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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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橋(3)

 それらは田畑ばかりの平たい地平線の向こうから、群れを成してやってきた。四十はいるだろうか、先発の航空機部隊がメチエ村を焼き尽さんと飛来した。言うまでもないがそれらは連合軍所属の機である。十機の戦闘機隊に護衛された爆撃機は、ほとんどが小さな木造建築で構成されている村の集落を焼き払った。農村とはいえ、数百の農家が集まる大農村である。個々は小さくとも全体では異常な広さを誇る集落は、その多くが爆撃によって焼き払われた。かつて村を襲ったことのない地獄の業火が村を炎に包む。それを目撃したヒエルたちはただ愕然となされるがまま見つめていることしかできなかった。後続の農民たちも、皆絶望に包まれた表情でそれを見つめ、涙を流した。もうしばらくの間は農地は使えなくなるだろう。戦争による汚染が土や水を汚してしまう。土の奥深くまで染み込んだ毒はそう簡単には抜けない。

「メチエの野菜も終わりか」

 誰かがそれとなく呟くと、皆目を伏せ気を落とす。遠い昔より農業を生業としてきた民族であるため、皆農業がそれとなく心の拠り所であった。どの国民も、本人が農家でなくとも一つ二つ血を辿ればすぐに農家にたどり着くくらいには近しい存在であった。ここにいるセバ軍兵士にも家が農家というものは少なくない。

「土地と水を汚した礼はたっぷりとしてやろうぜ」

 ヒエルは燃えさかる炎を見つめながらそう隊員たちに告げた。隊員たちもそれを聞いて頷く、その眼は同様に固い決意に満ち溢れていた。

「キッチ曹長、敵は村を二時方向より迂回して来ました!」

 外から指令所で観測をしているキサナデアの兵士が、戦車の横から声を張り上げ報告してきた。キッチは手を上げて反応すると、装填手席にいるポーター伍長に榴弾の装填を指示する。二号車である駆逐戦車には徹甲弾を装填させ待機するように伝えた。駆逐戦車には装甲戦力を相手してもらう必要がある。遠距離のソフトターゲットには榴弾を持つこのアルカムB型だけで対応しなければならない。

〈曹長、こちらも徹甲弾を装填して待機中だ〉

 キサナデア軍のヴィルトリエMk-Ⅱの車長であるヴェルケが短くそう伝えた。ハッチから上半身を出しているヒエルは、機関銃陣地と後方の対空砲を一瞥し、それらも準備ができていることを確認すると正面を向き直る。来るならいつでも来い。例え腕一本になっても弾が尽きても鍬で叩き殺してやる。

 無人の村を焼き払った爆撃機隊は、爆弾を使い果たしたのかUターンして帰ってしまった。航空戦力の援護がないだけでもありがたい。彼は神に感謝すると、それでも足を止めることのない敵の地上戦力を双眼鏡で観察していた。見えるだけでもAWが六機、戦車は十両はいるだろう。その後方には単装砲を載せた装甲車も見える。兵士はざっと二百人と言ったところか。しかしそう数えている間にもどんどん敵の数は増してくる。流石にこれは厳しいと感じて唇を噛むヒエルであったが、歴戦の勇士ヴェルケはそれとは反対に自信に満ち溢れた表情でそれらを双眼鏡越しに見ていた。この程度の戦力なら十分に現状の戦力でも撃退できるだろう。航空機の援護が入らなければの話だが。

「ビガールか」

 ヴェルケは向かってくる戦車の名を呟く。ビガールはオースノーツ軍で運用されている現行軽戦車の一つで、オースノーツでの名称はフラムオンと言う。この戦車は装甲こそ大したものではないものの、優れたサスペンションと足回りの壊れにくさにより、メチエのような畑だらけの凹凸の激しい道での高速運用に優れている。まさに今回の侵攻には持って来いの戦車であった。

 ヴェルケはそれに対し物足りなさを感じており、出来れば重戦車の一個小隊でも相手にしたかったと少しつまらなそうであった。ヴィルトリエの主砲ならビガールの正面装甲など榴弾でも軽く吹きとばせる。この程度の戦力投入であることに、相手は所詮後進国と括っているようだった。

