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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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クウィール

 リンドが出た先は、コンクリート造りの壁であった。すぐ目の前に一面青白い景色が広まったため、始め彼は暗闇に慣れたせいで目がおかしくなったのかと勘違いした。が、恐る恐る手を伸ばしてすぐに触った覚えのある感触が指に触れたため、それが建物の壁だと理解するのにそう時間はかからなかった。

 今更だが周囲を見渡すと、外には人影が全く見られず、それどころか目の前の建物以外に建物がまず見当たらなかった。どうもここは収容所の一番外縁部らしい。

「よくもまあちょうどよくこんなところに」

 どうやってうまいことこの場所を掘り当てたのかはどうでもいい、兎に角ここから脱出する方法をすぐに考えなければいけない。ここが知っている場所ならすぐに出て足で帰るのもいいが、生憎ここは見知らぬ土地、国すらわからない。下手に外に出ては野垂れ死んでしまうだろう。それは避けたい。ひとまず彼はどこか建物の中に潜入して地図なりなんなりを見つけ出すことを目標とした。

 息をひそめ、抜き足差し足で影を行く。この真横の建物は大きな壁をしているが、もしかするとハンガーだろうかと推測していると、その建物のドアにたどり着いた。リンドは窓からそっと内部を覗き込む。薄汚れたガラスの向こうには、照明がついており内部には四機のALと、何人かの整備士が機体の周りで作業を行っていた。

(どうするか)

 ひとまずそこはパスして、角まで進んでそっと頭を覗かせる。この建物から一番近いところでも次は六十ミラスはありそうで、その間には時折サーチライトが照らされているというどうみても不可能な道のりが存在していた。おまけに月がよく輝いており、とりわけ第二の月システラがまぶしかった。

 反対方向にも行ってみたが、そちらも似たようなもので、夜とはいえ見つからずにたどり着けるのは到底無理そうな話であった。

 リンドは腹を括るとドアまで戻り、そっとノブを回した。音もなくドアは開かれ、素早くリンドは飛び込むと閉め直し物陰に身を隠した。彼は目を皿のようにして周りに注意を配りながら、そっと歩く。途中大きなレンチをキャビネットからとると、右手に握りしめてまた進む。ここは完全に整備用ハンガーのようで、地図のようなものは見当たらなかった。周りにはあまりいじくると大きな音を立てて崩れそうな積み上げ方をされた部品やら工具やらが多く、それらが探索を妨げている。

「デリュース(クソッたれ)……」

 蚊の鳴くような声で悪態をつくと、今度は彼のいる裏の倉庫とハンガーをつなぐ入り口の真横に立つ。また頭だけを覗かせると、ちょうど何人かの内二人が、ハンガーを後にしてどこかに出ていくのが見えた。交代か、トイレか、それとも作業終了か。目に見える範囲での整備士は四人、四機のALのうち二機はコックピットハッチが開いており、その中に一人二人ずつくらいはいる可能性は否めない。耳を澄ませて彼らの会話に神経を研ぎ澄ませる。

 何かを時折話しているのはわかるのだが、いったい誰と、当然だが何を話しているのかなんてさっぱり見当がつかない。そんな訓練など習わなかったのだから当然ではあるが。

 情報収集は諦めて行動に移すことにした。思い切ってそこを飛び出すと、ドラム缶が集められている場所の裏に隠れる。更に今度は正面にある大きな木箱の影へ飛び込む。そうした行動を繰り返して進もうと思ったが、先見の明が浅かった。四回目にしてもう先がなかったのである。整備士の動きに注意しすぎて障害物に眼を向けていなかったミスであった。

 しかしもう戻りたくはない。これしか手がなかった。だがこれ以上は厳しい、どうする。

 リンドの判断能力がおかしくなりそうな時であった。その救いの手は偶然にしてこのタイミングで差し伸べられたのである。突如として大音量で基地・収容所全体に鳴り響くサイレン、ハンガーにいた全員の注意が外に向けられた。基地の向こう側、正確にはどの辺りかはわからないものの一角が明るく照らし出されていた。日の出、のわけはない。サーチライトにしてはおかしい。だとすると、

(火事?)

