脅威襲来
「行こう、合流だ」
別れた四班と合流し、道を進む。フィップの遺品は回収できなかった、フィップの死体がAAと共に炎上していたためだ。AAに使われている燃料やオイルの類が炎上するとひどく死体を損壊し、その上少し人体に有害な物質へと姿を変えるのだ。そのため遺品の回収は諦める羽目となった。
〈こちら第五小隊、六小隊とともに合流地点に到着、指示を乞う〉
先に戦闘を終えていた五、六小隊の方が早かったようだ。すぐさまビットーは建物の中に隠れるように指示する。
〈ラジャー〉
「よし、少し急ごう」
駆け足で六機のAAは進む。瓦礫を踏みしめ穴を飛び越え、彼らは進んだ。時折水分を補給しながらも彼らは進む。AAは口元に水のタンクに繋がるチューブが飛び出しており、着用者はAAを着たまま水分の俸給ができるのだ。食事は流石に不可能だが。
「廃墟が続くばかりというのも」
廃墟、廃墟、廃墟、廃墟……目につく者は廃墟である。人の生活感や人いきれというものがこれっぽっちも感じられない無機質なこの街に、彼は改めてここが激戦区ということを実感するのだった。ここには地下にすら人は住めない、地下は崩落していたり循環が失われた結果腐敗した排水により発生した毒ガスが充満しており、難民すら住めやしない。おまけに地上はボロボロで、あちこちに不発弾や地雷が残っている有様だ。彼はこの街を復興することなど出来るわけがないと諦めていた。
そんな悲しそうに街を見つめる彼を、一つの爆発音が正気に戻す。距離は近い、そして目の前には四班のセルケスの上半身と、砕けた血肉、AAの部品が飛び散っていた。
「セルケス!?」
慌てて駆け寄り助け起こすが、当然彼は既に息絶えている。ああ、どうか彼が即死でありましたようにと目を瞑った。
〈地雷か……〉
考えた矢先にこれだ。威力からしてどうも彼は小型の対戦車用地雷でも踏んだらしい。通常の対人地雷なら酷くても片足を失うくらいで済んだだろう。それはAAの装甲のためである。だが対戦車用ともなれば戦車を破壊する威力である、胸のあたりまで吹き飛んでもおかしくはない。
〈起爆したのは………〉
チューリングの言いたいことはわかる。人間が乗っただけでは爆発しない対戦車地雷も、AAを着込めば爆発する。
「クソ」
巻き添えを食って倒れたジュマーディをクラメンスが助け起こす。不幸中の幸いにして彼は怪我は見られないようだ。
また彼らは進む。そしてそれから五分後、ようやく彼らは別れた部隊と合流することに成功した。既に地点には五、六小隊の他に八、九そして第七小隊が到着していた。
〈御無事で〉
隊員たちが追いついた五人に一喜一憂する。彼らの無事を喜ぶ声もあれば、三人が死んだことに涙した者もいた。
〈それより〉
と、第七の小隊長フムスが手を上げた。
「どうした」
〈第二小隊との連絡が取れません〉
「第二と?」
ビットーは自分でも第二小隊との通信を試みたが、彼の言う通り第二小隊との通信を持つことができない。もしかすると、と彼は一度八、九小隊の識別がマップから消えたという話をしたが、他の者は皆一様にそんなことは知らないと首を横に振った。だとするとあれは結局敵のEMP兵器などではなく、単に自分のAAが故障したというだけだったのだろうか。現に、最悪全滅かと考えていた二つの小隊はその直後に連絡を取ることができた。しかし今回は違う、自分だけでなく部下のAAでも彼らの安否を認知できないのだ。無論、識別反応も消失している。まさか今度こそは、と彼は体から血の気が引いていくのを感じる。今度こそは、AA一個小隊を簡単に消せるほどの敵が現れたとでもいうのか。
第二小隊は単独行動である、つまり彼らを目撃した者はいないのだ。彼の歴戦の勘が部隊を動かした。
「第七小隊、あのビルの屋上へ行け!SATRの使用を許可する。第五はあそこに!第六はあの高速道路に上れ!第一小隊は来い!」
ハチの巣を突いたように沢山のAAが指示された場所に散っていく。第十小隊と第一小隊は統合して第一小隊となった。
