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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第四章 空と陸の邂逅
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暗夜隧道(2)

「……やったのか……?」

 反撃は来ない、が油断は禁物である。物陰に隠れて先ほどの反撃をやり過ごしているという可能性もあるのだ。ひとまず彼は機体をしゃがませると通信越しにボルトラロールが無事かどうかを呼びかける。

「隊長、隊長、無事っすか……隊長」

 被弾した正面装甲は丸くへこみそのパネル自体は歪んでいつ脱落してもおかしくはないだろうという有様であった。中々の威力を誇る武器らしい。

「メニェだったか、敵だ来るんじゃない下がれ」

〈敵でありますか、わかりました〉

 こんな狭いところでデカ物に後ろに来られたら退路を塞がれてしまい自ら八方ふさがり進まざるを得ないという状況には陥りたくない。通路に入ってすぐであったメニェはジュードルの言いつけ通りすぐに後退を始め分かれ道の分岐点へと後退して待機していた。

「どうだ……」

 第二撃は跳んでこないものの、やられたと見せかけてこちらを誘っているのかもしれないため迂闊には動けない。

「レーダーは……」

 レーダーの強度を強めてみたが、この惑星の磁場の関係か地下に潜った結果レーダーははっきりとせず使い物にはならなかった。恐らく通信能力を強化した指揮官型なら察知できるのかもしれないが……

 そこに気が付いたボルトラロールが現在の状況を確認すべくジュードルに尋ねた。

〈どうだ、機体の状況は〉

「そうっすね……胸部装甲がへこんで歪んでるからもう一発くらい食らえば落ちるかもしれませんよ」

〈あまりよくないなそれは〉

 良くないと言えばよくないのではあるが、だからといって攻撃を取りやめて地上に戻るというわけにもいかないため、ここは腹を括って突き進むほかあるまいとボルトラロールは立ち上がり機を進ませる。今度は左腕を前に盾の代わりにしライフルを構えたままでその後ろに機体一機半分の隙間を開けて両手に突撃銃もったジュードルが続く。メニェには更にその後ろにいつでも支援が出来るよう追従させていた。

「ふうー……」

 ボルトラロールはサーチライトで照らされた腕の両脇に覗く暗闇を睨みつけている。レーダーには何も映らないことからA兵器や戦車の類ではないと見られ、大方野砲あたりだろうと踏んでいた。それはそれで撃破しやすくもあるのだが、いかんせん熱量レーダーにはそうそう映らないので困ったものである。一旦サーモカメラに切り替えると、ほどなくした距離に何かが燃えているのが見えたのでもしやと思い速度を上げ状況の確認に映る。するとどうだろうか、通路を抜けた先には炎上している中型の対空砲らしき物体が一基あるではないか。

「やったなジュードル」

〈ええ、まさかやっているとは思いませんでしたがね〉

 あの目くら撃ちでよくもまあ命中させられたものだと自分自身でも感心していたのだが、それもある意味当然のことでまっすぐ伸びた通路の先に待ち構えているのだからまっすぐ向かって撃てばY軸さえ合っていれば命中するはずであった。

 ともかく、これにて障害は撃破したことで彼らは本命の物資集積地へとたどり着くことが出来たのであった。機体を降りて倉庫内の電気を点けたジュードルは、照らし出された広々とした地下空間に目を丸くする。

〈これまたよくもまあこんな穴掘ったもんだよあいつらは〉

 どれだけ広いだろうか、そこに積み上げられた物資は五個旅団が一カ月は戦えるのではないかという量の物資で、地上に広げられていた物資が氷山の一角とは思いもよらなかったものでもしこれを焼き払うことが出来たのならば今後しばらくの間は連合軍は戦闘行動を碌にとれないだけでなく戦線の縮小を強いることが出来るかもしれないと気づいたとき、ボルトラロールの背中には冷たいものが流れていた。

「焼き払うぞ」

 とはいうものの、ボルトラロール機の火炎放射器は破損しているため使用が出来ない、グレネードはあるもののそれでは一部を吹き飛ばすことはできても焼き払うという行為までは出来ないので頭に手をやった。

