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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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傷ついた巨人(3)

「次、右二度ずらせ、そのままー……撃て!」

 続いて発射された砲弾が、歩兵隊をなぎ倒す。野砲隊の確実な砲撃によって、コリューション軍の飛び散った死体で大地は埋め尽くされようとしていた。

「まずい下がるぞ!」

 野砲隊を指揮する小隊長は、左方向よりかなり近くまで敵が接近していることに気づき、部隊に後退を命令した。

「こちら第四野砲隊、九時方向より敵歩兵集団の接近を確認後退する!援護頼む!」

 通信機越しに会話を交わしているのは、スライである。彼らの前方二十mという一番近くにいた四小隊のALがスライであった。援護要請を受けたスライは八時方向に目をやったが、左のモニタはノイズの海が映るばかりで、故障していたことを思い出して舌打ちをした。仕方なく上半身だけ左に向けると、なるほど百mほどの距離までにいつの間にか敵の部隊が接近していた。これはもうかなり囲まれ始めているという証拠だ。

 彼はキリルムにそのことを報告すると、ヴィレルラル達にその場を任せ単機で野砲隊の撤退の援護に入った。

「助かったぜ、皆によろしくな」

〈ああ、撤退援護感謝する。おい、進め!〉

 野砲を牽引している小型トラックが、逞しいエンジン音を上げてゆっくりと重量物の野砲を引っ張る。地面は非常に荒れており、馬力のある軍用トラックでも六ガトン以上もある78㎜砲を引っ張るのはかなり骨のいる作業のようだ。ドライバーが目一杯アクセルを踏み込んでいるが、窪みに野砲の車輪が嵌ってしまったらしく、一向に動く気配がない。本来なら棄てていくべきなのだろうが、野砲に必要な鉱物が算出しないビスクスムでは、砲兵戦力の乏しいため野砲の一門でも惜しい戦況にあった。だがこのままでは野砲の廃棄も止む無しかと砲兵たちが覚悟していた時であった、背後からスライのALが歩み寄り、しゃがむとおもむろにその巨大なマニピュレータで野砲の尻を軽く持ち上げて窪みから脱出したのだ。

「助かったぜ!!」

 小隊長たちはスライ機に略式の敬礼をすると、エキゾースト音も高らかに戦場から離れ始めた。そこに側面に回りこんだ敵の攻撃が浴びせられる。

「やらせるか!この蛆虫ども!」

 やらせはせんとばかりにスライ機が前進、一気に距離を詰めると蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う敵部隊を蹂躙し始めた。対地機銃が次々と敵兵を掃射していき、また銃弾がもったいないとスライはALの足で踏み潰し、蹴り殺し始めたのだ。数十ガトンもの鋼鉄の塊に当たられたのでは、生身の人間がもつわけがない。文字通りミンチの如き惨状を呈しながら側面から回り込んできた部隊は一瞬にして壊滅した。

「ざまあみろ、生身でAL様にたてつくからそうなる!後進国の野蛮人どもめ!」

 ひとしきり罵倒すると、野砲隊が去ったのを見届け彼は元の位置に戻った。

〈見えましたよ、曹長〉

と、定位置に戻った丁度にジュードルが前方を指さした。示された方向を見ると、モニタが後退してきているキリルムとリンドのALを捉えていた。よし、と拳を握るとスライは援護射撃を絶やさぬように二人に指示した。

 見ると、リンド機は先ほどリンド自身の足をやられたと言っていたように歩みはぎこちなく、左に比べ右足の動きが小さい。あれでも本人は痛みをおして操縦しているのだろう。キリルム機はというと、リンド機とは二百ほど離れてはいるが、常に接近を試みており離れた場所からでも敵に牽制射を行ってリンドの援護をしているようだ。

〈ヴィレルラル、ロケットを使え。あれだ、あのあれ〉

 あれ、とは恐らくヴィレルラル機の腰に刺してある簡易型ロケット筒であろう。

 見た目はグレーのパイプのようであり非常にシンプルな構造をしているそれは、中に単発使い切りの二百六十㎜ロケットが装填されており、目標に向けて撃つと発射された大型弾頭が目標に着弾して大爆発を起こすという代物だ。最近量産化体制に入ったばかりの新物であるため使いどころを見定めていた。できれば大物相手に使いたかったがこの際仕方がない。何故ならリンドの後方三百mより敵の大AW集団が迫っていたのだ。如何にAWと言えど、数十機も集まれば十分すぎる脅威となる。キリルムはその集団に向かって撃つように彼に指示したのだった。

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