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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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表裏の左腕(2)

 リンド達はしばし休息を得ることが出来たため、部隊全員が一時基地内に戻り休息をとれた。その理由は敵も先ほどレットルーレ線の両翼に投入した部隊を壊滅させられたことで、戦力の再編を迫られているためらしい。諜報部隊が傍受した無線の暗号を解読した結果、そういう旨の内容だったそうだ。

 それでも相変わらず爆撃や砲撃による嫌がらせは続いているが、本格的にまた攻め込んでくるまでには少し時間がある。第一小隊は全員で食堂で食事を摂っていた。

「隊長、水をどうぞ」

 ピュループ上等兵が気を利かせて水を取り忘れたリンドに持ってきてくれた。

「ありがとう。ピュループは……家族はいるか」

「え?家族ですか。はい」

 彼は話しながらリンドの斜め左の向かいの席に着いた。

「故郷はベンガニのサンラ・ガルラっていう、まあなんてことのない特徴もなんもない田舎ですね」

「確かに聞いたことはないな」

 とフーフラーファ曹長。

「俺も聞いたことはない」

 部隊最年長のドゥーリッポ上等兵もそういうくらいだから、本当に中途半端な田舎町らしい。

「そこに両親と兄が、後祖父母もいて農家をやってます」

「へえ、農家か」

「繁忙期は家族皆で作業するんですけど、今年は出来そうにないなあ……」

「いつかきっとできるさ。きっとな」

「ですかね」

 半ば諦めた笑顔を見せるピュループ上等兵に、リンドはこういう時ほどビテールン伍長がいてくれればと思ってやまない。彼なら勢いよく引っ張ってくれるのに、肝心な時に彼はもういなかった。

「……ケレッテ、そういえばお前の機体はどうだ?」

 フーフラーファ曹長はこの重たい空気を変えようと、ケレッテ一等兵に話題を振った。具の少ない水のようなスープをくるくるとスプーンでかき混ぜていた彼は、不意に話しかけられたで驚いて少しスープを撥ねさせて、テーブルを濡らす。

「あ、ああ、ALですか?えっと、自分の機はもう駄目です。修理にはかなりかかるそうで、今は機体がありません」

 わかっていた結果だ、リンドがあんなゴミ(サイオス)に乗るしかなかったのだ、ならばケレッテが臨時で乗る機体などあるはずもない。

「わかった、じゃあお前はコイリ二等兵と機体を交代で使え。そうすれば休憩時間も増えるし前線に出せるALも維持できる。いいな、コイリ」

「了解であります」

 基地守備隊などでは一機に対し二人のパイロットが宛がわれることが多く、また他の部隊と共に行動する部隊もそのように交代パイロットが大抵用意されているのだが、第一中隊は元が独立して作戦行動をとる空挺部隊というルーツ故に、パイロット不足も相まって実質的に守備隊となった今でも、いまだに交代要員のパイロットが用意されていなかった。ここにきて漸く交代要員を用意できたということになる。自前だが。

 残ったパイロットは、リンド、フーフラーファ、ケレッテ、ピュループ、ケプルーム、キョーットル、ドゥーリッポ、コイリ、ニクルアウ、ライメルの十名。キョーットルは今は先ほどの戦闘で負傷したため医務室に行っているためここにはいないが、軽傷なのですぐに復帰できるだろう。

 彼らももうようやく一個小隊組めるか組めないかの人数にまで減ってしまった。AWのノモメス隊も車両のリンリ隊も皆死んだ。誰もいない。運が良ければ負傷し後方に送られた兵士が一人二人くらいは生き残っているかもしれないが、オースノーツ連合は救急車両や病院すら国際条約を無視して攻撃しているらしいので、希望は薄い。勝てば罪は許される、ということでやっているのだろう。戦争はどんなに悪逆非道なことをしようと、勝った方が正義でいかなる悪行も許される。この星でもそれが繰り返されてきた。