〈隊長、レーダーに感あり!これは……!!〉
今唯一ここに生存している探査機器装備の隊員の声が、消え入る。
「機動部隊、敵に警戒しつつ東から合流地点に来い!敵と遭遇してもかまうな!デッジ、全員連れて合流しろ!八小隊と九小隊!急げえ!!」
珍しいビットーの怒声が飛んだ。それにただならぬものを感じたのか、尻を叩かれたように隊員たちはいつもより数割ましの速度で動いているように見える。
(急げ、急げよ)
自身もビルの中に隠れ、西の方角を注視した。何故西か、それは第二小隊が一番西にいたためである。彼の不安はやがて的中した。それは彼がこの戦場で最も出会いたくないものであった。遠くから地響きが近づいてくる。それは一つではなく、ランダムにいくつも轟き、振動がAAのサスペンションに吸収されていく。だが、瓦礫は違う、窓枠に転がる小さなコンクリート片がカタカタと小刻みに揺れ始め、そして外に落ちた。
〈嘘だろ……〉
作業の手を止めて、窓の外が目に入ったチューリングが立ち尽くす。
「ああ……ALだ……!!」
駆動音がまるで威嚇する咆哮のようだ、三機のALが、このスラッグ市に姿を現したのだ。
「動くな……!」
隊員に命じる、動かないのがどれだけ効果があるかはわからない。ALにはAAに積める以上の性能を持つレーダーがあるはずだ、それなら動いていなくともAAの一つや二つ探知できるのではないだろうか、いや出来るはずだ。それがましてや数十機ともなると言わずもがな、であった。
目の前をALの二の腕が通過してく。この距離で敵のAL見るのは初めてである。実に巨大な姿が威圧感を存分に発揮しており、ビットーさえも恐怖で足が震えていた。対AL戦闘なんてしたことがないのだ。しかし、敵はこちらに気づく素振りが見えない。相手のレーダーが故障でもしたのだろうか、それも三機揃って。或いは作戦か、それともALに不慣れなのか……
生唾を呑み込む。一機のALが通り過ぎ、そして二機目が展開地の中心を通過した。三機目も入り始めたその時であった、第六小隊の誰かが恐怖に負け沈黙を破ってしまったのだ。
〈ああああ!!!!〉
マシンガンから放たれた数十発の弾丸は、ALの装甲にいとも容易く弾かれてしまい、まったく効果はない。
「クソったれ!!第五小隊、一機目の頭部を狙え!第六小隊は逃げろ!第七小隊は一機目の膝を!第一は三機目の頭部だ!」
届いたかはわからない、しかし隊員たちからALに向かって攻撃が開始された。第五小隊の放ったSATR五発が、一斉に先頭のALに向かって飛翔する。一瞬の後、三発が後頭部に命中した。直後に第七の放った
SATRがその右ひざを破壊した。ALは膝をついたが、煙から現れた頭部は、後頭部が酷く破壊されていたものの未だその機能の多くは生きていた。上半身を反転させたALは、胴体に備え付けの小型ロケット砲を、第五小隊のいるビルに向けて放った。ロケット弾は彼らのいる場所から十mほど離れた上階に着弾し、周囲を破壊した。
一方の第六小隊はというと、三機目のALにライフルを向けられていた。その口径実に82㎜、AAなどさしたる障害ではなかった。二十発前後の弾丸が彼らを木っ端みじんに吹き飛ばした。瓦礫と共にAAの一部が地上に落下していく。
SATR: Short anti tank rocket の略。短射程の対戦車ロケット。例にもれずこの兵器も無誘導である。威力は絶大で100㎜の装甲でも貫き、着弾後に弾頭から内部に高温のガスが内部に噴射され中を焼き尽す。ATRと略称が一緒という欠陥があるためよく手違いが起きる。AAの片腕に装着できるほど手軽だが、再装填が出来ないのが欠点。
ATR: Anti tank rifle の略。口径14.11㎜ 文字通り対戦車ライフルである。威力は当然対戦車砲やSATRと比べると劣り、現状殆どの戦車の装甲を抜けない。それでも装甲車ならまだ十分に相手に出来る。
対戦車砲よりは汎用性に優れ持ち運びしやすく、SATRよりは装弾数が多い。人体に使用すれば当然吹き飛ぶ。




