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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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橋(4)

 アルカムB型より放たれた榴弾は、一発で装甲車の内一両に命中した。とは言っても前輪に命中したのであって横っ腹に直撃したわけではなかった。されど装甲車にはどれでも十分な威力を発揮していた。前半分に大きな裂け目を生じさせた装甲車は、その場に停車して炎上している。脱出する乗員が一人砲塔から這い出てきたが、その体は炎に包まれており彼はのたうち回って十秒ほどで動かなくなってしまった。

「いいぞ。次!」

 さらにもう一発撃つ。装甲車の方も回避運動に入っているが、横から見るとどう動いても大して位置が変わっているようには見えずすぐに二両目、三両目と撃破されてしまった。装甲車は一両も回り込むことが出来ずに全滅を喫した。

〈AW、来たぞ!〉

 ヴェルケが声を張り上げる。戦車も十分な脅威となるが、AWはまた異なった種の脅威を持っている。高い機動性と軽快な運動性、前後左右に動く速度と俊敏さは戦車に勝る。敵が持ってきたのはフーリーンという全面装甲が付いたタイプのAWが六機と、クァーメンスSという装甲は最小限だが機動性がさらに向上しているものを六機で、重軽合わせて四個小隊といったところか。フーリーンの方は大型ロケットポッドや大口径の速射砲を装備したタイプがおり、それらを優先的に撃破する必要がある。AWは装弾数は少ないが

ALの携行武器と単発で同じ威力を運用できるのが特徴で、ALよりも小型な体躯を生かして大火力を持ち込めるのが最大の利点である。

 恐らく、というよりほぼ確実にフーリーンが積んでいる重火器はヴィルトリエの正面装甲をも破壊できる威力を持っているはずだ。こんなすぐにやられてはたまらんと、ヴェルケは二号車にAWを狙うように指示した。

「重装タイプのAWを先に狙え!細いのはあとで構わん!榴弾のままでいい!フィーレン撃て!」

 ヴィルトリエの砲塔が旋回してフーリーンのど真ん中に狙いを定める。重装型のAWと言えど、この122㎜砲の直撃には耐えられまい。少しはやりがいのある相手の登場に彼は満足そうに眼の横に皺を作ると砲撃を命じた。車体に対し少しばかり口径の大きなヴィルトリエMk-2の砲は、大地が割れんばかりの大音量をけたたましく生じさせ車体はノックバックする。

 一秒と経たずにAWに命中した榴弾は、AWに激しい衝撃を与え正面装甲を食いちぎる。システムとしてはまだ動けるはずであったフーリーンであったが、それに反し機体はその場に前のめりに倒れて動かなくなってしまった。

 AWはそのほとんどが不完全な密閉式コックピットであるため各所に隙間があり、装甲が多めとはいえ開いた部分が十分にあったフーリーンの装甲の隙間から爆発が飛び込んでパイロットを殺したのである。中には密閉式の小型ALのようなものも存在はするが、コストが嵩むのであまり用いられない。

「次、その右ロケットポッド装備機!」

 またもや爆音が轟き、瞬時にAWを葬り去る。巨大な空薬莢が戦闘室内に鈍い金属音を立てて落下し、砲口からは灰色の煙を燻らせている。今のところヴィルトリエの命中率は百である。この車両はキサナデアでも上位の腕を有する乗員にて構成されており、また彼らは長きにわたり同じチームを組んでいるため、息もぴったりなのだ。この戦車を撃破するには、連合軍は膨大な戦力を一度につぎ込むかあるいは彼ら以上の練度を持つ戦車を持ってこなければならないだろう。

 二号車の方も応戦し、一機のフーリーンに命中弾を出したが破壊したのは右の速射砲で、立ち止まったフーリーンは左のキャノンをこちらに目がけて撃ってきた。巨大な砲弾が一号車のアルカムB型の右六mに着弾し、大きく土を舞い上げた。ALならばこの武器はAL用マシンガンに値する。戦車は十分に射抜ける威力を持っており、近くに着弾したことにヒエルたちは肝を冷やしていた。

 放置してきた車両を盾にしながら残りのAWは攻撃を始める。一発の速射砲の弾がヴィルトリエの正面装甲に命中したが、それは重厚な傾斜装甲によって阻まれ、表面を数センチ抉っただけにとどまった。そこヴェルケはヒエルに指示を出す。

