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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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英雄の素質

 カニータ准尉はヴィエイナからの命令に違反して、リンド機への攻撃に移った。それは彼の中に確固たるものとして確立されてしまった自信と、戦い応えのある敵がおらず自分の腕を持て余していることへの不満によるものであった。

 また、隊長であるヴィエイナが彼よりいくつも年下だったということもあるだろう。そういう理由から、彼は命令違反を犯した。

(あれを倒せば上からも文句はないだろう。それどころか俺が隊長になれるってわけだな)

 彼はヴィエイナ並みの低空飛行を披露し地上のシェーゲンツァート軍兵士を脅かしながら、リンド機へと接近する。重装甲のリヴェンツを撃破するにはちょっとやそっとの接近では、その分厚い増加装甲を貫くことは出来ない。遠距離からダメージを与えたいのならば、それなりの大口径砲を持ってくる必要があるが、重量が制限がシビアな飛行型ALでは、そのような重量物を抱えて飛ぶことは出来ないわけで、つまりその機動性と三次元機動を生かして一気に懐に飛び込み、装甲を貫ける距離まで接近して撃たなければならないということだ。

 これは非常に難しい操縦技術が必要とされるため、エースパイロットでもなかなか出来ることではない。

〈がら空きだ〉

 上空を飛び回って仕留めるタイミングを狙っているヴィエイナ機に意識を取られているリンドの隊は、誰もカニータの接近に気づいていない様だった。その中で真っ先に気が付いたのが、一番近くにいたピュループとビグルバックルの乗るネイヴェロープであり、照準が頭部に向けられていた。

 銃弾がフルオートで放たれる。機体の向きを変えることもできないネイヴェロープは、装甲の薄い側面から装甲を貫かれる。アサルトライフルの発射速度に飛行速度が加わり、威力の高まった銃弾は、陸戦ALと比べると小口径小威力ながらも貫通力が増す。

 だがしかし、それでもネイヴェロープの頭部装甲をそう簡単には貫くことは出来ない。それが出来たのは、驚くべきことに彼は同じ場所に銃弾を連続して命中させたからである。一発目が装甲表面を抉り、二発目も同様、三発目で貫かれてコックピットを貫通して内壁に当たり爆発、四発目は僅かに軌道を逸れて破孔に当たり爆発、内部をさらに焼き払う。

 そうして、ネイヴェロープの頭部にあるコックピットは何発もの小型徹甲榴弾によって貫かれ吹き飛ばされた。

〈ああっ!隊長ピュループ機が!〉

「しまっ……!」

 フーフラーファ曹長の声に、ようやくカニータ機の低空からの接近に気が付いたリンドは、己を罵る。

(馬鹿め!レーダーとあのクソ鳥ばかりに気を!クソ!)

 頭部が吹き飛んで力なく両腕が垂れたまま炎上しているネイヴェロープを目にし、彼は歯ぎしりする。そうしている内にもカニータ機が接近、炎越しにリンド機に命中弾を出す。弾は確実にコックピットのある位置を狙っていたのだが、彼はピュループ機が撃破された際に機体正面を偶然カニータ機の方へと向けていたため、分厚い正面装甲に全て阻まれてしまう。

「何をしてる!准尉!」

 カニータが命令に反してリンド機に手出ししたのを目にしたヴィエイナは、当然声を荒げる。

〈お言葉ですが大尉、さっさとあれを倒さないと友軍に被害が重なります〉

 もっともらしいことを言いながら一旦リンド機をパスする彼だが、当然そのようなことは考えていない。彼の頭にあるのは中年も近づいてようやく得られ始めた栄光と名声ばかりで、その他の兵士たちは皆敵であろうと味方であろうと、雑兵に過ぎない。今までその雑兵ばかり相手にしてきたため、エース機の首という目立ったトロフィーが欲しいのである。

「ふざけるな!命令を聞け准尉!上官命令だ!」

〈こいつをやれば国民の英雄だ〉

「英雄になるために私はそいつを」

 殺したいんじゃない、と続く彼女の言葉は別方向から飛んできた対空射撃によって遮られる。カニータを制したいが、地上の邪魔が入ってしまう。その隙にも彼はリンド機を襲い次々と命中弾を出していく。その様子を見て焦りを覚えるヴィエイナは、彼の言葉が刺さる。


