超高速降下(3)
「どうして……そうか、そういえば補給部隊……」
本国の病室でのセレーンとの会話を思い出したリンド、二人は見つめ合ったまま時間がゆっくりと流れているかのように思われたが、スライの声が彼を戦闘に引き戻した。
〈おいリンド!!何やってんだ、戦闘中にハッチ開けて正気かぁ!〉
「す、すみません戻ります」
〈ったく、お前時々イカれたことやらかすよな……〉
彼は急いでシートに戻るとハッチを閉めて機体を立たせた。セレーンの方も既に頭を引っ込めており彼女の運転するトラックは遅れながらも再び車列へと戻り帰途を急いだ。今の所追撃は全て撃破されておりこの間に出来るだけ増援から離れなければいけないが、果たしてこの遅延している車列が猛追する敵の手からどれだけ逃れられることだろうか。そのために、彼らAL空挺部隊が派遣されたのだ、これ以上味方に損害を出さないように護衛しつつ彼らも下がらなければならない。
〈今の間はとりあえず我々も下がるぞ、急げ!〉
「ハイッ」
リンドが元気よく返答をする一方でやはりスライとジュードルはあいまいで投げやりな返事をするだけであった。
八機のALは、軽い損傷を受けながらも足元の悪い山道を走っていく。重装型故リンド機と、同様に重たいヴィレルラル機第三小隊も同様に少し遅れてはいたものの、このままの速度を維持できれば十分に逃げ切れる速度であった。こうしてこのまま敵に追いつかれることもなく空挺部隊と補給部隊は、基地にたどり着くことが出来たのであった。
夜、彼らは目的地であるバストマー連邦の元前線基地であったマジットーン(旧ハウガンダーランドン陸軍基地)にて休息と待機のため腰を下ろしていた。マジットーン基地は元から車両の集結基地として運用されていたため、地下を含め車両用駐車場がかなり大きくとられており、五十一両の車両が一度に押し寄せても受け入れられるだけの許容量を誇っている。これから二日ほどで車両の修理と部隊の再編が行われ、次の補給を必要とする戦線まで再びアクセルを踏み込むのであった。
二つのAL小隊も彼らと同様にここで休息をとっており、回収の時を待っていた。回収用の大型輸送ヘリであるポーティアによってここからつりさげられた状態で二百二十キロ弱離れた航空基地まで戻ることとtなる。回収はポーティアが現在出払ってしまっているため早くとも五日後になると言われており、彼らは数日の間ここでつかの間の休息を楽しむこととなった。
基地にて色々と雑務を終えたリンドは、当然ながら補給部隊がたむろしている整備場へと足を運んでいた。目的はもちろんセレーンと会うためである。彼は基地の人間や補給部隊の者たちに彼女のことを尋ねて回り、ようやく彼女に出会えたのは日が沈み始めるころであった。彼女は整備場ではなく、駐車場にいたのだ。
遠くから見覚えのある人物がやってくるのに気づいたセレーンは、それまで話をしていた同僚に断って彼の元へと走り寄る。二人は次第に走る速度を速めると、強く抱きしめ合った。二人の若いカップルが、再び戦場にて再開したのだ。彼のことを聞いていた彼女の同僚はニヤニヤとした表情で二人を見ながら囃し立てたので、セレーンは笑いながら手を振って向こうを向いててというジェスチャーをした。
「ああ、リンド……元気になってよかった」
セレーンはついこの間の痛ましい姿で病院のベッドに横たわっていた恋人の姿を思い浮かべながら、こうして走って勢いよく抱き合えている現状に感謝していた。
「セレーンこそ……会えるなんて」
この広い広い星で、互いがどこで戦っているか何て知る由も無い。それなのにこうも偶然にも同じ場所で、しかも護衛対象として遭遇するというあまりの奇跡を彼らは信じられないと同時に素晴らしく思っていた。
「無事でよかった……本当にああもう!」
伝えたい言葉が多すぎて、リンドは混乱していた。
「ちょっと離れたところで話そ?」
