仕組まれたことだったのだ。

「敵はっ!」

 敵の正体をその眼で確かに認めるべく目を凝らして空を見上げる。打ち付ける雨が波紋を作るモニタに映る機影に彼は全身の血が凍っていくような感覚をおぼえた。 

「白い、鳥!!」

 彼に襲い掛かったのはまさしくあの時、クラーム平原において遭遇し奇跡的に命を落とさずに済み、それどころか新兵の域を出なかった彼が相手を中破させるという芸当を披露した相手、謎の白い飛行型ALグライフであった。

 グライフは地上への激突が怖くないのかというような速度で地表のリンド目がけて急降下しつつも両手に握られたマシンガンを一点に集中させた。振り注ぐ銃弾の雨、対空機銃がオートで応戦するもまるでそれが来ることが最初からわかっていたかのようにグライフは射線を躱し、代わりに重ヴァルの右ガトリングシステムを基部から破壊し機銃も二基潰されてしまった。

「うわああっ!!」

 激しい衝撃が機体を揺らしリンドは恐怖におののく。全く反撃もままならないリンドに対し、グライフはそんなことはお構いなしとばかりにグライフは主翼下に懸架している対地ロケットを発射し地面ギリギリのところを衝突寸前で機首を上げて回避するとその勢いを利用して急上昇を始めた。

「つ、つええ……!」

 偶然がはたまた狙ってのことかロケットは足元に着弾し、直撃は免れてはいたがその攻撃で右足の駆動系を著しく損傷してしまい、スムーズな歩行はできなくなってしまった。

 あの時とは大違いの敵の戦いに万の少しも勝機を見いだせない。それでもリンドは大波に抗う一艘の小舟のようにあがこうとする。そんな損傷をしつつもなお立ち上がりこちらに銃口を突きつけるALの姿を見てグライフのパイロットは確信した。

「あのヘビーデセル(重ヴァル)よ、絶対に!あの時の屈辱がそう言ってる!!」

 そうコックピットの中で目を輝かせるのはヴィエイナ・ヴァルソー特務中尉その人であった。彼女の心は今、雪辱を果たすという高揚感で満たされていた。ただの、なんの変哲もないALに乗機を酷く損壊させられたことが、彼女の自尊心に深く癒えぬ傷を刻みつけたまま数か月が経過していた。膿んだまま決して修復の兆しを見せぬそれを治すためには、この因縁に始末をつけねばならない、そう彼女はあの時からずっと頭に入れていた。そうとも知らないリンドは、異常な執着心を見せるかのような戦いをする強敵にただただ精一杯の抵抗をするばかりであった。

〈特務中尉、あの時のヘビーデセルの識別とは一致しませんが〉

 AIチューフは重ヴァルから発せられる電磁波や放射能などを元に過去のデータからの機体の合致を確かめていたが、以前のあの機体とは微妙に一致しないことがわかったためそれを報告する。こういった波長は同じ機種でも個体差から微妙に異なったものを発しているので、例え中身まで見れない状況でもそれらを感知できる設備さえあれば個々の機体の識別が一応は可能なのである。

「そんなことわかってる!」

 戦闘中であるためそれ以上は語らなかったが、ALはよく破壊されるので機種が同じでもパイロットが違うということは少なくない。確かにチューフの言う通り個の波長が違い、あのALがあの時の奴だという確証などどこにもなかったが、ヴィエイナは戦士の勘というべきなのか、そういった直感の類で同じパイロットだと感じ取っていたのだ。まさしくその因縁の相手であったリンドをヴィエイナは自らの技量の全てをもって、そして機体の性能を最大限に引き出してリンドを屠ろうとしている。

「お前こそ、今度こそ正解なんでしょう!!」

 激しくペダルと操縦桿を動かしながら彼女は一人吠える。今日彼と出会うまでにヴィエイナは計十二機もの重装型アルグヴァルを葬ってきた、だがその中に彼女の満足な結果を得られる者はおらず、そのたびにもう既にあの時のパイロットはどこかの戦場で死んでいるのではないだろうかと落胆していた。だが生きていた、確かに、この遠い異国の地で!

「クソッ!クソオッ!!」

 リンドは焦っていた、僅かに一発すらあのグライフに当てることが出来ないというのに、こちらは一方的に破壊されていっている。もう増加装甲の六割は剥がれ落ちてしまっており、厚いとは言えない中装型の標準装甲が大きく露出している。残った武装も殆どなく、辛うじて右腕に握られた突撃銃が残弾五発という、世界トップクラスのエースパイロットを相手取るにはあまりにも心もとないにもほどがある有様だった。機体は雨にも関わらず火を噴き、各所から油圧用のオイルやらなんやらを噴き出して地面に黒い溜まりを作っていた。僅かに二分とない、ほんの一瞬の出来事であったが重装甲重火力を誇った重ヴァルも今となっては鉄クズと変わらない。

「畜生、弄んでるのか……あいつは……ああっ!」

 遂に、フレームが悲鳴を上げて折れた。右ひざが損傷に耐え切れずに自壊し重ヴァルは姿勢を崩して地面に倒れこむ。少しばかり動いた左腕を使って機体を横にして右腕の突撃銃を向けたが、急接近してきたグライフがそれを蹴り飛ばしてしまった。そのままグライフは彼の周りを滑るように一周すると、あろうことか戦闘中にも関わらず重ヴァルの前で立ち止まり、機体を見下ろしていた。

「はあ……結局、お前もこの程度なのか……」

 長い間相対することを待ち望んでいた相手だったが、まさか一発ももらうことなくこうして終わりを告げてしまうことに、ヴィエイナは心底がっかりしていた。もし彼女が今そう思っていることを彼に伝えたら、どれだけ顔を歪めて泣くだろうか。彼女は静かにもう一度ため息をつくと、マシンガンの銃口をコックピットハッチに向けた。

「し、死にたくない……」

 目の前に大きく映し出された黒い銃口は、まるで光という光をすべて吸い込む宇宙のように感じられた。そう、命という小さな光なんて、一瞬で。リンドは必死で操縦桿を動かすも、先ほどの蹴りによって完全に右腕も死んでしまったようだ。彼は愛しい人の名を叫ぶ。

「セレーーーン!!!」

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