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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第三章 移りゆく戦局
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傷ついた巨人

 合流を図るリンドとキリルムであったが、敵もそれを許すはずがない。合流させまいと二機を引き離しにかかるために、わざと進行方向に攻撃を集中しそちらにはいかせないようにしたのだ。

「攻撃が厚い……ウワッアア!」

 激しい衝撃と同時にコックピット内で小さな爆発が起り、黒煙と火花が噴き出した。そしてもう一度大きな振動、地面に激突したようである。

「ウグウウウ!!」

 とてつもない激痛が右手足に走り、あまりの痛みに気を失いかける。

〈大丈夫かリンドォ!〉

 彼の悲鳴を通信機越しに耳にしたキリルムが、安否を確認しようと話しかけるが本人は痛みでそれどころじゃなかった。外から重ヴァルを見ると、コックピットハッチのコックピットとの接地面に大きな被弾痕があり、そこから煙と共に炎を吹いていた。内部を守る自慢の重装甲も、度重なる戦いと修理が追いつかなかったことにより剥がされていた上に、重要な二層目の第二外殻の接続部が衝撃で基部から脱落していたのだ。それにより機体のそこかしこに歪みができており、何十発と撃ち込まれた大砲の内の一発がその隙間から装甲をこじ開けコックピット内部にまで被害を及ぼしたのだった。走行中に唐突に操縦不能に陥った重ヴァルは、うつぶせに地面に臥している。これによりALを一機仕留めたと思い込んだコリューション軍は湧き立つ。

「っぐうう……はあ、はあ、はあ……どうなって」

 痛みに顔をしかめながらコックピットを見回した。右のモニターは完全に液晶が割れ枠ごと脱落している。右側のコンソールやパネル類はほぼ全滅しているようだ。正面上部のモニターもヒビが入っており、ブラックアウトしている。右前方に、直径十センチほど大きく装甲のめくれがあるのを確認した。どうやらそこから爆発が飛び込んできたらしい。もう一度見まわした後に、彼はためらいながらも自分の手足に目をやった。

 パイロットスーツの手足の部分は黒く煤けており、少し破れている。破片で切られたようだ。そしてそのマットな黒い中にも、光沢のある部分がある。それは考えるまでもなく彼の血であった。右の手足に火傷と少なくとも切り傷は負っているようで、よく見てみようと腕を動かそうとしたが、動かない。痛みはあるのに動かせないのだ。体全体が重く感じられ、どうにか動かせたのも小指と薬指が一ミリほど動いてあとは痙攣するばかりであった。

 この時点で泣きたかったのだが、足はどうだろうか。足はいくらかマシなようで、同じように火傷と流血があるが、なんとか動かすことができた。

「ぐっ、消毒、消毒と……し、しけ、止血…剤」

 ……痛み止めだ。戦場では感染症を防がなければならない。戦場は雑菌と病気が蔓延しやすく、いつまともな治療を受けられるかわからないからだ。サバイバビリティが重要視されているAL、特に空挺部隊のようなサバイバルを強いられることもある部隊のには医薬品もしっかりと積んであるのだ。

 リンドは無事な左腕で、右のモニターの上にある引き出しを力いっぱい引いた。どうして医療品が必要な時にこうして力がいる収納にしたのか、はなはだ理解できないと虚ろにぼやく。引き出し自体が救急BOXとなっているので、引き抜くと震える指で開けて銀色の袋を取り出した。無理矢理引っ張り出したので、コックピットシートの下に幾つか薬などが落ちたが気にしない。それを歯で慎重に開けるとまず手に振りかける。黒く少し粒子の荒い粉が傷を負っている場所に振りかけられた。再び猛烈な痛みが彼を襲うが、これは必要な痛みだ。パイロットスーツを切ってしっかりと行いたいところだが、自分一人ではそれも難しい。

 手足に振りかけると、次は透明な細い袋を取り出し中身を出した。それは注射器で、中には高性能な消毒薬と痛み止めの薬が調合してある。痛み止めだけの注射はまた別にあり、これはとにかく素早く処置をするためのものだ。訓練で習いはしたが、まさかこうも早く実践する羽目になるとは思いもしなかったと、リンドは苦しそうに笑った。

「ちくしょう……」

 注射器を投げ捨てると、操縦桿を握りなおした。幸い利き手は無事だ、まだ戦える。ALは利き手でなくとも照準装置が腕のブレを修正してくれるが。

「くたばれ雑魚ども……ハア……ハア、俺はAL乗りだぞ、お前ら……みたいな雑魚じゃねえ……」

 左腕を使ってALの姿勢を変える。倒したと思っていたALが動き出したコリューション軍は、すぐに重ヴァルに照準を定め直す。そのまま左腕とバーニアを使って上半身だけ起こした体勢になると、トリガーに指をかけた。

「……食らえよ」

 108㎜の砲弾が連続で二発、重力に引かれながら前線の僅かに後方に飛びこんだ。爆発、何を仕留めたかはわからない、だがきっと何かしらを仕留めたには違いない。これだけ密集していれば、何かには。

 腕と胸部の三門の25㎜機関銃で、一番近くの歩兵を掃射する。次々と銃弾に倒れていく敵兵。重ヴァルの頭部に直撃弾、左の顔が抉られメインカメラが損傷したが、カメラはなにも一つではない。サブカメラでコンピュータが映像を修正する。

〈リンド、生きてるか!〉

 スライの声だ。後方、彼らのいると思われる場所から援護射撃が加えられ敵を牽制するが、距離と、夜戦とがあるため、命中率は芳しくない。

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