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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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橋(2)

 ヒエルの礼に対し、ヴェルゲは手で制すると彼がヒエルに対し謝罪の言葉を述べた。

「こちらこそ本当に済まないと思っている。本来ならば二個戦車師団と四個歩兵師団、AL小隊一個と他人員や物資を満載して増援に来るはずだった。しかし、道中連合の襲撃に遭い戦力の一部を喪失しただけでなく全体的な輸送も滞ってしまった。どうにか送れなのが私の戦車と機銃とささやかながらの物資くらいだ。すまない」

 彼は帽子を取って深く頭を下げ詫びた。どうして敵の攻撃を受けながらもそれでもどうにか支援に来てくれた方が謝っているのだろうとヒエルたちは首を傾げていたが、彼のその真剣な思いと目に心を打たれ、ヒエルはとんでもないと言葉をかけて彼の手を握った。ヴェルケの皮の手袋が軋んだ。

「我々とて同じことです。自分たちの国を自分たちで守れない。作物の育て方ばかりを気にして戦い方を忘れてしまったのです。おかげで敵の陽動に引っかかってここに配属すべき部隊は皆国の反対側に言ってしまった」

 この少し前、戦力を集結させていたセバ軍であったが、連合軍の欺瞞情報にまんまと踊らされ集結させた戦力の殆どを国の西側に移動させてしまったのだ。それによりすっからかんになった東側から、敵は押し寄せ防衛線力はわずかこれだけというありさまになってしまっていた背景があったのだ。

「あの戦車は?」

 サムラ伍長が、彼らの運んできた戦車を指さして尋ねた。

「あれは我が軍のヴィルトリエmarkⅡだ。主砲口径122mm、全面装甲は100mm。砲撃特化型の駆逐戦車だ。こいつは足は遅いがこう言った待ち構える防衛線なら無類の強さを誇るぞ」

 彼は自信満々にそう答えた。だが彼のその表情とは裏腹に、内心は喜んでなどいなかった。こういった防衛に優れた兵器が活躍するということは、とどのつまり自分たちが負けているということになる。事実、戦局は長引くにつれ、オースノーツという大国を擁する連合軍は、国の集合体である同盟軍に対し勝利をおさめ始めており、戦線は徐々に後退していっている。シーレーンもこの大陸周辺では、シェーゲンツァート抜きだと一時的に確保するのがやっとである。キサナデア帝国は陸軍国家であり、保有する領海面積はその陸地に対し非常に狭い。そのため海軍力については他国に頼らねばならず、輸送船もその多くがシェーゲンツァート等他国に依存してしまっている。その代わりに陸戦力ではキサナデアが主力となって同盟軍を率いている。

「とても強力に見えます。我々のような土いじりばかりやっていた国にはとても追いつけそうにない」

 ヒエルは儚い眼差しで、強力な他国の戦車を見つめていた。

「ここの責任者は君だけか?」

 ヴェルケの問いに対し、彼は自分ともう一人歩兵部隊にいることを伝えると、作戦会議を行うので読んでほしいと言われ、機関銃陣地で新兵に指示を出していたフルムーン軍曹を呼んだ。作戦会議はキサナデア側が先ほど建てた簡易的な指令所で開かれた。

「君たちは既に作戦は?」

 彼の問いにフルムーン軍曹が顔をしかめて答える。

「作戦と言える作戦を行えるほど、人員も経験も足りません。こんなベテラン面をしていますが、かくいう自分も実戦経験などないのです」

 そう言うと、彼は片眉を吊り上げて見せた。

「我々戦車隊もとにかく壕を掘ってこちらに向かってくる敵をひたすら迎え撃つという作戦しかとれません。移動して全身を晒すよりはマシですからね」

 二人の報告を受けた中尉は目を瞑り左足のつま先を地面にこすり付けると悩んでいた。確かにこの戦力では戦術規模ですら作戦を立てることは無理に等しい。装備からしても機動戦を行えるとは思えない。いたずらに兵を動かして、圧倒的火力の前に蹂躙されるくらいなら、待ち伏せに特化したほうがマシと言えよう。彼もここは待ち伏せ作戦で徹底的に水際で防衛を行う作戦に決めた。そうと決まれば防御力を高めなければいけない。

