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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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思わぬ落とし穴

「なかなか、こう……」

 高度二千ミラスの空を飛行するシュリーフェンの中で、見事脱走を果たしたリンドは慣れない感覚と操縦に頭を悩ませていた。空挺部隊であるため飛行自体は何度も経験している。だがそれはあくまで輸送機で運ばれていたのであって、今のように自ら飛行しているのではない。このモニターのすぐ向こうは空だということにどうにも実感が掴めない状況であった。

 それに、少し操縦桿を捻ると、機体の水平が一瞬にして損なわれてしまい途端に急降下しだす恐怖も既に何度か経験していた。水平にオートで保つスイッチを見つけていなければ今頃異国の山にシュリーフェンの墓標の下で眠っていただろう。

 言葉がわからないためナビゲーションシステムの起動ができずに困っていたが、地図自体は出力することが出来たのでそのままモニターの端に表示し続けることでどうにか道を失わすには済んでいた。しかし、それでも不安なものは不安であった。

「便利だな、やっぱ空飛ぶってのは」

 アルグヴァルなら歩かなければいけない。眼下に広がる森や山々を越えていくには歩きだと物凄い時間を要する癖に、大して進めず振動で尻を痛める。だが飛べば地形など関係ない。山も海も町も、あっという間に時速五百kmでパスすることが出来るのだ。

「そりゃあどこも飛行型ALの研究をしたがるわけだ」

 いくつもの国でALの研究は行われているが、中でも飛行型ALはALの一種の完成形とされ、飛行型ALの保有がその国の工業力や科学技術の証明となるのだとどこかで聞いたことがある。AL自体、開発はとても難しいものだが、中でも飛行型はずば抜けて難易度が高く、自力でのAL開発国の中でも更に小指の先の砂糖ほどの数の国しか今のところ開発できていない。シェーゲンツァートもAL開発に関してはオースノーツに次ぐ先進国で、頑丈さに関してはこと定評がある。そんなシェーゲンツァートでも飛行型ALは開発が難航しており、まともに飛行できたものでも、大きなティルトローターを二機も背負い、脚部や腰にも推進器を増設して漸く高度三百ミラスまで飛行できた程度であった。速度はお察しである。

 アルグヴァルなど画期的な名ALを開発してきたシェーゲンツァートだが、どうにも飛行型ALやAL用の推進器の開発が不得手のようだ。それに対しリンドはまず、装甲を厚くして対弾性を高めることをやめるのと、今のような角ばったデザインからこのシュリーフェンのように流線形を主体としたデザインに改めるべきだと考えた。

 シェーゲンツァートは装甲を厚くしてパイロットの生存性を高めようとする考え方はいいことだったが、それがどんな機体でもそうしようという流れがこの場合悪い作用を引き起こしてしまっている。

 シェーゲンツァートで流線形を持っている現行ALは三機種だけであった。その内一機種は戦闘用ですらない。

 などと考えていると、後方から三点の反応が猛スピードでこちらに接近しているのにようやく気付いたリンドは、大慌てで座り直し操縦桿を握る。

「追っ手?来たか!クソ!」

 後方カメラで後ろの様子を映すが、まだ遠く点が空の真ん中に三つ見えるだけである。

「高度は……向こうが高いか……」

 あまり高く飛びたくはないが仕方がない。彼も機体を上昇させる。しかし向こうはさらに上昇していき、あくまで優位な高度を保ち続けるつもりらしい。

(当然っちゃあ当然か……)

 リンドは58㎜マシンガンを取ると後方に向かって構えようとしたところで重要なことに気づき大声を上げる。

「ああーっ!」

 いつものアルグヴァルでの戦い方をしようとしたところで気づく。アルグヴァルとこのバレストは戦闘スタイルが違う。地に足を付けているアルグヴァルなら前に向かって走りながら後ろを向いてもこけないようにすればいいだけのこと。下半身さえ前を向いていればいい。だがこの飛行型ALは推進器の内メインの二つが背中についておりそれらは上下にスイングできるが前後入れ替えることは出来ない。もし飛行中に上半身を反転させると、下半身は前に進んでいるのに上半身は後ろに進むことになる。それでは飛べないのだ。そもそもこの機体が反転機能を持つかすらわからないし、そのやり方もわからないという本末転倒な部分も。

「なんてこったクソ不便な!」

 こうなるとあんなに便利に思えた飛行型ALが途端に非常に不便に感じられた。思わぬ弱点にぶつかった彼は悩む。つまり飛行型同士の戦いは後ろを取った方が有利ということなのか。飛行機乗りなら当然の常識ではあるが、彼は空軍畑とはいえ戦場は地上、飛行機の操縦など毛ほども出来ない。

(つまりあれか、俺が逃げた時点で負け確定ってことかあ?)

 腹が立ったリンドは、悔しさで下唇を強く噛む。

 そうこうしているうちにも追っ手はもう肉眼でも確認できるほどに迫っていた。どうみても彼らは戦闘態勢である。投降の勧告もないらしい。あっても理解できないが。

 敵が動いた。編隊を組んでいた敵が、三方に分かれ真上と左右後方から攻撃を仕掛けてくる。

「オーバーな手を使いやがって!死ね!」

 ド直球な罵りを吐くとまず左後方から来る敵を狙う。しかし、その独特な動きで迫ってくる敵にうまく照準が合わせられないリンドは闇雲に引き金を引く。風の抵抗を真横から受けた銃弾の軌道は、彼の考えから外れ変な方向に吸い込まれていくように曲がって見えた。

「はあ!?」

 敵の攻撃、左右からマシンガンの十字砲火を受け、咄嗟にペダルを踏みこんで加速をかけることで回避した。その加速を維持したまま、兎に角ここは一刻も早く味方の領空内を目指すこととした。

 左右の攻撃を辛くもかわすことのできたリンドであったが、そこに忘れていた上方からの奇襲を受ける。上から二丁のヘヴィーマシンガンの斉射を受け回避が間に合わない。胸部に二発、右主翼に一発の被弾を受けたシュリーフェンはアラームを鳴り響かせ、胸部から白煙を吐く。飛行に対してシステム上の支障はないようだが、問題は主翼の被弾であった。

 被弾の影響で翼の曲がっただけでなく、油圧システムに損傷を受けたシュリーフェンは右主翼のフラップを動かすことが出来なくなっていた。ヘヴィーマシンガンの威力の証明でもある。

「落ちたくない!」

 悲鳴を上げるリンドは、必死でマシンガンを乱射する。航空戦素人の彼の攻撃は、飛行になれている敵パイロットたちの敵ではなく、攻撃はいとも簡単に躱されていった。その内にマシンガンの弾が切れた。リロードボタンはわからないが、シェーゲンツァートのALはどの機種も自動でリロードに入るためこの機体でもそうなると彼は思っていた。しかし、空になったマガジンの排出はなされたが再装填を行う気配がない。混乱するリンド。まさか再装填機能がないのかとパニックに陥るが、そうではない。この機体にもちゃんと自動での再装填機能があるが、このシュリーフェンはそもそも予備のマガジンを携行していなかった。理由は簡単、リンドが奪取したこの機体がどのような状態であったか思い出してほしい。そう、整備中であった。大方の整備が終わっていたためこうして飛行は問題なく行われたが、弾薬の装備が行われていなかった。マシンガンは置かれていたものを拾ったために持っていたが、この機体は固定装備の機銃弾ですら装填がなされていなかったのである。

 絶体絶命のピンチに陥ったリンドはどうなってしまうのだろうか。

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