「曹長、爆破だ」

 爆破を指示されたヒエルは最初何のことかわからず橋を爆破しろとでも言っているのかと首を傾げたが、すぐに車両に仕掛けた爆弾だと気づき機銃陣地の方に指定の番号の爆弾を起爆させるように言った。

 すぐさま番号を聞き取った陣地では、一人が起爆装置のレバーを捻り四か所で大爆発が起きた。突然の出来事に、敵は対処できるはずもなく五機のAWとその他共に身を隠していた歩兵が巻き添えを食らった。

「やったぜ!」

 目の前で起きた爆発に、ヒエルは膝を叩くと声の調子を高ぶらせながら、爆破し損ねた残りのAWを狙うように指示した。一号車の砲弾がクァーメンスSを一機撃破する。フーリーンと異なりほぼ体のむき出しなクァーメンスSであるため、パイロットは体も一緒に四散させていった。

 敵はただの放置車両だと思っていた障害物の盾にも罠が仕掛けられていることがわかると、障害物から慌てて離れていく。そこにセバ軍の兵士が狙撃を加えて確実に仕留めていった。



 それから全てのAWが撃破され、前方から押し寄せる敵も全ての装甲戦力が撃破されてしまったのを見て後退し始めているように見える。歩兵戦力も榴弾や爆発、地雷と狙撃で随分やられたようで、来た時とは大幅に数を減らして這う這うの体で逃げ帰っていった。

〈曹長、追う必要はない。弾の無駄だ〉

 追い打ちをかけようと考えていたところにヴェルケの牽制が入ったことで、榴弾を装填させたままヒエルは砲手のヴァートンに砲撃を止めるように指示する。

「了解」

 ヴァートンはスコープにくっつけていた顔を離すと、背もたれ代わりの壁に背中をくっつけた。廃熱性能の低いアルカムの熱気のこもる戦闘室内では、冬だというのに汗をかき始めている。それでも戦闘が終われば再び凍え始めるのだろう。

 畑に転がる敵の屍は、やがて凍り付き地面と一体化して固まってしまうのだろう。自分たちも死ねば彼らと同じようになるのだろうと思うと、彼らは身を震わせてその考えを頭から追い出そうと必死になった。

 今回の戦闘でのこちらの死傷者はいない。どれも遠くで迎え撃てたおかげだろう。被弾もヴィルトリエに一発もらっただけで、あとは歩兵の銃弾が装甲にキンキンと当たったくらいだろう。弾薬はまだセバ側で用意した分だけでも十分にあり、食料なども問題はなさそうだ。

 一旦戦車から降りてヒエルとヴェルケ、二号車の車長であるグルーン曹長と歩兵部隊のフルムーン軍曹が指令所に集まり話を始めた。

「先ほどの戦闘ご苦労。こちらには損害もなく皆初めての本格的な実戦でよく戦ってくれた。期待以上の戦闘に、私はこれから先のことに余裕を感じている。これならば敵を防ぎきれるかもしれん」

 お世辞だ。当然退けられた敵は戦力を増強して再度攻撃を仕掛けてくるだろう。それでもまた撃退すればいい、それを繰り返していくうちにやがて持ちこたえられなくなるだろうが、その時はその時だ。一人でも多くの敵を殺し将来の同胞の負担を軽くできるということになる。

「キッチ曹長、補給はどうなっている」

 今のところ物資に問題はないがこの先戦線を維持するなら補給は不可欠だ。その用意がセバにあるのか聞いておきたかったヴェルケであったが、ヒエルの返答に彼は耳を疑った。

「わからない、何もわからないんだ。俺たちは命令があってここに来たわけじゃないんだ、たまたまこの近くの基地に、基地と言ってもそんな大層なもんじゃないが、まあそこにいただけなんだ。基地には二人残してきたが多分ろくに命令も届いてないだろうさ」

 まさか既に国内に侵攻されているのに命令の一つも届かず自主的な配置によってここに構えているとは。

「一応命令はあったんだがな、それは俺たちがここに来た後のことだったんだ。ここに防衛線を構築しろとさ」


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