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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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ささやかな花火(3)

 メイネーイ少尉は一機のALが目についた。リンドの小隊のものではない別の部隊のものだろう。その機体が目に留まった理由は、大きなランドセルを背負っていたためである。また、ランドセルからはアンテナの様な長い棒状のものが二本空に向かって飛び出しており、通信強化型かあるいは何らかのEMP装備を持った機体かと彼は考えた。

〈ヴァレーツ4よりヴァレーツリーダーへ。地上に見慣れないALが出てきました。護衛を付けて一機〉

 謎のALはルスフェイラを一機護衛に連れているだけで、随伴歩兵すらいない。両機のマーキングはまるで異なるので、この二機は同部隊ですらないのだろう。

〈ヴァレーツリーダーよりヴァレーツ4へ。対処を任せる〉

〈ヴァレーツ4了解〉

 さて、どんな秘密兵器を抱えてるにしろ、ただの旧式のジェネレータにしろ、倒しておくだけだ。

 彼はヴァレーツ5、カニータ准尉に散開を命じると自身はその二機を始末しにかかる。旋回しつつ右手のライフルで謎の機体を狙うと、彼は眉間に皺を寄せる。彼が見ている前で謎のALは少し前傾姿勢を取ったかと思うと、背中に背負った棒が可動、ランドセルから持ち上がったかと思うと、今度はその姿勢のままメイネーイ機に向かって対空砲を撃ち始めた。

〈対空装備だったか!〉

 護衛機と一緒になってメイネーイ機に熾烈な対空砲火を浴びせる敵機。ランドセルから伸びている展開式の連装対空砲は、ただの携行式である突撃銃よりも対空性能に特化しているため、同じ二丁の突撃銃と比較しても、ずっと対空砲撃性能が優れていた。

〈なんてことだ!被弾した!〉

 メイネーイ機に近接信管で爆発した際に飛び散った破片が突き刺さる。それ自体は飛行型ALの薄い装甲といえども大したことはないのだが、破片が高速で回転しているエンジンに飛び込めば事情は違う。彼はエンジンに被弾したと勘違いしていたが、実際には今しがた述べた通り対空砲弾の破片がエンジンのインテーク内に飛び込んで、タービンブレードをズタズタに引き裂いたのだ。

〈ヴァレーツ4エンジン被弾!〉

 内部から破壊されたエンジンはあっという間に火を噴き、黒煙は硝煙で覆われた灰色の空でよく目立つ。機内にはアラートがけたたましく赤色灯の点滅と共に鳴り響いてエンジン異常を知らせるコーションがモニタに表示される。

〈第四エンジンパージ!〉

 彼の音声とボタン操作を認識した搭載AIが、火を噴いた腰の右辺りに生えている四番エンジンを爆発ボルトを使って強制パージ、機体はバランスを著しく損なったがそれを姿勢制御システムがどうにか水平を保てるように制御している。

 四番エンジンはパージされる際にガタついていた右副翼(尾翼に当たる)を道連れにして地上に墜ちたため、背中の主翼と比べれば小さいものの、それでも決して小さくない影響を機体の操縦性に与えていた。

〈後退しろヴァレーツ4〉

〈機体の操縦性能が十八パーセントも低下しました、悔しいですが後退します〉

 十八パーセントも低下した機体では、ヴィエイナの足手まといになってしまうだろう。メイネーイ少尉は後ろ髪を引かれる思いで機を翻し後方にある最寄りの接収した滑走路のある基地へと向かった。

 後退していくメイネーイ機を視線の端に捕えつつ、カニータ准尉はヴィエイナの障害となる対空ALへの対処にかかる。メイネーイ機を撃退した後は彼もしくは彼女の機体を狙うのは分かっている。低空飛行で爆撃を行う味方の爆撃機を邪魔に思いつつも、機体を操って対空迎撃をいなす。