 さっさとあれを倒さないと友軍に被害が重なります


 その言葉は、確かに彼の言う通りであるため反論は出来ない。何度も撃墜するチャンスがありながらも、今まであの男を殺せていないことは事実だった。戦うのを楽しんでいたのか、いや、まさか。

 彼女は自力でその答えに到達していながら、決してそれを認めようとはしない。そんなことが軍人として、ヴァルソー家の人間としてあっていいはずがない。職務に忠実に、軍人として迅速に任務を遂行すべしだというのに。

 そんな迷いに惑わされている内にも、猛攻は続く。

「こいつもあのクソアマに近いくらい強いぞ!各機残ったもう一機にも注意しろ!」

 リンドはカニータによる攻撃を狼狽えもせず装甲で跳弾させながら、各機にもう一機手強いのがいることを喚起する。

〈硬すぎるんじゃないか、こいつ!〉

 一方で、撃てども撃てども倒れない重装リヴェンツに苛立ちを隠せない彼は、思い切って今度は格闘戦を挑む。撃った後に速度を乗せて頭を蹴りつけたのだ。蹴ったと言ってもサッカーボールを蹴るようにではなく、加速した状態で踵を向けてぶつける、という表現の方が正しい。球を蹴るように蹴ったら、重量差によって機体が破壊されバランスを崩して墜落することは必至だからだ。

 工夫した蹴り方をしたのに、それでも機体は大きく安定感を失いぶつけた右足のフレームとショックアブソーバーに損傷が起き、彼は我が目を疑った。

〈重すぎる……〉

 右足のサブスラスターが点火と消滅を繰り返しており、そちらの制御装置まで故障したようだ。このままでは機体の操縦に支障を来すため、彼は右足のスラスターをカットし戦闘を続ける。

 上空を確認してヴィエイナが対空砲火に邪魔されていることを確認すると、旋回してもう一度リンド機に勝負を仕掛ける。

(次こそはやれる)

 彼には確固たる自信があった。ライフルが効かないのであれば航空爆弾を使うまでだ。翼下には爆弾を懸架出来、まだ百五十㎏爆弾を一つ残している。これを叩きこんでコックピット付近の装甲を一部でもいいので剥がし、三度目の攻撃で主装甲を撃ち抜く。

 狙いを定めて近距離で高速で機動し、ALの旋回速度を上回って接近すると、爆撃用ボタンに指をかける。

「間に合わない!?」

 リンドは機体の上半身の旋回速度を認識されていることに気が付き、上半身だけでなく下半身も同時に旋回させ対応するがそれでも間に合わないことを悟ると、思い切って正面を向き切らない内に、機体を仰向けに倒した。それと同時に、倒れながら空に向かって銃を撃ち上げる。

 メイネーイやザーレであればそれで撃墜出来ただろう、だがカニータ程の腕の立つパイロットではそれならば初動で感づかれ、躱されてしまう。

 彼も当然、反射に近い反応速度で気づけた。だが、彼は過剰な自信のあまり、敵以外の存在にもっと気を配るべきだった。またそれだけでなく、右足のスラスターが故障していなければ……

〈ふん〉

 この程度の攻撃、避けきれないとでも思ったか。俺はエースだぞ。そう余裕ぶって機体を反転させながら躱したカニータだったが、次の瞬間モニタ一杯に映った味方爆撃機ザウダンの機首を真正面から目にする。

 声すら上げる間もなく、空中でALと爆撃機の衝突が起きた。爆発が発生しバラバラになったリジェースとザウダンのエアクラフトグレーの残骸が、煙と炎を引きながら入り混じって地上へと落ちる。

「馬鹿か……味方に空中衝突で……」

 地上に墜ちたエースパイロットは、将来を約束されていながらも味方を巻き込んでの自滅という、エースとしてはあまりににも情けない終わりを迎えた。メイネーイが危惧していた味方との空中衝突が起き、ヴィエイナは左目の瞼が痙攣していた。

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