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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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撃ち込まれる鉄杭(5)

 リッカーゲンサルとボーレンが、突如として現れた飛行型ALの一個小隊によって、一瞬のうちに撃破されたリッカーゲンサル隊に、最早生き残る術はなかった、選択の猶予すら与えられていない。

 まばらな対空砲火がヴィエイナの隊を狙って銃弾を撃ちあげるが、言うまでもなく一発の掠り弾すらなく空しく空中へと消えていく。

 残されたフトゥルトゥーイルとベンブル、ルークの三名は地上の敵部隊、襲い来るAA部隊、そして空からの刺客に対応しなければならないという、あまりにも理不尽な状況にあり、それを助けられる部隊もこの場所にはいない。

 大きく旋回しながら残った三機の地上のALを確認すると、ヴィエイナは飛行しながら二千百mは離れた位置から射撃を行う。両手に握ったライフルから放たれた銃弾は、多少のばらけはしたものの、多くの弾が対空射撃を果敢に行っているベンブル機に降り注ぎ、ガンガンと装甲を撃つ。流石にこの距離では正面装甲の貫通はなかったものの、それでも高速飛行しながらこの距離で正確に射撃を当てて来たことに、ベンブルは恐怖していた。

 これは自分が敵う相手ではない、そう本能が理解していた。

〈ダメだこれは、下がれ下がれ!〉

 フトゥルトゥーイルとルークは上半身だけ敵機に向けたまま、基地内へと向かって遁走し始める。

〈おい!待ってくれ!見捨てるのか!〉

 ベンブルは動けない機体から自分を救出せずに逃げていく僚機に向かって恨み言を叫びつつも、コックピットハッチを開放、脱出に移る。

〈牽制はしてる!早く逃げろ!〉

 フトゥルトゥーイルとルークで飛行型ALに向けて銃撃をしつつ後退している。頭部の破壊されたフトゥルトゥーイルはコックピットハッチを開放して目視で銃撃しているため当たるわけがないが、彼もそれくらい百も承知でやっている。あくまで敵機を寄せ付けぬよう弾をばら撒ければいいのだ。

 それで大抵の低空飛行を試みる航空機ならば寄せ付けないし、銃の有効射程外にいる場合でも、突入をためらわせる効果がある。しかしそれはあくまで普通のパイロット相手に通用する策であり、相手は普通でない場合には効果が無かった。それどころかむしろ、自らを驚愕させ狼狽え焦らせる諸刃の剣ともなりうる。

 地上からの対空砲火、いくらまばらで密度も薄いと言えども、その間を縫うようにして突っ込んでくるとは思わない。しかも先頭の白い機体だけでなく、五機全機がそのようにして突っ込んでくるのだ。

 有線式で見事に捉えていた筈の対空ロケットバズーカの弾頭を軽々と躱したヴィエイナは、まず脱出中のベンブル機に銃撃、ベンブル機は装甲を蜂の巣にされまたベンブル自身も銃弾が掠め四散する。

〈なんでこいつら突っ込んで〉

 モニタ越しではなく、直にその目で白い鳥ヴィエイナ・ヴァルソーの異常軌道を目にしたフトゥルトゥーイルは、自分の見ている光景を現実と理解できないまま、コックピット内に銃弾を浴び銃を上空に向かって乱射しながら倒れた。僅か1.2x1.0m程度しかない出入り口に、五発の銃弾が飛び込んでいた、六発の発射で。

 残ったのはルーク機、データリンクによってこの機はどうにか情報を得ていたものの僚機は全滅。しかしながら、その状況下でも彼の機体はデータリンクを受けていた。どうやらパイロットは死亡したが誰かの機体自体はまだ生きているようで、主が死して尚その仲間を生かしているようだ。

〈畜生!なんなんだよこいつら!〉

 装甲への跳弾音、アラート、胴体を腕で庇ったことで吹き飛ぶ腕の装甲とマニピュレータ、五機が次々と頭上を通り過ぎ、すれ違いの際に背中にも銃弾を撃ち込まれて前に向かってよろける。

 被弾した距離は薄い背面装甲であれば十分に貫通できる距離であったが、幸いにもランドセルと背負ったロケットバズーカ本体が盾となり、貫通を防いだ。だが、機体へのダメージは決して小さくはない。

 新たにアラートが発生し、重要な機構の一部が破壊されたことで、機体の制御が著しく困難になる。

 脱出しかないのか、と復讐は諦め機体を捨てる覚悟をするルーク。機体は既に擱座しており、碌に制御も出来る状態にない。頭上にあるカービン銃を取り、背中のクッションを外してサバイバルパックを取り出すと、機体から出るために正面に向き直った時だった、目の前に五十mほどの距離で先ほどの敵の内の一機がホバリングして銃を突き付けていたのだ。

 最早助からないことを察した彼だったが、直後にその敵機の背中が爆発、機体はルーク機に激突すると跳ね返って後方に墜落し、爆発炎上を始めた。

〈隊長……!〉

 そしてルークが見たのは、銃口から煙をくゆらせて膝立ちしているリッカーゲンサル機であった。撃破されたと思われていた彼の機は、まだ生きていたのだ。各所に破孔を開けられオイルを流し膝立ちすることすら奇跡的な機体状況であるにもかかわらず、機体は動き唯一残った部下を助けた。

〈助かりました!それより早く脱出を!〉

 ルークは脱出を忘れて席に戻り無線機に呼びかけるが返事はない。そのままの姿勢で機体は動かず、完全に停止しているようにも見える。

〈……すみません隊長〉

 全てを察した彼は、視線を落としハッチを開放、脱出する。

 機体を滑り降りた彼は敵に見つからぬよう身を潜めてひとまず近くにあった装甲車の残骸に滑り込むと背後で爆発、先ほど捨てた自機が被弾し完全に臥した。止めを刺したのもやはり敵飛行部隊、どうやら仲間がやられて怒り狂っているようだ。

「ブチギレてんのはこっちだっつのクソ鳥どもが」

 皆あっという間にやられ、自他ともに認める熟練部隊だったリッカーゲンサル隊。追い込まれてジリ貧になりつつあったとはいえ、それでも出来る工夫を凝らしてここまでよく戦えていたのだ。それがどうだ、あの飛行型ALたったの五機が現れた瞬間全滅と来たものだ。瞬きする度に誰かが死んでいるまるで理解できない現実に、彼は額に着いた泥もそのままに基地出入口目指して走る。

(なんてことだよ)

 遺品すら回収できなかった、タグの一つも。悔しさと無力感に襲われ熱いものがこみあげてくる。

 そんな慟哭を胸に、要塞内で先ほどのAA部隊に出くわさないことを祈りながら、唯一の生き残りであるルーク上等兵はライフルを手に、非常灯が明滅する崩れかけた通路に消えていった。

 その後彼の消息は知れない。

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