Armed Armor(3)
敵も反撃を始めた。歩兵たちのライフルが戦車に砲撃された場所に向けられ、一斉に大量の弾丸が注ぎ込まれた。それでも果敢に三班の生き残りは反撃を続けていたようだが、ものも十秒もしないうちに反撃は止んでしまった。中隊の面々は窓から必死に支援攻撃を繰り出していたが間に合わなかったようで、ビットーは舌打ちをすると移動を命じた。一か所にとどまっておくのは危険である。素早く撤退した直後に、一班のいた場所に砲撃が加えられ破壊されていた。
「各班は各自北進しろ!指示は追って出す!」
間一髪で脱出した一班は階段を駆け下りると出口へは向かわず途中の戦闘で空いたと思わしき大穴を潜り抜け、通りに出る直前で立ち止まった。先頭を行くメスト曹長がそっと顔を端だけ出して通りを窺う。すぐに引っ込めるとその様子を隣のビットーに伝えた。
〈戦車が一両こっちに車体を向けていますが砲塔は俺たちを探しているみたいで。歩兵も十人以上はゆっくりこっちに〉
「もう一つは?」
〈見えません。まだ出てきてないのかと〉
「わかった」
すぐさま彼は通りを挟んで向かいの裏路地を注視する。狭いが幅はAAが通るには十分の広さがある。今のうちに一気に突っ切るしかないだろう。道幅は、広くはない。AAのパワーで無理やり突っ切ればすぐだ。
「フィップ、援護だ。全員わたりきるまで援護射撃!チューリング、先に行け。渡ったら援護!いいな!グレネードの使用も許可する!行け行け行けえ!!」
敵がまだ落ち着きを取り戻していない隙を突いて、一班は通りを突っ切る。一番最初に渡ったチューリングのAAの駆動音は銃撃の音に紛れてはいたものの、それでも特徴的な駆動音はごまかせなかったようで敵に気づかれてしまった。そもそも目の前を二mほどの物体が通り過ぎて気づかないほうがおかしいというものである。
それでもまばらに銃弾を受けつつも装甲で弾きどうにか渡り切ったチューリングは、すぐにマシンガンで残りの三人が渡れるように援護する。
AAが使う火器は特製である。AAは指先まで装甲で覆われているため人間用の武器では握ることができない。そのため一回り大型化された携行火器を使用する。ケイマンス軍が使用しているAA用の標準武装のマシンガンもそうであり、これに関してはAAと違い一応国産である。大型な分口径も大きなAA用火器は当たれば一撃で人間を破壊する程の威力を持つ。そのためAAの攻撃を逃れるには生半可な遮蔽物ではなくそれなりの装甲を持つ戦車や分厚いコンクリートの壁を二枚ほど挟まなければいけない。間違っても木のテーブルで防ごうとしてはいけない。そうすれば次の瞬間にはテーブルと一緒に木っ端みじんになっているからだ。
AAの攻撃を受けた敵の生身の兵士はまさにその通りになった。彼らが放ったライフルの弾丸はAAの装甲に金属音を上げながら弾かれたが、逆にAAの撃った弾は兵士とその後ろにいた者を巻き込んで貫いた。
「行くぞ!」
二番目にビットー、次いでメストが走る。走りながらも右に目くら撃ちをしながら通過する。その彼の視界に映ったのはこちらに主砲を向けているパルコームの姿であった。
(あっ)
その姿を認めた瞬間、彼はそんな感想しか浮かばなかった。シャツのボタンが取れた、そんなトーンだった。音がするかしないかの内に、撃ちだされた90㎜榴弾は一瞬で後ろにいたメストのAAを消し去った。文字通り、先ほどまで後ろにいたメストの姿はなく、衝撃でビットーは正面の壁に叩きつけられた。
「うっぐううう……くそっなんだ……」
口を伝う暖かい感触が。鼻血でも出たのか……体中が痛かった。こんなふうに真横を戦車の砲弾が突っ切ったことは生まれて初めてで、これが戦車の威力なのかと、朦朧とする頭で微かに実感していた。
〈ああクソ!メストがやられちまったよお!〉
そう情けない声を出しているのはチューリングのようだ。彼はメストが先ほどまでいた場所に向かってわめきながらも援護射撃を続けていた。残りはフィップだけだが、今目の前で起きたことに怖気づいてしまったようで、足がすくんでしまったらしい。無理もない、彼は今日が初陣の十五の少年なのである。
〈早く来いフィップ!!〉
チューリングが怒鳴りつけるが、フィップは無理ですと今にも泣きだしそうな声で繰り返すばかりであった。このままでは追いつかれて三人ともお陀仏である。そこでチューリングは考えた。今自分の足元には使い物にならない隊長が転がっており、通りを挟んで向かいには腰の引けた新兵がいる。通りからは戦車と歩兵が向かってきている。どうにか三人で生き残る必要があったが、今自分に出来ることは限られている。どうするか、ふと彼の目にビットーの腰についている大型手榴弾が目についた。
(そうか!)
彼は自分の腰から手榴弾を二発もぎ取ると、ピンに指をかけ投げようとしたところで手を止める。投げるには体を晒す必要があるが、そうすれば戦車に撃たれる。しかし敵がどこにいるかがわからない。
立ち止まってしまったが、直後に戦車がフィップのいる場所に向かって砲撃をし、直撃こそ免れたがビルの壁を破壊されその爆風でフィップが後ろに倒されたのを見て、彼は躍起になった。レーダーでおおよその位置を確認すると、彼は飛び出さずになんと壁に向かって全力で手榴弾を投擲したのだ。立て続けに投げられた二発の手榴弾はビルの壁に斜めに当たると、そのまま跳ね返って敵の足元に落下した。
爆発、ガラスの割れる音と破砕音がスピーカーに飛び込み粉塵が敵のいる方向から勢いよく流れ込んできた。恐る恐る彼が通りを覗き込むと、血肉と瓦礫が散乱しており戦車は粉塵でこちらを見失ったのかゆっくりと後退し始めた。戦車に損害が見られなかったのは残念だが、これで二人を助けることができる。彼はすぐに通りを戻るとフィップを助け起こし、三度通りを通過、ワイヤーを引っかけて二人でビットーを引きずって退散した。
三人が通りの突き当りにあるビルの壁にめり込んでいるものを見ずに済んだのは幸運だったかもしれない。原型をとどめないまでに破壊されたAAが飛び散ってビルとその周辺に突き刺さっていたのだから。




