脅威襲来(2)
「呆れた!」
ALと戦わなければいけないという現実に思わず突いて出る本音。AAとの戦闘すら大して経験したことがないというのに、ましてやALなど。このあたりの国ではALはあまり用いられないため、使うノウハウも倒すノウハウも乏しいのである。理由は簡単、砂漠地帯では重すぎ、砂が入り込んで故障し、そして熱にやられる。それと、単にALを大量配備できるほどの余裕がないのである。ケイマンスでもビットーが聞いた話では確か小型の何とかというのが二十機まとめてたった一つの部隊に配備されているとかいないとか。せいぜいそんなものであった。当然ビットーにも倒すノウハウというものは無かったのだが、長い間軍人として戦ってきた経験と、AAのプロフェッショナルという経歴が彼に咄嗟の機転を利かせたのであった。
〈わっ!〉
チューリングの真横を、下から上に向かってALの機関砲が掃射される。28㎜の弾がビルの床も壁も天井もお構いなしにぶち抜いていったのを見て、つくづくAAを装着していてよかったと思うのであった。あんなものが生身で真横を掠めていこうものなら、たちどころに体は圧で薙ぎ払われて破壊されてしまうだろう。
〈ALの型は恐らくオースノーツ製のヴァルフラッハかと!〉
ALに関する指導を受けてきた隊員の一人が告げた。
「そいつはどういう奴だあ!!」
マシンガンで応戦しつつ移動しながら、彼は叫んだ。
〈とかく特徴のないALですが、こいつは上半身の装甲が強化されているものかと!ALの対処法は駆動部をまず第一に狙ってください!〉
「やってる!!」
期待していたほどの情報を得られなかったために、彼は怒り交じりに返答した。爆発音、今度こそ第五小隊がやられたようだ、彼らが応戦していた場所が粉塵で覆われ反撃の様子が見られない。第五小隊を葬ったヴァルフラッハ二番機は、サブアームで何か大きな丸いものを取り出すと数秒の後それを第七小隊のいる屋上目がけて放った。
それが瞬時にグレネードだと判断するのは容易であった。まるっきり人の使うものの拡大版の見た目をしていたからである。
〈グレネード!!!〉
七小隊の誰かが叫んだ。少し勢い余って彼らを通り過ぎビルの向こう側に落ち始めてから爆発したグレネードであったが、彼らを吹き飛ばすには十分な距離であった。屋上ごと彼らを吹き飛ばす。
「ちっくしょうめえ!!」
怒りに震えるビットー。だが次の瞬間、信じられない光景が目の前で起きたのである。一機のAAがアクション映画ばりのスタイルで粉塵から飛び出したかと思うと、まっすぐALの頭部に着地、勢い余って首のところに落ちると、彼はSATRを至近距離でALの首元に発射したのである。この映画のような光景とその行動のイカれ具合に茫然とする隊員。案の定彼はSATRの反作用と爆発の勢いで真後ろに勢いよく飛んだ。
(AA着てるのにあんなに飛ぶのかよ……)
目撃していたジュマーディは複雑な表情だった。そのまま落ちた彼は運よくビルの穴から中に入りこめたようで、地面に激突することは避けられた。それでもなかなかの痛みが彼を襲ったであろうことは間違いないが。
首にSATRを受けたヴァルフラッハは、頭部の機能を完全に破壊されただけでなく、機関にも重大な損傷を受けたらしく、機能を停止してビルにもたれかかるように倒れこんだ。激しい激突音、これで無事なALは残り一機で、それと膝をやった奴をやるだけである。だがその「だけ」が難しいのだ。
七小隊はどうやら先ほどの彼だけが生き残ったようだ。その生き残りが誰なのかをビットーは確認する。
〈ハ、フレンキアヒ伍長です!〉
フムスでは無かった。しかし、フレンキアヒは聞きなれない名である。つまり彼は新兵のはずだ、この事実にビットーは心底驚いた。まさか生まれて初めての戦争なうえに生まれて初めて見るALに土壇場であんな芸当をやってのけるとは、人体の不思議といったところか。
「お前は五小隊と合流しろ!セレステン、聞いたな!フレンキアヒを拾ってやれ!」
〈ラジャー!〉
ヒヨッコの活躍にはまだまだ負けていられないという気持ちが沸き起こったビットーは、部下を連れてビルの中を全力で駆ける。ALの機関砲が彼らを追うように後方から迫ってくる。そして一人、ジュマーディが機関砲に飲まれ消えた。
それでも振り返らずに彼らは走った。
「わああ!」
突如目の前の床が消え、三m程向こうまで床が消えていた。それどころか同じ階は完全に崩落しており、一番上でも一つ下の階だ。全速力で走るAAは急には止まることはできない、足を加速させたビットーは跳んだ。
「メル・キエステ!!!(※1)」
手足をばたつかせながら斜めに落ちていく。幸運にも届いたが、AAの重量が災いしたのか、脆くなった床を貫いて更にもう一つ下の階に叩きつけられてしまった。続くチューリングももっと手前の床を破壊して激突、続く二人は、クラメンスは上手く着地できたもののポルスキが同じところに着地してしまったため、壁をぶち破ってそのまま既に開いていた穴に吸い込まれるように落ちていき、結果として四人ともさらに下の階に落ちたのであった。
「おークソいってえ……」
ぶつけた腕をさすりながら立ち上がる。三人も痛みを押して立ち上がるとよろめきながらも再び走った。もう機関砲の音は追いかけては来ない、どうやら諦めてくれたようだ。だが代わりに他の隊員に攻撃が向かうことになるのだ。
※1 メル・キエステ:ケイマンスの言語シュバンツス=テーマンタ語で「お助けを」を意味する。もともとはベルミというこの地域周辺でかつて信仰されていた密教の言葉「メレ・スケンテ」であるが、変化していつのまにか市民の間にも広まっていった。日常生活でも「ほんと!?」「しまった!」「どうしよう」といった広い意味合いで使われるため、他言語話者から困惑されている。




