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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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 陰暦1995年14月11日、この歴史書にも載らぬ小さな防衛線は西半球サルマガル大陸にあるセバ民主主義共和国のとある橋にて起きた。オースノーツによる支配を良しとしなかったこの国でも、他国同様連合軍による侵攻を受けており、戦火はのどかな農村にも広がっていた。このメチエという農村は土地が豊かで常に豊作であったため多くの農民が住み着いており、この国随一の食糧生産地域として名高く他国にもこの国の新鮮な野菜や農作物が輸出されていた。

 そんなメチエ村にも遂に連合軍の銃口が向けられる。元々農業国であまり鉱物資源にも恵まれず軍隊はあまり強力なものを持っていなかったこのセバであったため、軍事面では元から隣接する三カ国に頼っていた。しかし、この戦争ではそのうち二カ国は連合軍に対し無血降伏をしてしまったために、わずかに一カ国トートリート王国の支援を受けることしかできなかった。当然、同盟軍は支援を送ったのだが、なにせこの国は大陸の内部にあり周辺は山に囲まれているため陸路は難しく、空港も数が少ない。その上同盟軍の構成国はその多くが東半球に集まっており主要国はほぼ全てそうだったため、円滑な支援を行えないのが現状であった。また広がる戦火と増え続ける損失に、同盟軍もあまり支援を出すことが難しくなってきていたのも原因であった。

 これは、この村の村民を逃がすために戦った二十九人の男達の命の記録である。



 メチエ村と、一番近い都市グルーフィンを結ぶ街道の要衝であるグルメチエ鉄橋は、メチエを豊かな土地たる要因にしている大河ヴェルフェータ川に架かっていた。いつもは作物を運ぶためのトラックやトラクターばかりが行きかっているこの橋のグルーフィン方面の根元に、似つかわしくない存在が目を引く。

 村から離れ始めている農民たちは、不安そうに彼らを見つめながら渋滞を進んでいく。ありったけの作物や農具、家財道具をつんだ泥汚れの激しい、型落ちの車の群れがもう何十kmも渋滞を作っていた。おまけに過積載や整備不足、果ては古すぎて故障した車両のせいで渋滞は加速する。これもメチエが下手に大農村であったためだった。

 そんな彼らを、退屈そうに見つめているのはヴァートン軍曹というセバ陸軍の兵士であった。彼はアルカムB型中戦車のへりに肘をついてもう二日も見続けている行列を眺めている。

「ヴァートン、暇ならちょっと手伝え!」

 彼を叱責するのは彼の上司であるヒエル・キッチ曹長であった。彼は白い息を吐きながら、農民が捨てていった壊れたトラックの残骸でバリケードを作っている最中であった。この国にも冬が訪れていた。本格的な冬が来れば、この地域一帯は凍り付いてしまう。彼に呼ばれたヴァートンは、非常に面倒臭そうにゆっくりと動くと彼の元に向かう。

「ヒエル、無駄だって、逃げようぜ。たった二両の戦車と十人の生身の兵士で何ができるってんだ。相手はあのウッスナウ(※1)だぜ。勝てるわけがねえ」

 そう叫んで後ろを仰々しく振り返る。見えるのは道の両端に掘った掩体壕に車体を隠したアルカムB型とアルカム駆逐戦車。そして歩兵による機銃陣地と小さな塹壕である。今から連合軍の大軍を迎え撃つにはあまりに小規模すぎる防御態勢に勝ち目がないことを悟っていたのは、彼だけでない。逃げ出したいという気持ちがある兵士もいた。だがここで守らなければ一気にグルーフィンまで敵は入り込んでしまう。逃げきれていない住民たちは悪逆非道な連合軍によって蹂躙されてしまうだろうことは、想像に難くない。

