シナイの森の喧騒(3)
「行くぞマオール!」
AWが撤退したことで、一時的に防衛線の一部に穴が開いた。ここから敵中に飛び込み楔となれば大戦果である。言うや否や、リンドは力いっぱいペダルを踏みこみアルグヴァルは地面を踏み潰すように走り始めた。まだまだガソリンはある。何なら予備の燃料タンクも備えてある。多くのALはサバイバビリティを重視してあるため、幾つもの作業用装備や増槽を積んであった。
〈分かった!〉
マオールも同様にアルグヴァルを走らせた。突然2機のALが猛然と走り出してきたのを確認したクルイテ軍は、不審に思いながらも落ち着いて対処しようと努める。正規の軍人たるもの、この程度であわてるわけにはいかないのだ。複数の対戦車砲と機銃が突進してくる二機のALに向けられる。発砲が始められた。マオールはリンドの影に隠れつつ、後ろから射撃を行い、リンドは敵弾を一身に受けながら、マシンガンを掃射し始めた。
「こちら第5小隊のオーセス伍長!敵の防衛線の手薄なところを発見!支援を求む!座標を送りまあす!」
コンソールを操作し、友軍に向けてシグナルを発信した。これにより自身の位置が味方に送信された。
しかしこれといった返答はない。ただ聞こえるのは悲鳴や爆発音、そしてノイズだけであった。味方は必至でそれどころではないらしい。それもそのはず、開戦からしばらく、多くの熟練パイロット達が消耗し、経験の少ない兵が前線に多く出てくるようになった。今回の降下作戦も、かなりの数が出撃経験が3回にも満たないヒヨッコたちばかりであったのだ。それに加えて数機の輸送機が降下前に撃墜されたおかげで、部隊を引っ張っていかなければならない上官たちも戦死してしまい、また降下前に同僚の喪失やそれにより戦場に一人で放り出された孤独などが相まって冷静ではいられなかったのだ。二人もまた、お互いに部隊員を失っていたのだが、ある程度落ち着いていられたのは二人で降下できたからなのかもしれない。
もう一度彼は呼びかけてみたが、果たして結果は同じであった。
「どうする!もうこれ以上は!」
少しずつではあるが、重ヴァルの装甲も崩れ始めている。
〈仕方ないな!やっちまうしかねえみたいだ〉
そんな中、激しい衝撃と共に右のマシンガンが爆発した。どうやら敵の対戦車砲の仕業らしい。榴弾によって爆発が弾薬に誘爆し、派手な爆発が重ヴァルの右手を包み込んだのだ。
「ああああ!」
〈大丈夫か!おい!〉
反撃ができないリンドの代わりにマオールが戦車砲を片付ける。
目の前で起った爆発と閃光に思わずリンドは叫んでしまった。アラームが鳴り赤色灯が何度も点滅し続けた。被害は誘爆で右手が肘より先を失ってしまったようだ。右腕が使えなくなったのは痛いが、失ってしまったのは仕方がない。
「ロケットを使う!」
リンドがスイッチを押すと、右肩のロケットポッドの蓋が開き勢いよく4発のロケット弾が敵陣地へ向けて飛翔した。積まれた炸薬が敵を吹き飛ばし、幾つもの穴を作った。巻き上げられた土砂が一斉に周囲に降り注いだ。弾頭は決して大きくないが、破壊用に特別強力なものが積まれていたらしく、使った本人がその威力に驚いていた。それにしても少し近すぎたようだ。
〈い、行こう……もう少しで目的地だ〉
「あ、ああ」
二人は飛び散った敵の肉片に気づくことなく、進み始めた。二人のALのモニターに、敗走していく敵の姿が目立ち始めた。クルイテ軍人は勇敢だと聞いていたのだが、違うのだろうか。だが二人はそれぞれALにおびえたのか或いは戦意喪失でもしたのだろうと括っていた。
〈ラルガーだ〉
ラルガーとはシェーゲンツァート軍のプロップトンの呼び名だ。このように敵味方で兵器の呼び方が異なることは少なくない。寧ろほとんどがそうである。
敵のラルガーは重ヴァルの膝にライフルを撃ち込んできたが、それは装甲が阻んでしまった。どうやら今度のラルガーは手練れのようである。