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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第四章 空と陸の邂逅
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進軍セヨ(2)

「揺れるなあ」

 ポーティアによって露天宙づりの状態で空を飛んでいたリンドは、パワーバーをかじりながらそうぼやいた。何せいつもの輸送機や大型輸送ヘリと異なり今回のへりは内部に固定されておらず、四本のワイヤーのみで支えられているのと機体を覆うものが一切ないということが相まって、風の影響をダイレクトに受けており機体はゆっくりとした揺れを続けていた。幸い彼は船酔いとは無縁であったためこの揺れにも難なく対応はできていたが、ジュードルはあまり得意ではなかったようで時折無線からは呻き声が漏れ出していた。

 リンドはモニターのマップを確認する。降下地点まで残り十分を切ったところに差し掛かっており、この直前にも既にボルトラロールから準備をするように隊員に向けての注意が下されたばかりであった。

 こういった状況で彼が食事をとれているのもひとえに戦いにようやく余裕を持てるようになったために過ぎない。今までは移動中でも効果のニ十分も前には既に緊張で水すらまともに喉を通らないという有様であったが、この一年間の激闘が彼を確実に一人の青年から一人前の兵士へと成長させていたのだ。

 パワーバーを片手にリンドは椅子の下から水筒を取り出して中身を口に流し込む。中身は同盟国のキサナデア軍所属の主計科の兵が入れてくれたパンダマという水らしい。見た目はただの水だが、作るときに容器に一緒にテジュハンパーという向こうの地方によく見られる柑橘類をスライスしたものを入れているらしく、爽やかな風味が彼の神経をさっぱりとさせてくれる。

〈降下まで残り五分〉

 ヘリの方からもうすぐ降下開始であることを知らせられ、水筒をしまうとパイロットスーツの上に散ったパワーバーのクズをパパッと払い顔を引き締める。もうアルグヴァルの操作にも慣れたもので、今では空でいくつかの操作が出来るようになっている。メインモニターが切り替わり、周囲の景色が四枚のディスプレイに投影される。映る景色はとても近く、そしてあっという間に通り過ぎていった。いつもの輸送機ならば降下の瞬間まで見えるのは格納庫の中であるためこういった景色を見られるのは珍しい経験で、収容所から脱出したときのことを思い出してしまったので、彼はバツの悪そうに目を瞑った。

〈降下地点到着、これより降下を開始する〉

 いよいよだ。ヘリは次第に速度を落とすと完全に停止し、低空でのホバリングを始める。十機のポーティアは先頭のものから順次止まるとどんどんALを切り離していき身軽になる。最後にリンドの番が訪れ、大きな音が響いたかと思うと、途端に機体は重力に引かれて真下へと落ちていく。地面まで残り五十ミラスだが、オートでシステムがスラスターを吹かして減速させ速度をかなり落とした状態で重ヴァルは着地した。大きな衝撃がアルグヴァルの優秀なサスペンションとシートクッションを通してリンドの体を揺らしたが、これくらいどうってことないのだ。

〈全機降下完了したな〉

 ボルトラロールは第四小隊並びに第三小隊の全機が降下完了したのを確認すると、三小隊の体長と短く言葉を交わし作戦通りに隊を散開させる。十機のALはそれぞれ四十m程の感覚で広がり、それぞれ重ヴァルと砲ヴァルは六機の指揮・中ヴァルの後ろからそれに続く。全ての機がレーダー出力を最大に引き上げておりいかなる金属反応も逃さない。リンドもいつも以上に神経を研ぎ澄ませて進んでいた。

 彼らは見つからないように慎重に進む必要があったが同時に可能な限り早く抜けなければならなかった、その理由はこの地点はまだ山の麓であるため木々の無い岩肌が露出している。そのためALたちは皆全身を晒してしまっているのだ。それゆえに三km先にある森へと素早く移動する必要があった。

 急ぐALだが、足場は悪く常に傾いた地面と表面を覆う砂利が百ガトン以上の機体を滑らせていく。遂に第三小隊所属の一機の中ヴァルが足を取られて転倒、大きな音を立ててしまった。