「大丈夫だ」

 ヒエルはまっすぐな瞳でそう言い返す。

「何が大丈夫なんだ」

「今日の午後には同盟軍からの増援が来るらしい」

「増援ねえ、この貧弱極まりない防御を要塞化できるほどの戦力がくるってのか?この内陸国に。ハッ、ALの一個小隊でも呼んでからそう言ってほしいね!」

 彼はそう言い放つと、足元に転がる木の枝を力任せに川に向かって放り投げた。一本の枝は、大河に落ちるとそのまま抗うことなく流されていき、やがて見えなくなった。

「敵を止めるには俺たちが頑張らなきゃいかん」

 そう言うのは、ベッケ軍曹だ。青ぞりの特徴的な彼は弾薬ケースから75㎜砲弾を取り出すと、表面を撫でる。この一発で、ALを倒すには十分な威力を発揮する。ただし少なくとも七百m以内で、重装甲でなければだが。

 アルカム戦車は十年前にこの国で生産された戦車である。型はA、B、駆逐、牽引車両の四種類。数は全部合わせて僅かに六十二両のみである。重工業に劣るこの国では、一年で戦車を生産できる台数は限られている。当時でさえ他国のMBTに比べれば性能不足が否めない車両であった上に、殆どアップグレードも行われないまま十年が経過してしまっていた。しかも現在は戦時中、兵器の開発速度が平時と比べ格段に上がる時代である。そんな中でこの悲しき戦車は、大国であれば博物館に収蔵されているような代物と言っても過言ではないほどであった。それでも、この国にとっては非常に貴重な戦力であった。

 因みにA型ではトートリート製の68㎜戦車砲を搭載していたがB型では75㎜、駆逐型では86㎜の口径を採用している。B型、駆逐型も同様に他国製の砲であり、75㎜はもともと野戦砲として使用されていたものを改良し戦車に搭載したものである。

 渋滞が半分を過ぎようとしていたころであった。後方より何やら農民のものではない異音が聞こえてきた。彼らは作業の手を止め、後方上空に顔を向ける。列をなす農民たちも初めて見る物体に恐怖と好奇心をもって空を見上げていた。

「あれが増援ですか?」

 ポーター伍長が尋ねた。

「ああ、恐らくな」

 後方からやってきたもの、それは一機の輸送ヘリである。見慣れぬ大型のヘリであるそれは、他国の所属であることの証明であった。この国にあんなALを運べそうなヘリは無い。AWすらないのだから。そんな大型ヘリがやってくれば期待をしたくなるのも当然というもの。だが、近づくにつれその下にALのような巨大なものをぶら下げていないことがわかると、彼らはいくらか落胆を見せた。

「そんなバカでかいもの持ってくんならAL持って来いよボケ!」

 ヴァートンの罵倒ももっともである。ヘリは彼らの後方にホバリングすると、コンテナを展開して空中から物資を降ろし始めた。巨大な輸送ヘリ、ポーティアはシェーゲンツァート製のヘリで、抱えたコンテナに大量の物資や武器弾薬を搭載出来るほか、そこに燃料タンクを代わりに搭載し、専用のユニットを用いることで、一機のALをむき出しで懸架することのできる機体だ。その大きさと馬力故に、抱いたコンテナの中には、ホバリングしながら物資を安全に投下できるウインチが四基も搭載されていた。

 ヘリが降ろしたのは一両の見慣れぬ戦車と一基の対空砲、それに武器弾薬などの物資であった。そしてさらに機体前方、コックピットブロックの後方にある荷室からワイヤーが垂れ、続々と四人の他国の軍服を纏った兵士たちが慣れた手つきで降下してきた。

「こいつはたまげた」

 セバ軍の兵士たちは物珍しそうな表情で彼らによって来る。

「君がキッチ曹長だね」

 一番身なりの整った男がヒエルの名札を見て、セバ語でそう話しかけた。

「ハイ、そうですが」

 男は手袋を外して笑顔で彼の手を握り名乗る。

「私はキサナデア帝国陸軍第四機甲師団第二小隊長、ヴェルゲ・グラスラン中尉だ。セバの危機に参上した。よろしく頼む」

 キサナデア、それはシェーゲンツァートに次ぐ自由同盟軍の構成国である国家である。わざわざそんなところから来てくれたという感謝の意を込めヒエルは頭を下げて礼を述べた。

「小国である我が国の為、駆け付けてくださったこと、感謝いたします」

 

※1 ウッスナウ:オースノーツのセバ語

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