 既にセバ軍は一応セオリー通りに防御陣地を構築したようだが、彼からすればまだ物足りなかった。彼は周囲を見回しあるものに目を付けるとヒエルたちに指示を飛ばした。

「あの放棄された車両を橋の向こうに乱雑に停めてきてもらえないか」

「あれを?何故です」

「そいつに爆薬を仕込んで遮蔽物に見せかけ敵がそこに近寄ったところで吹きとばす。それにそのままでも障害物になるからな。戦車やAWの侵攻を妨害できる。それから地雷をその周囲にばら撒いてきてほしい。できればあの街道の両脇にだ」

「なるほど、そういうことですか。敵が砲撃から逃れようと逃げればドカン。かといって真ん中を通れば銃弾の餌食に。そして放棄車両に身を隠せば仕込んだ爆薬が吹き飛ばす、と」

 ヒエルはそのえげつない作戦にニヤリと笑むと、さっそくその指示に従って部下たちを集め、キサナデアが持ってきた地雷を埋設に向かわせた。彼自身も戦車を動かしてワイヤーで農民たちの捨てていった車両を繋ぐと、それっぽく橋の向こう側に散らしてきた。

 農民たちの列はもうかなり捌けており、これならば直接この場で戦闘に巻き込まれる心配はなさそうである。

「サムラ、もう少し速度を落とせ。道のデコボコでポンコツがばらけてしまう」

 彼の指示で、アルカムB型は速度を落とした。後ろに引いている古臭い三十年も前の型のトラックが、今にも分解しそうな勢いで上下に揺れている。その運転席にはハンドルを握っているポーターの姿が。

 戦車隊に指示を飛ばしながら、ヒエルは思いに悩む。戦車隊の隊長としてこの地点をあの戦力だけでどれだけもたせられるのか、敵の全容が見えてこない限りは終わりも見えてこない。いくらキサナデアの援護があると言っても、わずかに戦車一両と対空砲一門のみ。既にわが軍の前線航空基地を占拠したという噂の連合軍なら、必ず航空戦力を用いてくるだろう。それも膨大な量の。はたしてこの程度の小国にそれほどの戦力を割いてくるのか疑問ではあったが、それでも全滅すら生ぬるいと思えるほどにこっぴどくやられるのではないだろうかという恐れが、彼の戦意を覆いつくしていた。

〈グラスラン中尉よりキッチ曹長へ〉

 無線機からキサナデアの通信手による呼びかけが入った。どうかしたのだろうか。

「キッチだ、どうした」

〈橋より前方二万千mに敵AWの反応を確認。迅速に撤収し可及的速やかに配置につけとのこと〉

 悪い報告に、彼は舌打ちすると車内に向かって呼びかける。

「サムラ、もうすぐ敵のお目見えだ。さっさとうしろのポンコツを切り離して壕に戻るぞ」

「もうですか。わかりましたよ」

 サムラが戦車を停止させると、ヒエルとポーターで車両を離してワイヤーを回収すると、戦車に戻り陣地に向かって走らさせた。

「ちぇっ、ばあちゃんの飯をもう一度食いたかったぜ」

 ポーターが装填主席にだらりともたれかかって愚痴った。彼の発言に、他の二人もそれぞれの家族への思いを馳せる。この戦いは家族を野蛮な連合軍兵士の手から守るためだ。例えこの戦いで死んでも、その間に家族が姿を隠せるのならそれで構わない。心残りなのは、二度と家族の無事を拝めなくなることだった。

 ヒエルには、もうすぐ十二になる娘がいた。その娘の将来を案じつつ彼は深くため息をついた。

(すまんな、ジーエ。お父さんはお前の晴れ姿を見てやれそうもない)

 娘の将来あるであろう結婚式の姿を想像し、その隣にいられないということを思うと無性に悔しさとこみ上げるものがあった。どうしてこんな小さな国に戦争なんか仕掛けてくるのだろうか。その大国のエゴに、彼は怒りに震えた。

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