興奮冷めやらぬ二人は、人目を避けるために駐車場の屋上へと向かった。屋上は解放されているものの、現在は運よく人気は少なく数人が球技をしたり喫煙や読書をしているくらいで、二人は難なく端の方に行くと、出っ張りに並んで腰かけた。
「リンドはあんな風に落っこちてくるんだね」
セレーンは運転席から、向こうから飛んできた輸送機からALが何機も降下してものすごい速度で滑り降りていくという、彼女からしたら恐ろしいことこの上ないような行為をしている彼ら空挺部隊をしっかりと目撃していた。
「あーいや、さすがにあれは初めてだったけどさ、ま、でも……そんな感じかな。輸送機からぽいっと降りてるね」
本当のことを話したが、ほぼ毎回撃墜されて地面にぶつかっているというダサいことは知られたくなかったので決して口にしなかった。それで思い出したが、今日の転倒を見られていなければよいのだが、と彼は恋人にかっこ悪いところを見られていないだろうかという不安で胸がいっぱいになっていたが、幸い彼女はそれについて言及することなかったが、そもそも彼女はアルグヴァルごとの違いなど分かっていないのではないだろうか。だがアルグヴァルの傷を見られたら疑問に思われかねないので彼女が外のALを並ばせている場所に行かないことを願っていた。
それから二人は病室で離すことのできなかった様々なことを話した。会えなかった間のこと、家族のこと、友人のこと、戦闘以外のことを沢山話し込んだ。気づけば日は完全に落ちて屋上には二人以外の誰もおらず、消灯時間に遅れてはならないので時間を確かめると急いでその場を後にした。
「ようリンド、何してたんだ」
部屋に戻るなり、ベッドでポルノを読んでいたスライが横目で一瞥して尋ねた。他の隊員は隊長以外は既に戻っており、それぞれ筋トレと読書に耽っていた。
「ああ、友人と話してて」
「へえ、ダチと会えたのかよかったな」
「ええ」
リンドは追撃を受けないうちに寝てしまおうと靴を脱いでいると、背後からジュードルに話しかけられたため、彼はドキッとしたが内容は彼の不安の予測とは異なっていた。
「同期か」
「あ、えーっといえ、歳は同じ何ですが向こうは特殊兵役で去年から……」
「ああ……」
特殊兵役とは非軍学校出身者が一年の短期教育を経て短期間で兵役につくというものであり、いうなれば徴兵であるが、ただの徴兵ではなく国学院出の学のあるものにのみ適用される制度であった。ある程度の学力、知識、知能のある彼らなら呑み込みが早く教育内容もいくらか薄くできるためであった。
「最後に俺の同期とあったのは……一年前、丁度そんくらいだったかな」
どことなく重苦しい雰囲気になってきたので、リンドは話の続きをなんとなく予想出来てしまっており、返答をどうするか悩んでいた。
「あいつは十の時からのダチでな、砲兵科に入ったんだ……あいつが最後の同期のダチだったな。でもま、お前も予想出来てるかもしれねえけどあいつは死んだよ。二カ月前だったかあ、乗ってた輸送船が沈められてさ……まったく兵士として一番ヤな死に方だぜ、戦って死ぬんじゃねえ、運ばれてる途中でなんてえ俺ぁ御免だ……」
「ま、何を言いたいかってえとな、仲間は大事にしろよ。あいつが生きてるから俺もまたあいつと会いたいって思えんだよ……はあーあ」
そこまで言うと、スライはこちらに背を向けてしまった。薄暗い女優のヌード写真が目に入り、彼はつい目を背けていた。
彼の同期、友人はセレーンを含めて八人が軍属になっている。自分は本国の情報が入ってこないので最新の情報を家族や仲間と共有出来ないが、もしかすると誰かが死んでしまっているかもしれない。ふと、初陣で出会ったマオール伍長のことを思い出し、彼が今どこにいるのかを考えてしまっていた。もう声も忘れてしまった。顔すら見ていない彼の……
恋愛ってどう書けばいいんでしょうかね。一生書き方わからないと思います。