 あの燃え方は火事の可能性が高い。その予想はすぐに的中したことが証明された、何故ならサイレンをならして基地を疾走する消防車の姿が目に入ったからである。この火事を起こしたのは先に脱走した者たちの内の誰かなのだろうか。さっさと逃げればいいものを、一矢報いてやろうと思ったのか、それとも他の捕虜を逃がして基地を大混乱に陥れようとしたのか。いずれにせよ馬鹿な奴らだとリンドはほくそ笑んだ。

(だけど、それ以上の馬鹿をやろうとしているのが俺なんだよなあ)

 さらに整備士のうち三人が野次馬根性で外に走っていくのを目にすると、リンドは両手にレンチを握りしめ走った。

 後ろから急に聞こえた走る音に、しゃがんで作業をしていた一人の整備士が振り返る。その目に映ったのは、レンチを振りかぶりぎらついた眼をした異国の男であった。勢いよく振られたレンチは、整備士の頭を砕き、血をほとばしらせた。そこに止めを刺すべく二度、三度と振り下ろされる工具。頭を完全に潰された整備士の死体は血をオイルのようにハンガーの床に垂れ流し、動かなくなった。

 音はサイレンにかき消されている。すぐに彼はキャットウォークにつながる梯子を猛烈な速さで駆け登り、一機のコックピットハッチの開いたALの前に立ちはだかる。中にはこちらに尻を向けて作業する整備士が一人、キャットウォークを歩く音で下の同僚が昇ってきたのかと振り返ったその人物は、同僚だと思っていた人物が見知らぬ男であったことに体を硬直させた。しかもその男は血のこびりついたレンチを握りこちらに向けている。

「女?」

 リンドは振りかえった整備士を見て呟いた。オイルに作業着を汚して尻を向けていたのはまさかの女であった。シェーゲンツァートでは女の軍人は滅多にいない。そのため彼はほぼ初めて見たと言っても過言ではない女兵士との遭遇に若干戸惑ったものの、すぐにジェスチャーでそこを出るように促す。女も察したのか、手を上げてコックピットから下がり彼の前に立った。

「あんたに動かせるとは思えないけどね」

 と、彼女は言ったのだが、意味が理解できないリンドは目を細めると女から視線をそらさないように注意しながら機体に乗り込む。その際キャットウォークから落ちないように目を一瞬だけ離してしまった。それを見逃さなかった女は彼を突き落とすべく飛び掛かった。

「このっ!見逃してやったのに!」

 怒ったリンドは、もみ合いになりつつも腹に膝を蹴り入れて女を突き放すと、後ずさった彼女をそのまま蹴り落した。落ちる瞬間にこちらを見ていた女の眼が、彼の記憶に焼き付いた。直後、十ミラスほどの高さから、頭から落下した女は酷い音を出して息絶えた。

 後味の悪さを覚えた彼は、彼女の視線を振り払うかのように頭を叩くと、機体に乗り込んだ。

 機体には機能の名称を書いた文字がスイッチやボタンの横に書いてあるものの、読めない。これはオースノーツ語であった。辛うじて読めたのは、世界共通語であるジャクマス語で書かれた名前、シュリーフェンであった。彼は学があまりないので、ジャクマス語は殆ど読めない。キラロル語しか使えないのだ。

(シュリーフェン、確かクウィールの本名だったけか)

「こうか?」

 なんとなく、メインスイッチぽいものを恐る恐る捻ってみた。彼の勘は冴え、スリープ状態に保たれていた機体はすぐに稼働を始めモニター類に電気が入り、真っ暗だった各モニターにカメラを通して周囲の様子が映し出される。当然モニターに表示されるのもオースノーツ語であった。

 操縦用のアームペダルは見た目も数もアルグヴァルとほぼ同じで操縦方法は共通のようだ。それさえわかれば後はいけるだろう。問題は飛行型ALに乗るのはこれが初めてということであった。シェーゲンツァートには飛行型ALが存在しないのだ。リンドはそっとペダルを踏みこんだ。それに合わせてシュリーフェンも前へと進みだす。キャットウォークのアームが押し曲げられ金属音を上げて床に落下する。

「行くぞ、行くんだ、俺は帰るんだ!!」

 青年の賭けが、始まる。

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