Armed Armor
話は一度別の場所に飛ぶ。ここでは三つのA兵器の内最後にして最小、ALの基礎となった兵器Armed Armorについて話す。
陽暦1995年11月22日
激戦地ケイマンス共和国の一都市スラッグはかつてこの国でも二番目に発達した都市で、高層ビル群が立ち並ぶ大都会であった。戦前は何十何百という国内外からの企業のオフィスが立ち並び、豊かで華やかな街であった。それも、僅か二カ月で街は廃墟と化しあれほどあふれていた民間人の姿はまったくいなくなった。ここが戦地となってから実に二年弱が経過しているが、未だにどの陣営も制圧できていない。どちらかが攻め込むと、今度は攻め返され奪われる。その繰り返しであった。街中に兵士の新旧問わない死体が転がり、銃と薬莢と破壊された戦車などが晒されている。最早二度と元には戻らないとまで言われている。
この日、ケイマンス共和国陸軍所属、ビットー中尉率いる第十一AA中隊が歩兵と装甲車両の支援を受けつつ市街地に突入した。八十機の物々しい装甲服に包まれた人間が、隊列をなし荒れ果てたアスファルトを踏みしめ進んでいく。彼らが一歩一歩踏み出すたびに駆動音があたりに鳴らしていく。
「……写真で見るのと実際にとでは」
違う、ヴォルトール・A・ビットー中尉は荒れ果てた都会を見て茫然としながら歩を進めていた。モニター越しに映るスラッグ市は、まるでリアルなヴァーチャルゲームの舞台にいるかのように錯覚させる。
AAとは、三十年前に開発された動力式パワーアーマーで、小型のエンジンを動力源に各所に設置されたエンジンで着用者の筋力を大幅に上昇させるものである。元は作業用として開発されたこれも、一度軍人の目についたが最後、兵器としての道を歩むこととなった。発展するにつれフレームに装甲や生命維持装置、ライトやHUDなど戦闘用の装備が追加されていき現在の形となった。その名が示す通り、硬い装甲に包まれたAAは、重火器を楽々抱えながら坂道悪路もなんのその、アサルトライフル程度の弾ならものともしない。欠点は重たく、大きく、取り回しが悪く、そして燃料が切れるとその重量が仇となり動けなくなるということくらいか。それでも大戦を通して使用されたということは、戦場で常に必要とされた傑作兵器であったことに他ならないだろう。
現在ビットー達が装着しているものは、同盟国のフィーズラウム民主連邦製のASK/GA1044 トリオンMk.3である。汎用性の高い傑作AA、AS/GA1040トリオンの発展型で、この輸出用のトリオンは現在三十を超える国と地域で主力として運用されているほどである。ケイマンスで運用されているトリオンは砂漠地帯という環境柄デザート迷彩が施されており、また高い対熱性能や通常モデルよりも大型化した冷却装置と水タンクが特徴である。砂漠では無類の強さを発揮していたビットー中隊であったが、隊長本人は後悔していた。
(焦ってきてしまったが、塗装をしっかり行うべきだった……)
そう、いくら砂漠の国と言えどもスラッグ市は砂の色ではなく灰色の景色なのだ。特に荒廃してからはそれが一層顕著となっている。砂漠では有用なこのデザート迷彩も、都市部ではむしろ目立つ要因となってしまっている。それでもまだ通常の森林迷彩とかと比べるとよっぽどましだが。
「デッジ、第三、第四小隊を連れてD9ポイントのケッセルデパートに入り警戒しつつ確保しろ」
〈ハッ〉
彼はデッジ准尉に指定した地点を確保するように伝える。ここはそれなりに大きな場所で拠点として確保しておきたいところである。デッジ准尉がハンドサインを送り、十六機のAAが駆動音を軋ませながら途中の道で分かれていく。残りの六十四機のAAと、四十二名の歩兵、そして二両のAPCはそのままボルモオト通りを北上する。
〈隊長、これより六百m先カイロン通り付近で東進する音源を確認。戦車かと〉
大きな探査機器を背負ったゴイ軍曹が敵の接近を告げた。すぐさま彼は手で全体を停止させると敵の数を問う。
〈三両です〉
「間違いないな」
〈ええ〉
ケイマンスは兵器の部門では後れを取っているが、幸運なことに優れている分野もあった。それがレーダー機器であった。小型で優秀なケイマンスのレーダー技術はオースノーツにも劣らない。故に彼は探査機器に全幅の信頼を寄せていた。今までも何度も国のレーダーには救われている。すぐさまアンブッシュに適した地を選択し部下に告げる。
「第二小隊はバルトプラザ屋上、第五、第六はサッキビルの三階でATR展開、第七は隣りのクワイアントモール四階、第八、第九はサリバンスキハイツの一階で展開。第一、第十はついてこい!行け!」
音声入力で表示されたそれぞれの建物がピックアップされると、HUDを通じて指定の隊の隊員たちに送られる。この非常に便利な装置のおかげで部隊で情報未伝達による事故が起きにくくなっている。続けて残りの歩兵部隊とAPCに通信機を通じて指定した場所に退避するように告げる。
「随伴歩兵に注意!」
戦車は戦車だけで行動しているわけではない。戦車の懐を守る歩兵が付随しているのがお約束だ。分厚い装甲ととてつもない火力を有している戦車といえども無敵ではない。対戦車砲やロケットを食らえばお陀仏である。歩兵の奇襲でハッチを開けられ手榴弾を投げ込まれるかもしれない。そうならないために随伴歩兵が戦車の死角を守るのである。この激戦地で戦車を丸腰で放り込む馬鹿はいない。つまりここで戦車と遭遇するということは確実に歩兵との戦闘も起こりうるということである。
「それ以上いなければいいが……」
彼の心配は戦車と歩兵に加えて更に装甲車などがいたらということであった。できるだけ大きな戦闘は抑えたい。そう思う理由は、彼の中隊の約半数近くがまだ兵役について一カ月もたたない新兵であるということだった。国土に深く食い込まれたこの国では徴兵制によって、一般の若い男女が戦場に駆り出されているのだ。本当なら今頃仕事をして家族を育んでいただろう彼らをこうして戦場に引き込むのは心苦しい所業であった。




