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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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大勢の中の孤独(2)

 仕方なく手ぶらで作業位置についたリンドは、他の者が石を運んでいるのを見て真似して足元のニ十センチほどの大きなものに手をかけた。それは半分地面に埋まっていたためになかなか剥がれない。軽く指先で周りを掘ってみたが、地面は硬く困難であったため十センチほどの木の棒を拾ってくるとそれで周囲をほじくりだした。

「ふっ……ん」

 指を引っかけられるくらいの窪みを作ると、両手指をかけて思い切り引っ張った。それでも頑として動こうとはしない石であったが、やはり周りを掘ったのが効いたのか大きくそして平べったい石が地面から剥がれてリンドごとひっくり返った。

「っとととと……」

 尻についた土を払うと、剥がした石を持ち上げて石を集めている荷車にまで運んでいく。荷車を引くのはもちろん捕虜だ。彼は重そうな振りをしながら少し遅めに向かっていく。その隙に周囲の状況を確認しているのだ。周りではあちこちで同じ境遇の人種の様々な捕虜たちが労働をしており、少数のオースノーツ軍人が拳銃と鞘付きのサーベル腰に携え厳しい眼で自分たちを見張っていた。彼らは時折目についた作業の遅い捕虜を厳しく叱責しながらサーベルで彼らをしばいている。酷く叩かれた捕虜は呻き声を上げて崩れ落ちるが、休むことは許されない。すぐに立ち上がって作業に戻らなければさらに酷い仕打ちが待っているからだ。

 その光景に、リンドは病院との温度差に驚愕していた。病院では捕虜とは思えないほどのしっかりとした待遇で過ごすことが出来た。暴力などもってのほかだ。だがここでは一転、実に分かりやすい捕虜収容所の実態が呈していた。

「さっさと歩け!!」

 何か叫ばれたと思った瞬間、背中にけりを入れられたリンドは、石を抱いていたため受け身を取ることもできずに地面に突っ込んだ。

「ぐあ!」

 体を強く打ったためにもぞもぞとうごめくが、そんな彼に監視者は容赦などしない。サーベルで三発も叩かれリンドは咽てよだれを口から垂らし、地面に臥した。どうして自分がこんな目に合わなければいけないんだ、リンドは涙を目に湛え嗚咽した。



 そんな彼ら捕虜を遠くから眺める五人の人影。建設中の滑走路から百m程の基地の道路に一両の軍用車が停車していた。女二人と男三人、五人のうち女含む四人は軍服を纏っていたが、一人は油に汚れた作業着を纏っており、四人とは少し異なることを表していた。

「中尉、あんなものを見て面白いんですか?」

 そう尋ねたのは髪を肩当たりで切りそろえた眼鏡の女性だ。いかにもインテリ系といった風貌の彼女は、斜め前に立つ金髪の女性にそう声をかけた。中尉と呼ばれた女性は、風で少し乱された前髪を直すと、彼女を向き直ることも無く返事をした。

「……世の中面白い面白くないじゃ区別できないこともあるのよ」

 その返答に納得のいかない様子の女性であったが、その話に乗っかるようにあごひげを生やした男が少しばかり食い気味に言葉をかぶせる。

「そうそう、全てのことをはっきりと言葉で区別する必要はないのさ。なんとなく、っていう感覚、大事大事、ね、中尉」

 にっこりと微笑む彼にも彼女は振り返ることはなかったが、短く肯定の旨を表す返事だけでも、彼には十分であった。

「そうね」

「でしょうともさ」

 そこにまた別の男が低空に飛ぶ大型輸送機を見上げながら呟いた。

「まあ、ジェリクは少し感覚で動きすぎるところがあるから、ザーレを少しは見習っていいと思うぜ」

 スポーツタイプのサングラスをクイと二本の指で上げる。そう言われたジェリクは肩をすくめておどけて見せた。

「さて、そろそろ戻って機体の調整につきあってくださいよ」

 最後の一人、作業服のやせ型の男が後部座席に座りながら四人に向かってそう言った。この男は格好からもわかるように現場技術者のようだ。彼に促された四人はそれぞれ座席に座ると、ジェリクの運転で道路を再び走り始めた。

「コリューションの夏の朝は涼しいですね。私結構ここ好きかもです」

 メガネの女性、ザーレは小さく微笑みながら誰となく呟く。

「コリューションはあの大きな山、見えるだろ。ラクラーポ山脈から絶えず冷えた風が夏は吹き降りるんだ。だから涼しいのさ」

 サングラスの男は遠くに見える非常に大きな連なる山脈を指さして説明した。

「お詳しいんですね、軍曹」

「爺さんが住んでるのさ」

「へえ、じゃあ軍曹はコリューション人の血が入っておいでで?」

「ああ」

 軍曹は、少し切なそうに山々を見渡しながらそう答えた。

「冬は寒いのが玉に瑕だがね」

「あら」

 一見堅苦しそうな見た目をしている面々であったが、このように意外と既にある程度打ち解けあっているのであった。

 そんな彼らともまだ壁を築いたままなのが、助手席に座ってぼんやりと考え事をしている金髪の女性であった。彼女の頭には、ある日の苦い記憶が蘇って彼女を怒りに打ち震わせていた。

(あのヘビーデセル(※1)のパイロットは……いやいるわけがないだろうさ……いてたまるものか)

 歯を食いしばる彼女の胸には、ある思いが秘められていた。

※1 ヘビーデセル:デセルとはオースノーツ語でオオツノスイギュウを言い、ここではアルグヴァルのこと。オースノーツ軍ではアルグヴァルをデセルと呼び、ヘビーデセルとは重ヴァルのこと。

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