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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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降り注ぐ矢

「新たな指令は」

 まさかと思ったヴェルケが尋ねると、ヒエルたちはないなと否定し彼は愕然としていた。もはやこの国の防衛能力どころか国としての機能すら果たしていないのではないだろうか、と。この国を守ることに意義があるのか、彼の信念が珍しく揺らいでいた。しかし、その彼に戦う意思を改めて刻みつけたのはほかならぬセバ軍の兵士たちであった。

「命令がなくとも、俺たちは軍人だ。こっちに攻めてきた奴らをぶちのめして国民を守るのが役目だからな。俺たちにも家族はいる」

 そうだ、例え国がつぶれていようとも、戦う意思を人々が持っている限りそれは敗戦ではない。

「素晴らしい、では迎え撃つ準備ができたなら配置につこう」

 四人は解散しては位置につく。それから敵が第二波が襲ってきたのはそれから二時間後であった。



「対空砲用意!」

 低空で侵入してくるロケット爆撃機隊に対抗するべく、対空砲が起動する。キサナデア帝国軍のメジャーな対空機関砲であるAAAC/011 3.7㎝二連装対空機関砲は、威力、発射速度、射程どれも一線級レベルで申し分ない威力を持つが、欠点として重量の重さと冷却性にほんの少し改善の余地があるというものがあった。こんな対空砲でも、僅かに一門だけではその真価も発揮できない、弾幕こそ対空戦闘の身なのである。

 対空戦車でもあれば、とヴェルケはないものねだりを心の中でしていたが、生憎とセバには対空戦車のような余剰機甲戦力はない。トラックの荷台に対空砲を載せるので精一杯だろう。

「いっそこいつで撃ちますかね」

 などと冗談めいてヒエルはヴェルケに尋ねてみたが、向こうは不機嫌そうな声で冗談ではないと返して来たので、ヒエルは少し落ち込んでしまっていた。

「ああ、ニ十機はいるかな」

 フルムーン軍曹は、塹壕の中からバリケード越しに見える飛行機を見て、消え入るような声でそう呟いた。爆撃機にここ一帯を焼き払われれば、どんなに隠れていてもどんなに重装甲の戦車でも吹きとばされてしまう。ALでもそうだろう。

 オースノーツの言葉でヤマシロオオワシの名を意味するオースノーツ空軍のロケット爆撃機ヴァイナンザーはその名の通り爆弾ではなくロケットを搭載した低速の爆撃機で、そのペイロードは最大四tものロケット弾頭を搭載できそれらを低空から侵入して広い範囲にわたってばらまくことで相手を焼き尽すのである。ロケット爆撃機であることの最大の利点は、通常の爆撃機が目標の上空を通過しなければならないため、爆撃機隊が敵の対空砲火に晒されやすくなるという欠点があるのに対し、ロケット爆撃機ならば敵上空に侵入せずともロケット自らの推進力を用いて遠距離から敵に爆撃を浴びせることが出来るのである。まさに、ホーミング兵器の発達できないこの星ならではの考え方である。

 そんな爆撃機がニ十機前後も来たものだから、彼らは絶望するのも当然である。もし敵がロケットを満載していればこちらはここで終わりで、弾頭の種類によってもそれらは左右される。

「対空砲、砲撃開始!」

 ヴェルケの指示と共に、後方に控えている対空砲から次々と砲弾が空に向かって発射される。数発に一度仕込まれている曳光弾が、綺麗な曲線を描きながら空へと吸い込まれていく様子は、実に不思議な光景で、セバ軍の兵士たちは目の前に死が近づいているのも忘れ魅入ってしまっていた。

 想像よりも遠くからの対空砲の迎撃を受けた爆撃機隊は、急いで散開していき爆撃コースから半分が離れていく。横っ腹を晒した爆撃機隊に対空砲が牙を剥き、一機が胴体ど真ん中に直撃を受け瞬く間に火を噴き、機体は真っ二つに折れて地表めがけて落ちていった。だがしかしもう半分はそのままのコースで陣地に侵入してきている。対空砲は旋回が間に合いそうもない。爆弾槽が開き、大型対地ミサイルが姿を現す。