 負けるわけにはいかない、たとえこの小隊が壊滅しリンド一人になったとしても……そうしなければ母も姉も妹も友もそしてセレーンも失ってしまう。そうはさせない。

 食事を終えた第一小隊は、それぞれ休憩に戻った。今のところはまだ本格的な戦闘は始まってはいないものの、いつ敵が部隊を再編し策を練ってまた攻め込んでくるかもわからない。

 ベッドの中でリンドはガラスにひびの入った腕時計を見て、時間を気にする。暫く寝ていたが上手く値付けにおり、その上まだ夜には時間がある。今頃セレーンは何をしているのだろうか、無事だといいのだが、と彼は姿の見えない恋人の身を案ずる。

 まさかこんな時に暇を持て余すとは思わなかった彼は、暇つぶしに整備場へと向かう。損傷したガトリングシステムの交換がされていることを願っているものの、今までの整備ペースを考えるとあまり期待はできない。

 通路を進んでいくリンドは、あちこちに損傷箇所を見た。砲爆撃によるものだろう、はたまたルー機爆発によるものか、壁にはひびが入りいくつかの場所では電球が点灯していない。

 こちらの修繕にまでは手が回らないのだろう。内部でも死人は出ているし、設備科は外の修復にも駆り出されているため、頭上に銃弾飛び交う中を昼夜を問わず作業しているのだから、死人も出よう。

 途中すれ違う人の以前よりも少ないことに気づきつつも、彼は整備場にたどり着いた。以前に増してスクラップが山積みになっており、整備士の人でも足りていないことを窺わせた。リンドは自分の重装型レーアルツァスを見に行くと、思いのほか整備が進んでいるではないか。

 そのことについて丁度機体の傍で書類チェックをしている整備士に声をかけようかと思ったが、ただでさえ忙しい彼等の時間を奪うわけにはいかないと躊躇い、物陰から眺めているだけにする。

 ガトリングシステムは残念ながら破壊された右は外されたままで、残骸はスクラップの山に転がしてある。近くに代わりの新しいガトリングが見えないことから、もう在庫がないのだろう。そもそもガトリングシステムはあまり生産されていないとも聞いている。

 しばらく眺めている内に時間が経っていたので、彼はその場を後にし再び食堂に赴く。これからセレーンと食堂で一緒に夕食を取る予定だからだ。そう思うと、疲れた体なのに足取りが自然と軽やかになり、カツカツと軍靴を鳴らして歩幅も広くなってしまう。

「セレーン、セレーン……セレーン……」

 呼吸が早く、歩行速度も速く、ただまっすぐに食堂に向かう。午前中のだけじゃあ足りない。もっと、もっと彼女を目に焼き付けたい。

 たどり着いた彼は、人でごった返しているはずの食堂に駆け込む。だが、予想に反して人気はあまり多くはなく、陰鬱とした雰囲気が漂うばかりだった。彼女の姿はまだない。

(そういや時間決め手なかったな……)

 彼女は夜に食堂とはいっていたものの、何時にとは言っていなかった。そもそもこの基地には食堂が四か所もある。内一つは崩壊したと聞いているため残ったのは三か所。どこの食堂とも言っていなかった。

(しまった……どうする……)

 どうにかして彼女と落ち合いたいが、どうしたものか。とりあえずポケットから地図を取り出すと、今彼がいるのは中央食堂。あとは北に二箇所南に一か所。最北端の第一食堂というところが崩れたところだ。一番大きいのはここ中央の第三食堂であるため、恐らく彼女もここに来ると思うが……

 どうする、彼が悩んでいると突然目を手で覆われた。

「うわっ……セレーンか」

「んっふー正解ー」

 手をほどいて振り返ると、愛する者がいた。彼は自然に抱きしめ額にキスをする。あまりにもバカップル仕草だが、ここ二、三年ほどほぼ離れ離れになっていた彼等には、重要なことだった。

「時間伝えてなかったけどよかった」

「場所もな」

「食堂でしょ?」

「ここには食堂が四つあるんだよ」

「うっそ!知らなかった」

「だと思ったよ」

 二人は疲れなど始めから無かったかのように仲睦まじく並んで歩きながら、トレーを手に配膳の列に並んだ。

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