撃ち込まれる鉄杭
敵の大群が押し寄せてくることを知らされた第一小隊の生き残りたちは、皆陰鬱とした雰囲気にのまれていた。中でもケプルームとライメルはかなり参ってしまっているようで、半ばショック状態に陥ってしまっていた。二人だけでなく、キョーットルもすすり泣いているようで、彼の機体からずっと彼のべそかきが発信されているので、余計に部隊内が落ち込んでしまっている。
しかし、その中でもリンドとフーフラーファ、ドゥーリッポとニクルアウは今までの経験のある分なのか、比較的落ち着いて来る大防衛戦に備えていた。
リンドは補給部隊の大型トラックから突撃銃の弾倉を受け取り、ラックへとかけていく。フーフラーファはAL用のスコップをもって、プールでも作れそうなほどの水を塹壕から掻きだしていくが、豪雨のせいで想定していたよりも進行具合が遅い。
〈いやだ、もう駄目だ、お母さんじいちゃん助けて……〉
コックピット内で震えて家族に助けを求めているケプルーム一等兵。
〈大丈夫だ、今まで生き残って来たんだ。隊長やフーフラーファ曹長だっているじゃんかよ〉
それを同乗しているピュループ上等兵が慰めているようだ。彼としては前に座っているバディがこれではやっていられないだろう。
第一小隊の面々は、とっくに限界を迎えていてもおかしくない状態がずっと続いていたにもかかわらず、殆ど発狂せずにその大多数が気丈に、そして勇敢に戦い続けてきたが、もうそろそろだめかもしれない。皆の頼れるフーフラーファ曹長ですら、他のものが見ても以前よりおかしくなってきている。まだ異常性というほどではないにしろ、何でもない時に目線が泳ぐようになったり、宿舎で暗闇の中一人眠りもせずにベッドに腰かけて数時間そのままだったということもある。
リンドも誰も彼もが精神に異常をきたし始めていた。死ぬのが先か、発狂が先か、誰が知っているというのだろうか。
そして、敵の波は押し寄せて来た。弱まった雨足の向こうに、敵機の揺らめく影が連なって近づいている。上半身しかない固定砲台にされた味方のALが、左手に持ったスクラップの塊を敵に向かってぶん投げ、地面に落着した後勢いをある程度保ったまま転がり、敵装甲車一輌と歩兵数名をなぎ倒す。
〈原始的すぎる〉
ドゥーリッポ上等兵がその光景を見て呟いた。砲台ALは更にバックパックから伸びている単装短砲身の、高射砲を流用した主砲を撃っている。
「各機、前進はするな。その場にとどまって戦線を維持しろ。だが脱出はいつでも出来るように常に後退する機会は窺っておけ。退路を断たれるな、出来るだけ援護はするが絶対に援護できるわけじゃあない」
〈了解です〉
〈わかりました!〉
九機のALは、塹壕に籠ったり防御壁の残骸を盾に戦う。ただし、ケプルームとライメルが戦闘可能な精神状態にないため、ライメルは降ろして代わりにケレッテ一等兵を乗せている。ケプルームとピュループが複座で乗っているネイヴェロープは、ケプルームが操縦手を担当しており、その場から動かないように指示されているため交代まで動く必要が無いことから、彼は降ろして乗機の無い所属部隊の壊滅した生き残りの、ビグルバッグルという顔に傷のある学徒の女性パイロットを乗せている。彼女にはあろうことか試運転すらさせていないが、臨機応変な機動戦をさせないので、基本的な動作が出来ればよい。
迎撃を始める彼等、先ほどよりはずっと視界は開けているので狙いやすく、彼らは雨が流れ落ちる銃から徹甲の雨を横向きに降らせる。
〈死んでくれよ!もう!皆さあ!〉
ケレッテが涙交じりの声でそう訴えかけながら、チェーンガンをぶっ放す。彼ももう本当に疲れていた、早く家に帰りたかった、故郷の川で遊びたかった。