 ここで彼らにも少し運が向いた、この爆撃機隊はロケットを半分以下の量でしか懸架していなかったのだ。理由はミサイルを運んでいた輸送船団が、同盟軍の攻撃により打撃を受けかなりの数が沈没していたためだった。しかし同時に、そのかなり危険な襲撃作戦により同盟側も潜水艦二隻とALを六機、駆逐艦を一隻喪失していた。そんな彼らの命をなげうった攻撃が、命を救ったのだ。

 ニ十発の対地ミサイルが白煙を吹きながら彼ら目がけてまっすぐ飛んでくる。キューポラより体を出していた車長らは既に車内に身を隠しハッチも閉じている。乗員は衝撃に備えた体勢をとり歩兵たちも塹壕に身を潜めて目を瞑っていた。ただ対空砲だけが独り勇ましく迎撃を続けていた。

 着弾、橋を上手いこと避けたロケットの群れは、対岸の土手、川、斜面、陣地付近に満遍なく降り注いだ。あまりに大きな爆発が周囲を熱風で包み、木や草を根こそぎもいでいく。しかしそれでもそのほとんどが外れたのは、彼らが偽装によってうまく隠れていたおかげだろう。

 が、それでも、当然被害は及んだ。一発のロケットが二号車の至近に着弾し二号車の右側面を焼いた。爆薬が薄い側面装甲を食い破り、車体後部を破壊しつくした。

 二機目のヴァイナンザーが火を噴いて畑に落着したと同時に、ヒエルは外の安全を確認すると車外に飛び出した。あたりはいたるところで炎が立っており、散乱していた農民たちの落とし物や車両がひっくり返るか跡形もなく消滅していた。

「二号車!」

 彼が駆け寄ると、二号車は煙を吹いており左側面からでもわかるくらいに損傷を負っていた。

「無事か!」

 彼はハッチを持ち上げると中の様子を覗き込む。中では火がついたらしく明るいものがちらついている。乗員たちはぐったりとして反応がない。

「中尉、二号車がやられた!」

〈クソッ!〉

 ヴェルケは報告を受けると悪態をついて操縦手に様子を窺いに行かせ、自分はキューポラから顔を出して逸れていく爆撃機隊から目を離そうとしなかった。

「中尉、装填手が死亡、あとは車長以下四名が負傷のようです」

 様子を見てきた操縦手が彼に二号車の状況を説明する。

「車両は?」

「ダメですね、射撃はできると思いますがエンジンが破壊されて砲台にしか使えなさそうです」

「わかった」

 彼は目元に手を当てため息をついた。ここで駆逐戦車が使えなくなったのは痛い。おまけに乗員も死傷している。彼は敵が来ないうちに簡単に作戦計画の練り直しを考えていたが、セバのほうはそういうわけにもいかなかった。誰かが声を上げ、セバ軍兵士は一斉にそちらを見る。そして彼らの悲痛な叫びと怒りに打ち震える声が車外より聞こえてきたので、彼は引っ込めていた頭をもう一度出して後方を向いた。

「なんと……」

 彼はそこにあった光景に言葉を失った。陣地の後方に逸れたロケットは、最後尾をゆく農民たちに着弾、数十名の無辜の市民を殺していたのだ。炎に包まれた遺体は、各所に飛び散っており誰も生存者のいないことがわかる。辛うじて被害を免れた者たちは、皆パニックに陥って前へ前へとおしあいへしあいするか、泣き叫びながら遺体に縋っていた。

「うおおおおお!!!!」

 ヴァートンが怒りに吠えた。

「ウッスナウの奴ら!!市民を狙うのは条約違反だろうがああ!!!」

彼だけではない、他のセバ軍兵士も皆同様に復讐心に燃えていた。彼らは犠牲となった市民たちに駆け寄ると、遺体を焦がす火を上着を脱いで消し始める。

「おい……」

 配置に戻るように彼らに声をかけようとしたヴェルケであったが、兵士の一人に鬼の形相で睨み返されてしまい、彼らを止めることはできなかった。

 彼らは皆泣きながら、遺体を抱えて集めていた。

 ふと、キサナデア帝国軍の兵士たちは、もしキサナデアが戦地になればキサナデアの国民もこうなるのだろうかという考えが頭をよぎった……

バレストの章を改訂し、章題をクウィールと変更しました。

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