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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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傷ついた巨人(2)

 スライの呼びかけに、リンドはなんともつらそうな声で応える。

「っくう……右の手と足を、やられました……畜生……」

〈動けるか?〉

「わかりません……足も、重ヴァルもどっちもどうか……」

 事実、機体は重要なコックピットブロックを幾分か破壊されてしまっており、もしかすると脚部への配線が千切れて動かない可能性がある。それ以前に脚部自体が破壊されているという可能性もあるのだ。小モニタを確認すると、ノイズが走っていたため左手でバシバシと叩いたが、ノイズが消える気配は無い。それでも一応機体状況は確認できるので目を凝らしてみたが、胸部と頭部、右肩他細かい部分にダメージの表示があるが、脚部は歩行不能な程の損傷は受けてはいなかったため、ほっと胸をなでおろす。

「動けると思います」

 そう報告すると、キリルムが待っていろ、と回収にくるという旨を伝える。

「ありがとうございます」

 キリルムの位置を確認したいが、残念ながらレーダーモニタは完全に破壊されており味方はおろか敵の位置などわかるはずもなかった。それでも目視ならばと、生きている前及び左のモニタを注視し周囲の状況を確認した。

 相変わらず敵はこちらを撃ち続けており、前進してきた敵を機銃で撃ち返すということを繰り返している。だが機銃の弾も心もとなくこれ以上の使用は控えた方がいいかもしれない。リンドは生きている機銃の内半分以上をオフラインにすると、左腕で右腕を引っ張り動かし、重ヴァルの右腕で胸部を庇う位置に持ってきた。右腕は現在リンドの膝の上にのせてあり、腹部と胸部の間を守る形になっている。そうすると、左腕とバーニアをもう一度使って、今度は機体を立ち上がらせようと試みた。ミシミシと軋ませながら、重たい腰を上げるAL。

「ああクソ……頼むぜ」

 金属音に顔をしかめる。外では重ヴァルの右のサイドスカートと右手の小指が地面に落下していた。おまけに右の突撃銃も。どうやら右手のアクチュエータだかエンジンだかが死んでしまったようだ。右腕はリンドの意に反してだらりと垂れ下がってしまっている。だが小モニタにはほぼ正常に表示されている。機体診断システムまで異常をきたしているようで、こうなったら他の部分も合っているのか怪しくなってきた。

「痛い、痛い……」

 ペダルを踏む右足が酷く痛む。少しずつ痛み止めが効いてきているはずだが、思い込みのせいなのか効いているようにはとても思えなかった。

 重ヴァルはぎこちない動きでゆっくりと後退していく。それをコリューション軍が追撃する。リンドも突撃銃で応戦していくが、遂に弾切れを起こしてしまった。実はもう一つ予備のマガジンがあったのだが、三日前の戦闘で立っていた地面が突如陥没し、その時の拍子で潰してしまったのである。ラックから外したくても破れた弾倉の外装が装甲に食い込んでおり、外すには溶断が必要だったのだがそれもなく、仕方なく残したままにしていた。

「クソ、ヘボ銃め!」

 悪態をつくと、腕を振るって銃を投げつけた。十五m前後の兵器の使う銃ともなると、人間サイズのものよりもはるかに巨大で質量も持つ。銃一つでも数~数十ガトンもの重さになるのだ。そんなものを投げるだけでもちょっとした武器にはなった。約五mもの長さの鉄の塊が飛んできたのだから、生身の人間ではひとたまりもない。最初に地面に当たってから撥ねるまでに十人以上、二度目の落着で八人、そして低空飛行で十一人と装甲車一両、完全に落下してから滑走し止まるまでに三十人もの人間を死傷させたのだった。これなら一発の銃弾よりよほど威力があったというもの。当然最終手段であるが。それに弾切れになったからと言って銃を捨てるのは論外である。資源の無駄であるし敵に利用される可能性は捨てきれない。それに補給整備をすればまた使えるのである。それでも今捨てたのは、やけくそと、補給が見込めないこと、そして右腕が使えないことで補給が困難であるためであった。ただもっとも、大概の銃のリロードはサブアームによって行うか、弾切れになると自動で新たなマガジンが差し込まれるのだが。

〈第三陣出ました!〉

 スライの報告、これが最後である。キリルムとリンドは徐々に後退し始める。それを援護するのはスライ、ジュードル、ヴィレルラルと残ってくれた残り僅かの野砲隊二門、十六名であった。野砲隊の78㎜砲の水平射が、迫りくる敵装甲車に向けて行われる。78㎜もの口径の砲弾が命中した装甲車は、一瞬にして爆発し残骸が燃えている。既に徹甲弾を使い果たした野砲隊は、榴弾でしきりに応戦していた。もし戦車が来れば、榴弾しかない野砲隊では防ぎきれないが、その心配もALがいれば不要なものであろう。

「右五度修正、下げ一!撃て!」

 観測手の指示の元、素早く砲の角度の調整がなされ砲手が引き金を引いた。高速で撃ちだされた榴弾は、前進中の敵歩兵の一団に正面から飛び込み直撃した人間は当然、着弾し周囲の人間を吹き飛ばした。大きな空薬莢が、排莢装置から排出され、黒い地面に既に重なっている空薬莢の上に落ちぶつかって甲高い打突音を奏でた。

78㎜野戦砲:シェーゲンツァート軍採用の野戦砲。運用人員は九名。トラックによる牽引式で、設計が古いため口径の割に重く整備性も悪い。後継の98㎜砲が出て久しいが、戦争が勃発したため退役せず戦争を通してシェーゲンツァート及び数か国で運用され続けた。徹甲弾、榴弾を主として使用する。

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