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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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虜囚故に

 シェーゲン……ート軍か………………リン……


 はっきりとしない世界で、微かに聞きなれない言語が耳に障る。どこかで聞いたことがあるそれは、考える間もなくまた意識は途切れた。途切れる前の世界はとても明るく光に包まれているようだった。



 リンドが目覚めたのは、コンクリート造の小さな部屋だった。横をみると、自分と同じように男たちがそれぞれ簡素なベッドに横たわっておりここが病院だと鈍い頭で考える。隣の男は顔にガーゼが当ててあるが、それ以外は重症に見えない。これは後方の病院まで移送されたのだろうか。

 体を動かそうと試みるが、まるで自分の体じゃないかの如く重たくけだるい。その上忘れていた痛みが体の右側に走った。そうだ、自分は重ヴァルの中で怪我を……

 怪我をしたはずの右腕を見るため病衣の袖をまくる。あったのはいまだ生々しく残る火傷と縫合痕であった。慢性的には痛みがあまりないのは、何故だろうか。最近の医療技術はこんなにも優れているのだろうか。体を曲げて手のひらの感触で右足の太ももをさすってみたが、腕と同じように他の綺麗な部分とは感触が違い、そのあたりだけ歪な起伏と嫌につややかな触り心地にリンドは察する。

 そこでリンドは不自然なことに気づいた。おかしい、自分は敵陣真っただ中におりよくて野戦病院に並べられるのが関の山というのが我が軍の情況であった。最前線に取り残された兵士を敵中から救出しそして後方の病院まで搬出できるはずがない。みるみるうちに思考が冴えてくるとともに、この場所が考えうる最悪の場所である可能性に、彼は鳥肌が立った。

 どうにかして上半身を起こし、右腕に点滴が繋げられていることに気づき抜こうかと手をやったところで思いとどまりそのままにしておいた。もしかするとこれが痛みを和らげていてくれているのかもしれない。

 コリューション側にこれほどの病院に敵兵を治療できる施設の余裕があるだろうか、いやあるわけがない。あの状況下でこのようなことを出来るのは……

「…………」

 外からコツコツと靴底が床に当たる音と、外国語での会話が近づいてきたのに気づきリンドは慌ててベッドに戻り寝たふりをする。どれも一人の者ではなく複数人が出しているようだ。やがてそれはこの部屋に入ってくると、それぞれベッドの隣に立ち何か会話を交わしていた。

 そっと薄目でその様子を盗み見る。中年の男と若い男が二人で何やら会話をしている。恐らく片方は軍医でもう片方は看護師だろう。彼らは何かしらの会話をしながら片割れが手元の書類に何かを書き込むということを繰り返しており、次第にこちらに近づいてきた。

 二人はリンドの前で止まると、顔を見合わせ軍医らしき方が片言のキラロル語で声をかけてきた。

「おい、オーセス起きろ」

 ばれている。もう少し寝たふりをしておこうかと思ったが、片割れに小突かれたのでやむを得ず目を覚ますことにした。

「ここは、オースノーツ軍二十二の、病院だ。お前は捕まった」

 ああ、やはり。わかってはいたが、こうして事実を突きつけられると、やはりショックは大きい。今、自分はついに敵の捕虜となってしまったのだ。その上こうして治療まで受けている。敵に余裕を見せつけられたようで、かなり精神的に来るものがあった。

「待て」

 軍医はもう一度片言で言葉を伝えると、部屋の前を通った医療スタッフらしき人物に何かを伝えると、伝えられたスタッフはそそくさと去ってしまった。何を言いつけられたのだろうか。もしや兵士を呼んできて連れていかれてしまうのだろうか。だとすると拷問にでもかけられるのだろうか。

 だが、彼の不安に反して戻ってきたスタッフに連れられてきたのは、捕虜服をまとった肌の浅黒い男であった。その肌、顔立ちからして彼は恐らく……

「やあ、俺はトルトー。陸軍補給部隊所属だった准尉さ……」

 片目を失っている彼の顔は、見た目以上に疲労して見えた。その顔に最早生気は見られない。笑って見せている彼は、軍人ではないのだろう。とにかく、准尉と聞いて階級が上であるため素早く敬礼をして腕の痛みに思わず左手で腕を触ると、彼は気にしないでくれ、と敬礼を制した。

「ここは軍じゃない。俺が君たちシェーゲンツァート人の通訳を受け持っているんだ。一応はね」

「そう、でありますか……」

 彼の「君たち」という言葉に引っかかると同時に、キリルムのことを思い出し彼に尋ねる。

「隊長は……キリルム中尉はご無事でしょうか」

「ああ、えっと確か……」

 トルトーは軍医にオースノーツ語で尋ねると、すぐに教えてくれた。

「彼もこの収容所にいるらしい」

 それを聞いてリンドは胸をなでおろした。例え捕虜になっていようと、生きてさえいればどうにでもなる。

「そうだ、モディム大尉が君に話があるそうだよ」

 大尉とは恐らくこの軍医のことだろう。モディムは実に表情の読めない面でトルトーのことを見もせずリンドに直接オースノーツ語で話しかける、それをトルトーが素早く翻訳していく。

「……君はビスクスムでAL内で気絶しているところを救出、後方のこちらまで移されたそうだ。ここは病院兼収容所でバルトド第三病院という。えー、君の怪我は裂傷と打撲、火傷とあったが治療をしているので機能は問題ないまでにはいずれ回復するそうだ……治療をしつつ君には尋問官が尋問を行う、だそうだ」

「ありがとうございます」

 リンドはトルトーの方を見て礼を言うと、自分の腕を見た。包帯が巻かれているがとても清潔であり、少なくとも悪いようにはされていない。初めて見るオースノーツ人の姿と予想外の待遇に面を喰らったリンドであったが、決してなびいてしまわないように心に言い聞かせた。さもなくば、彼のようになってしまうかもしれないのだから……

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