轟々と大口径機関砲の銃弾が発射され、地面を掃射する。徹甲榴弾が地面を抉り泥水が巻き上げられ、AA部隊が蹴散らされて挽肉へと変えられる。
〈見えない……〉
今度は十時方向の敵を攻撃しようと試みるが、要塞壁の残骸の為にそちらの敵が見えなかった。機体を傾けたり銃を左手に持ち替えても解決しなかったため、判断力の鈍っていた彼はつい塹壕から立ち上がってしまう。
〈あっよせ!しゃがめ馬鹿!〉
ニクルアウは突然立ち上がった隣のケレッテにしゃがむよう怒鳴るが、遅かった。立ち上がってチェーンガンを構え直していたところに、敵の集中砲火があっという間に浴びせられる。僅か五秒の間に百五十発はぶち込まれた元ライメル二等兵の機体は、正面装甲を食い破られ両腕は切断され、轟音を上げながら仰向けに倒れる。
〈隊長!ケレッテ一等兵がやられました!〉
「ああ!!やってくれやがる!」
また一人やられたことに怒りをあらわにすると、リンドはガトリングシステムを起動、左のガトリングが回転をし始め、レバーを思い切り引っ張ると、右から左へと掃射した。三秒の間に二機のALが撃破、四輌の車両が大破もしくは中破し、人員は歩兵からパイロットまで含めて一気に二百人以上が死んだ。負傷者となるとその倍である。ちょうど敵突撃工兵部隊が固まっているところに撃ち込んだことによる。
更に今度はガトリングを格納すると、すぐ近くのオーバーサイズな銃火器を搭載しているAW部隊に向かって、ロケットポッドから一発発射した。一瞬にして着弾した弾頭は、地面に大穴を開けながら三機のAWを吹き飛ばす。
リンドを中心に、第一小隊の面々はこの崩れかけたレットルーレ線において最も戦闘面においては善戦していたと断じてもよいだろう。だが、彼等の頑張りだけではこの不利を覆せるはずもなく、両翼の満身創痍の守備隊は徐々に内側へと押し込まれ始めていた。
新たに要塞壁に直径四mほどの小さな破孔が穿たれ、そこから敵のAAやAW部隊がなだれ込む。彼らは僅かに残る守備隊を次々と蹴散らして皆殺しにしていく。それを見た味方のALが、味方の死体もかまわずに銃弾を撃ち込むが、小さな虫たちに群がられたALは弱かった。せめて複数かある程度の距離のある状態であれば、一方的に蹂躙できたのだろうが、目と鼻の先という至近距離では、寧ろ不利だった。
まず死角から肘を撃たれ武器を持っていた右腕がだらんと肘から垂れ下がる。更に股間に砲を撃ち込まれ、立っていられなくなったことでその場に倒れ込み、それでも機関銃で抵抗するがそれを軽々と躱されると頭部とコックピットハッチに爆薬を仕掛けられハッチと頭部が吹き飛ばされた。
だが、まだそのALは持ちこたえていた。幸いにして無事な左腕を上にして倒れていたため、左腕を振り回して一機のAWを手の甲で弾き飛ばして防御壁に叩きつけて、害虫の様に潰してしまう。しかし、抵抗はそこまでだった。勇敢なAAが一騎腕の下に滑り込むと、歪んだコックピットハッチ内に火炎放射を行ったのだ。
中から叫び声が聞こえたかと思うとすぐに沈黙し、停止したALは炎上し始める。その背後では既に他の兵士達や戦車が飛び回る小型の高機動兵器に為すすべなく蹂躙されているが、第一小隊の助けはない。なぜなら第一小隊の位置とこの場所は距離にして二千m程離れていたためだ。そのためこの惨劇に気づいてすらいない。
長大な防衛線は、時として円滑な支援を阻害するということなのだろう。だが、他の守備隊がのうのうとやられているばかりというわけではない。第一小隊以外にも手練れはまだ残っていた。