 地上からは確かに進行方向へと撃っているはずなのに、なぜか彼の機の後方へと通り過ぎていく砲弾に地上のシェーゲンツァート軍兵士は混乱していた。

 その種はカニータ准尉が自ら思い付きで編み出した技があった。偏向スラスターを進行方向より少しずらして向けて噴射することで、進行方向とは若干ズレた位置に向かってジェット噴射がされる。その為機体の正面とは僅かにずれた方角へと進んでいるが、地上ではそれには気づけない。その為敵機の先に向かって自分たちは銃撃していると思っているのに実際にはズレた位置へと砲弾を撃ち上げているのである。

 そうとは知らない地上では、まるで幽霊と戦っているのかと錯覚するほどだった。

 対空型はカニータにこちらに銃を向けさせる余裕がないように、且つ撃ちすぎて弾切れを早期に起こしてしまわないように、発射間隔に細心の注意を払って撃ち続ける。

(腕自体は大したことないな)

 対空型の操縦技術はまだわからないが、射撃の腕はあまり良いとは言えないと彼は感じていた。機体自体の対空迎撃性能は良いようだが、その性能のお陰でメイネーイ機を損傷させ撤退に追い込ませたように思える程度の腕しかない。

(奴らももうパイロットが碌にいないんだろ)

 熟練したパイロット不足はオースノーツでも同じだが、より人数が少なく追い込まれているシェーゲンツァートならばなおさらだった。きっと乗っているのも乗るべき適性のあるものではなく、乗せるしかなかった若い、いや幼いパイロットなのだろう。

 彼は左腕に装備した五連装対地ロケット発射筒から、残った二発のうち一発を対空型に向かって撃つ。対空型はカニータ機を追っていたため、ロケットの方に対応は出来ない。随伴機もロケット弾の発射に気づいて対応しようとするが、弾頭の速度が速く照準を定める前に着弾、爆発を起こす。爆風に煽られて、随伴機はよろめいたが転倒するには至らない。

 カニータは着弾直後から既にもう一度ロケット発射筒を地上に向けていたのは、仕留めきれていないことに気づいていたからだ。彼の見立て通り、炎の中から損傷した対空型と随伴機が現れた。随伴機の方は装甲の表面が煤けたくらいだったが、ロケット弾頭の直撃を被った対空型は両腕で庇ったらしく、肘から先が両腕とも失われている。あちこちにロケットの残滓の為に装甲上で火がまだ点いたままだが、対空型はすぐにカニータ機に向けて照準を合わせ直し、発射体勢に入る。

 ロケット弾の直撃があったにもかかわらず問題なく発射出来ているのは、対空砲の信頼性の高さか。カニータは死角から飛んできた対空バズーカ弾の飛び散る弾を機体を捻って回避しながら、そちらを目視もせずにライフルを三点射、撃ってきたALの頭部に命中させる。頭部が吹き飛んだ継ぎ接ぎの元が何だったかわからないALは、頭部から誘爆し首から火を噴いてその場に倒れた。

(そろそろお前も片づけようか)

 彼は対空型を一瞥すると、撃ち上げられる砲弾の隙間を縫って距離を詰めながらライフルを発射、対空砲を二門とも撃ち抜いて発射不能にした後、ロケット弾の最後の一発を発射した。それと同時に発射筒を投棄、地面に落着するよりもずっと早くに着弾、胸部に弾頭が直撃した対空型は爆発を起こし上半身が左右に裂けて、仰向けに倒れた。

 そしてすれ違いざまに随伴機の横っ腹にライフルを撃ち込むと、随伴機はコックピットを横から貫通され銃を構えた状態のまま動かなくなってしまう。

(さて、後はあいつをやってしまおう)

 目立つ目標はあらかた片付けた彼が狙いを定めたのは、リンド機であった。

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― 新着の感想 ―
>目立つ目標はあらかた片付けた彼が狙いを定めたのは、リンド機であった。 これ程、istd(いかん!そいつには手を出すな!)がピッタリなシチュエーションは中々あるまいて…  そいつはある意味、ルーデル閣…
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