ジッタ要塞攻略戦
ようやく森のとりわけうっそうとした部分を抜け、目的のジッタ要塞の最前面まで250ミラスというところに差し掛かった。ここまでくるといままで殆ど見ることのできなかった味方の姿が見え始めた。現在目視できるだけでもALが10機、AWが18機、歩兵も一個大隊ちょっとはいるようだ。それに車両もちらほら。レーダーに映っているA兵器群は40そこらである。ということはこれが本体ということか。
「撃たないでください。自分は第21空挺連隊第5小隊所属、リンド・オーセス伍長であります」
「自分も同じく21空挺連隊第6小隊所属ロレード・マオール伍長であります!」
二機の接近に驚いた味方がこちらに一斉に銃を向けたため、慌てて名乗る。目視でも、識別でも友軍と分かったために、味方はすぐに銃を下し再び要塞のほうへと注意を向け始めた。皆もうすぐ始められる要塞攻略のための準備で大わらわのようだ。
〈私は第1中隊長ヴェケラ中尉だ。よく来た〉
ALの内の一機、隊長機使用のアルグヴァルから野太い男性の声が飛んできた。第1中隊長ということは、第2中隊に所属する二人の直属の上司ではない。
「あの、第2中隊長殿は!第5、第6小隊の残存兵は!」
緊張からか、上ずった声で彼は中尉に尋ねた。すると一瞬間をおいて中尉は答えてくれた。だがその声は芳しくないということを示していた。
〈んん、残念だがレレ中尉も君らの小隊員も誰一人としてまだ到着していない。君たちが最初ということもありうるが〉
「そ、そうでありましたか。ありがとうございます!」
落ち込んでいたが、慌てて気合を入れ返答をした。そうだ、まだ後から来ている可能性だってあるのだ。単に自分たちが少し早かっただけなのかもしれない。
〈1400より攻略戦を開始する。君たちは臨時的に第2小隊へ編入する。彼らと共に行動しろ〉
「ハッ」
〈ハイ!〉
二人は返事をすると敬礼をした。パイロットの腕の動きに合わせて腕が動く。シェーゲンツァート式の敬礼は、右手を少し前に出し、肘から先を地面に垂直に立て手のひらは相手に向け指先を伸ばす、という方式である。これはALのプログラムに最初からインストールしてあるため、パイロットが敬礼をする動作を検知すれば、自動でALも敬礼をするという便利なものになっている。最も、ほぼすべての国のALができるのだが。敬礼をして改めて、リンドは自身のALの右腕が3分の1ほど失われていることを認識した。
「申し訳ありません!」
〈構わんよ。ほら行った行った〉
「失礼いたします」
二人は第2小隊の表示のある場所へとむかう。しかしこうも人が集まっていてはALのような巨大兵器は動きづらいことこの上ない。うっかり足元の人や物資を踏み潰してしまわないように慎重に警戒しつつ歩かなければならないのだ。ある意味戦闘よりも神経をすり減らす作業かもしれない。とりわけ今は下もドタバタしているため猶更だ。
〈通ります。通ります〉
二人は外部スピーカーを通じて足元に呼びかける。下にいる生身の兵士たちは上を見上げてはぎりぎりのところをよけていくため、二人は驚いた。
「どうも慣れているらしい」
〈よくやるよ、ったく〉
肩をすくめる。生身で戦うということはそれなりにやはり度胸がつくものなのであろうか。
二人は十分もかけてようやく指示された第2小隊のもとへとたどり着いた。そこには三機のALと複数の装甲車や歩兵が構えていた。指揮官型、中装型、補給型の三機である。
「オーセス、マオール両伍長、着任いたしました!」
敬礼をする。
〈ああ、お前たち。新兵か。よく生き残ったもんだな、俺はリムス少尉〉
「よろしくお願いします」
〈でこっちがシュラスラ軍曹、でこっちがマカンシー伍長だ〉
リムス少尉のアルグヴァルの手が、それぞれ中装型と補給型を指す。シュラスラのほうは短く返事をしただけでそのまま武器のチェックを続けていた。一方マカンシーのほうは、戦闘慣れしていないのかはたまた二人と同様に新兵なのか、上ずった声で返事をした。
〈マカンシー伍長です!よろしくお願いします!〉
「よろしく」
〈よろしく頼むよ〉
二人はできるだけ自身の緊張を悟られまいと振る舞い言葉を返した。
〈ちと傷ついてはいるが、重ヴァルが来てくれたのはかなりありがたい。お前がいるかいないかで作戦の成功度合いは変わってくるし、生きて帰れるかも変わってくる〉
「はい」
もうすぐリンドは敵の要塞の防御火力の正面に立たされる。覚悟してはいたことだが、やはり改めて現実と思うと胸の奥から恐怖がわいてくる。晒される火力は今までのものとはけた違いのはずである。要塞には重機関砲や重砲、地雷に大型迫撃砲、ロケットタレットなんかがあると教本には書いてあった。特に重ヴァルに乗ることになる者たちには、一際注意が教官より促されたというものだ。
〈なあに心配するな。何もお前だけにやらせるわけじゃあない。きちんと援護射撃するさ〉
彼の重大な緊張を感じ取っていたリムス少尉は、少し声をおどけさせて緊張をほぐそうとしてくれていた。だが新兵である彼には、先輩のその気遣いに気づくほどの余裕はなかった。
シェーゲンツァート帝国:フララ海と東シェーグ海の間に存在する小大陸国。現帝王はケレス・マゴル・ラローフチュール8世。周囲を海に囲まれているため、古くより貿易業や漁業が盛ん。国民の九割九分がミレース人で構成されている。軍事面においては海軍が盛んでオースノーツ、フラテリアに次ぐ規模の海軍を保持している。技術においても非常に優れており、ALの設計のコンセプトは重装。
オースノーツ共和国:最大の大陸国。オースノーツィア大陸の一部を除いてほぼ全域を領土に治める。現大統領はシャッツィ・マシュノフア。ブラヴィア人とカルカラ人で主に構成されている。陸海空どれをとっても大規模で技術面でもほぼ一位である。今大戦の元凶である。ALの設計は、資材や軍備などに余裕があるため、他国とは異なり多少芸術的な面が見て取れることもあるが、性能は優れている。
クルイテ共和国:ミストラ大陸の内陸部に位置する小国。国土の三分の一がシナイの森で占められており土地自体も山がちであるため、あまり居住には適していない。林業が盛んで、またかつては宝石であるカッテタイトが良く産出していたため、枯渇する前までは良く狙われていた。資源をあまり持たないため使用兵器は小型で燃費に優れている。ALなどの設計は隣接するシャマーナ共和国とパガウィ民主主義共和国と協力している。
補給型アルグヴァル:各所にサブアームとマウントラッチを増設し、大型コンテナをしょっている。コンテナ内や機体の増加ポケット内に大量の弾薬やガソリンを搭載しており、必要に応じて味方に補給を行う。装甲が重装型同様厚いため、銃弾が飛び交う中での補給活動が行える。ただしガソリンの補給は非戦闘時のみという規定がある。