「どうする……そうだ」

 考え始めたもののすぐに代案を思いつきライフルを一度置いてヘビーハチェットを持つと破損した左腕の火炎放射器発射口をゴリゴリと削り始めたのだ。

〈なにやってんです〉

 ジュードルはALの足で物資を蹴散らしながら立ち止まって何やら変なことをしている隊長に声をかけたが、彼はすぐにわかるというだけで詳しくは語らなかった。指揮官としてそれはどうなのかとも思ったのだが、ここは一つ彼に任せてみることにする。上手く切り込みを入れると、火炎放射器の燃料供給パイプに作られた裂け目からさらさらとした無色透明な液体が漏れ出し始めた。それを垂れ流しのまま彼は腕を突き出し物資の上からかけていった。

〈ははあ、なるほどねえ〉

 合点のいったジュードルは何度もうなずきながら物資を踏み潰して圧縮していた。火炎放射器が使えなくなった代わりに燃料だけでも使用して何らかの方法で着火、少しでも多く焼き払うつもりのようだ。よい考え方ではあったのだが、元来空挺用のため内臓タンクの小さいアルグヴァル一機に搭載できる燃料は限られていたために、物資の千分の一にも満たない量に燃料をかけたところで切れてしまうのだった。

「困ったな」

 彼はここでまた別の二つの不安材料に気づき天井を見上げる。まず一つ目に、ここは地下の閉鎖空間であるため燃焼させる空気の量が限られているので物資を完全に燃やしきれないかもしれないということ、そして二つ目にこういう場所柄当然の如くスプリンクラーのような防火設備が整っているであろうということであった。

 これくらいのことは、作戦司令部も事前情報を得ている時点で把握していたのではないだろうか、にもかかわらずそれに対処するための策を講じられていないというのはあまりにも杜撰さに程があるといえる作戦だ。

「こうなると、使えるのは……」

 と彼が目を向けたのは、入り口付近の物資を踏み潰して破壊しているメニェの重ヴァルであった。使うとしたら、重ヴァルの火力であるがこれだけの量を焼き払うには例え重ヴァルでもまるまる一機分の弾薬全部を使ってもまだ足りない危険性は十分に考えられた。だがしかし、現状最良といえる手はそれしかないため、彼はメニェにありったけの火力で物資を焼き払うように命じた。

〈は、わかりました〉

 了承した彼は、各武装のチェックに入るとボルトラロールから送られてきた座標データを用いそれぞれの弾を発射する方向、着弾地点それと起爆時間などを設定する。ただ焼き払えばいいというわけでもない、一方向から一掃してもその周囲ばかりが破壊されて奥の方は無傷ということはよくあるものだ。

「天井も破壊することになる、だから破壊後すぐに脱出を行うぞ。と、ちょっと待ってくれ」

 メニェに発射の体勢を取らせたまま彼はあるところに連絡を取る。それは同じように地下にもぐっているリンドとスライであった。

〈なんでしょーか〉

 まだ信頼しきれていないということが読み取れる声色でスライは返答する。

「これから物資を焼き払うが地下の崩落を起こすかもしれない。そちらの現状は」

〈あー……こっちは外れでしたがねえ。ほぼほぼ空っぽだもんでリンドと地上に戻ってます〉

「わかった……マルーグル中尉、よろしいですか」

〈…………あ?少尉かどうした。こっちは順調だ、ALが出てきたが軽くしばいたぜ〉

「これより物資を焼き払いますが基地の崩落を招くかもしれませんので注意をお願いします」

〈崩落?……あー了解〉

 これで一応全体に通達はしておいたので大丈夫なはずだ、ボルトラロールはジュードルに先行して戻らせておくとカウントを開始する。

「軍曹、いいな?十、九、八…………三、二、一、やれ!!」

 彼の合図とともに四方へとロケットや弾薬が吹き荒れた。積み上げられた物資はあちこちで吹き飛び焼き払われ、炎上していく。それと同時に天井も破壊されていくために火災感知器は異常を起こして一部分でのみ散水を開始していた。

「脱出だ!」

 あらかた弾薬を使い果たした重ヴァルは、各種武装を切り離しある程度身軽になるとボルトラロールの後を追う。幸いにも基地の作りが予想を上回って上部であったために大惨事を免れることはできたものの、地上に戻った彼らを待ち受けていたのは悪夢であった。

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