〈フーラー!〉

 三小隊の隊長が足を滑らせた機のパイロットの名を口にした。

〈申し訳ありません!〉

 パイロットは無事なようで、機体もすぐに立ち上がるが塗料の剥がれ以外には外傷は見られなかった。彼が無事であることを確認すると再び部隊は前進する。森にたどり着くまでの時間は非常に長く感じられ、その間にもリンドだけでなくスライやボルトラロールですらも機体を滑らせ姿勢を崩していたが、リンドが滑って膝をついたくらいで済み、それなりにスムーズに隊は山地を抜けることが出来た。とりあえずの危険箇所は脱した彼らは、それまでの慎重さを維持しつつ速度を上げていく。このあたりは地盤が固く、ALのような重量物が歩行しやすい地形となっているため、部隊は会長に進むことが出来た。

 だが、そんな余裕もこの日だけであった。翌日からは柔らかい地面に変わり、その上天候は次第に悪化、空は昼だというのに既に薄暗く覆われてしまっていた。

「一雨くるだろぜってー」

 リンドは汚れたタオルで顔を拭きながら、モニターに映る空を見てひとりごちる。雨はALの天敵の一つだ。まず第一に、鉄の塊であるALは、錆止め塗装が施してあるとはいえ雨はあまり好ましくなく、放っておけばいつの間にか端から錆が生じていることがよくあるのだ。そして精密機械でもあるために湿気や錆、水気によって故障することはいくらでもある。

 第二に地面状態の悪化であった。一、二ガトンそこらの車さえもぬかるみにはまればそう簡単に抜け出すことが不可能となってくるが、その百倍も場合によっては二百倍もの重さを持ったALがそういった悪路に一歩足を踏み入れればどうなるかは想像は容易である。おまけにALは車に対し接地面積がすくないために一平方mあたりに分散される重量はかなり高くなってしまうのだ。だが、ALが完全に脱出不可能な程沈みこんでしまう泥沼などまずそこらへんには無いことが救いであった。

 とはいえ、やはり泥沼を進むのは避けられるものならば避けたいというもの。関節に泥が詰まれば故障を誘発しかねない。一同は泥によって足を取られ行程が遅延するのを恐れ進行速度を速めていった。

〈誘導作戦はうまくいってるようだな〉

 三小隊隊長は、二日目の夜にそう口走った。

〈偽情報でありますか?〉

 リンドは思わず尋ねる。

〈そうだ、前線にこっちの将軍が視察にくるっていうな〉

「なるほど、だから全然敵が……」

 今回の作戦に際し、同盟側は降下地点からできるだけ遠くの地点で陽動の攻撃を行った上に、さらにまた別の方角で将軍の視察という欺瞞情報を流し、そちらにも敵戦力を分けさせたのだ。おかげで彼らは敵と遭遇せずに済んでいるというわけだ、今の所は、だが。

 十機のALは一角で一小隊ずつ円を組んで休息に入っていた。五機のALが背中合わせになってしゃがんでいるのにはわけがあった。この方法ならば、敵の接近に気づきやすいということと、正面装甲を向けているので奇襲にも耐えられるということ、そしてすぐに敵に向かって反撃がしやすいということであった。

 四小隊は輪の中心で集まって食事をとっていた。彼らが口にしているのはレーションである。昨日の内はゴミの出ないように配慮された食事を持たせてもらっていたのでそれをとっていたが、流石に二日目までは残ってはいなかったので、冷めたレーションを食べていた。火は見つかる可能性が高くなるため付けられない。

「ふうー」

 セレーンの部隊は無事ついただろうかと考えていたところ、彼の鼻に冷たいものが当たる感触がし、まさかと見上げると、すぐに本格的に雨が降り出し始めた。

「げーっ」

「濡れるのは勘弁だぜ」

 彼らはすぐに機体に戻るとコックピットへと戻った。ボルトラロールはコックピットに入りながらヴィレルラルに何もなかったのかを尋ねた。

「どうだ、何か見たか」

 彼の問いにヴィレルラルは短く否定する。全員が一斉に食事をとっていたわけではなく、一人ずつ交代で機に残り見張りを続けていたのだ。

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