(だが悪いな。ここにはこのヴィルトリエとヴェルケがいる)

「まだ各車撃つなよ」

 彼は一応セバ軍の車両も含めて警告しておく。戦闘経験のない彼らのことだ、恐怖に駆られて引き付けきる前に撃ってしまうかもしれない危惧を抱いていたからだった。そうなれば敵に対した被害を与えられずに航空支援でも呼ばれたらこちらは終わりである。一応枝などを使ってかなり擬装をしてはいたものの、場所が場所だけに予測されやすい。

 長い時間が過ぎた。敵の前線半ばがようやく千mに入り、一番近いところで橋の二百mまで近づいていた。前線は地雷原に踏み込んでいた。敵もそれを一応警戒しているのか、ご丁寧に道の上を通ってきていた。

「敵は練度が浅い部隊を送り込んだな?」

 侵攻がてら新兵を教育し勝利の経験をさせておこうという魂胆だろう。その気持ちはよくわかるが、それは相手からしてみれば絶好のカモであった。

「二号車、私の合図で最前列の戦車に徹甲弾を撃ち込んでくれ」

〈了解〉

 アルカム駆逐戦車の長い砲が動き、一番前にいるビガールに狙いを定めた。一発目で当てられる練度があれば上々だが、期待はしなかった。

「フィーレン、六両目を狙え」

 彼も自車の砲手に命じる。

 敵は更に踏み込んできており、まだ攻撃の合図がないことに焦りを感じていたセバ軍の兵士は心臓を高鳴らせ、目を皿のようにして積み上げた土嚢から頭の先だけを出して堪えていた。手はライフルをしっかりと握りしめており、滲む手汗でじっとりとしていた。

「砲撃開始!」

 ヴェルケの合図とともに、まずアルカム駆逐戦車から一発目が発射された。轟音と共に放たれた徹甲弾はねじれた軌道を描きつつ、敵戦車の真上を飛んでいった。第一射が外れたがこれくらい問題ない。ヴィルトリエの狙った六両目のビガールは、砲塔正面に徹甲弾の直撃をもらい、そのオーバーな威力に車体ごと切り裂かれ沈黙した。あの被弾では乗員は一人も生存してはいまい。敵の砲撃を受けたオースノーツ軍はすぐに散開して道の両端に散っていくが、そこには地雷原があった。一人の兵士が足元に埋設された地雷に気づかず踏みつけてしまい、直後に両足を吹き飛ばされ本人も数ミラスは宙に舞って地面に叩きつけられた。敵はパニックに陥っている。

 二発目が装填されたアルカムがもう一度撃つが、惜しくも前面の傾斜装甲にはじかれてあらぬ方向へと飛ばされていった。

「二号車、落ち着いて狙え」

〈ハイ!〉

 二号車が三発目を発射、それでようやく車体の下部に命中し爆発もすることなく黒煙を上げて先頭車が沈黙した。残された戦車は、前には進めず後ろも味方の戦車の残骸で下がれない。かといって道を逸れれば地雷が待ち構えている。引くことも進むこともできずに立ち往生を余儀なくされた敵は、混乱して橋の方に向かってやたらに砲撃を始めた。しかしそんな目くら撃ちが命中するはずもなく、弾は遠くへと飛んでいく。そこにヴェルケたちが砲撃を撃ち込んでいく。次々と撃破されていく戦車、敵も負けじと進もうという雄姿を見せてはいるものの、遠距離から一方的に狙撃を受けて撃破されるばかりであった。

〈中尉、装甲車地雷原を回り込もうとしています〉

 報告を受けた彼が双眼鏡で道の横を見ると、確かに装甲車の部隊が地雷の埋まっていない畑を運よく通り、大回りをして側面から回り込もうとしているのを確認できた。

「悪いがそっちに橋はない。曹長、十時方向から回り込んでくる装甲車を頼む」

〈了解した〉

 一発を敵の歩兵集団目がけて撃ち込むと、徹甲弾に切り替えたアルカムB型は砲塔を旋回させて指定された方向を向いた。三両の装輪装甲車が畑の畝に上下しながらこちらに横っ腹を見せているのを認めたヒエルは、ほくそ笑むと砲撃を指示する。

 

 

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