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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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燻る鋼鉄(2)

 味方ALを撃破した銃弾が飛んできた座標を見ると、敵の前線が思っていたよりも随分と近づいてきていることに気が付いた。いや、よく見れば近いなんてもんじゃない、既に五百mほど離れた場所では戦線が破られて敵が流入しているではないか。既に防衛線は破られてしまっていたのだ!

「まずいぞ……」

 彼が危惧したのは包囲殲滅される危険性であった。リンド率いる第一小隊がいるのがほぼ中央より若干西側、今破られたのは東側の端の方、そしてレーダーを見るとリンド達を挟んで反対側の西の方でも、戦線が破られつつあるようだ。恐らく敵はこのままレットルーレ線を包み込むようにして包囲を狭めていき、中央に同盟軍を集めたところで包囲殲滅するはずだ。

 それを基地司令部も既に理解しているらしく、丁度両翼の出入り口から外側に向かって新たに戦車隊とAW部隊がそれぞれ二個小隊程度ずつの戦力で向かって行くのが見えたが、正直言ってその程度では焼け石に水だろう。戦線を押し返すには程遠い。

 ガトリングシステムを使うべきか、いや一斉射を叩きこんで一掃すべきだろう。出し惜しみしていたら撃つ前にやられてしまう。リンドは西へと移動し始める。

「第一小隊各機へ、俺は東側の破られた戦線に一斉射をぶち込んでくる、この場で防御を続けろ!」

〈了解です中尉〉

〈わかりました!〉

〈善処します!〉

「善処じゃなくてやりきれ!」

〈もっ、申し訳ありません!!〉

「ハハハ!がんばれ!」

 リンドは銃を上げて手を振ると、被弾しながらも銃を撃ち続ける味方を背に一人持ち場を離れた。

「クソ……随分やられてやがる……」

 要塞内を歩いていて彼の目に着いたのは、味方の残骸や死体がやけに転がっていることである。要塞線での戦闘開始から三日後に一度このあたりを歩いたが、その時と比べると歴然の差だった。それだけじゃない、補給所や対空銃座、塹壕に防御壁のような各種設備も悉くが破壊されており、復旧も放棄されてしまっている。もうこの要塞線はもたないのは誰の目から見ても明白だった。

 揺れる機体、脚を蹴り上げる度に舞い上げられる土と何らかの残骸。モニタには右から飛んできた曳光弾が左へと消え、地面や壁に激突してどこかへと弾かれていく。時折弾がカンカンと側面に当たって跳ね返るが、狙ったものではなく大抵が流れ弾であるため、気にも留めずに進んでいく。

 やがて目標地点へとたどり着いたリンドは、まず味方の惨状に眉間に皺を寄せざるを得なかった。それほどに彼のたどり着いた西側の防衛線は満身創痍だったのである。

 破壊した城壁を乗り越えなだれ込んできた敵AL及びAW,AAといったA兵器群は、味方兵士に群がっており、数の暴力で虐殺を始めていた。それを見た彼は、これ以上の横暴はやらせないと憤ってガトリングシステムを起動、ロケットポッドを展開すると照準を合わせる。

(出来るか?巻き込まずに!)

 トリガーを引こうとしたところであることに気が付いた彼は、すんでのところで指を止めた。一斉射を行うには、敵と味方の距離が近すぎたのだ。敵味方が入り乱れた場所で使うにはあまりにも場を一掃する力が強すぎた。

 しかし躊躇っている暇はない、彼は照準を少し外して後方に向かって機体を角度調節すると、ロケットポッドの蓋を閉じ一斉射を行った。

 二基の大型ガトリングと左手に持った突撃銃が、押し寄せていた敵部隊のすぐ真後ろを薙ぎ払う。ロケットポッドは爆風で味方を巻き込む恐れがあるため使えなかった分、爆風による破壊を起こすことが出来なかった。その為リンドとしては幾分物足りない一斉射となってしまいはしたものの、味方への被害は最小限に抑えて要塞内に侵入してきた敵部隊をほぼ一掃することに成功した。

 また、それだけではなく、我先にと突入した部隊が一瞬にして壊滅し、要塞の裂け目から荒れ狂う鉄の嵐を目にしたまだ外にいた敵部隊は戦意喪失、命令を無視して一目散に逃げていった。残った敵も、リンドや周りの者達で掃討していく。一瞬にして東側の防衛線の崩壊を覆した彼は、皆からの声援に顔を紅潮させながらすぐに踵を返して去っていった。

 今度は西側である。まだそちらは破られていないはずだが、時間の問題だった。

「もってくれよ……」

 せめて彼の到着が防壁を突破されるよりも前であれば、押し寄せる敵を押し返しやすくなるし先ほどと違って混戦ではないため気兼ねなく一斉射を使えるはずだ。ただし、ガトリングシステムはまだ冷却の最中であるため、あまりガトリングを撃てない恐れはあるが。

 足元とガトリングの温度に気を付けながら彼はペダルを踏みこむ。元々は舗装されていた筈だが、数えきれないほどの砲撃と爆撃とによって、地面は無事な部分よりも寧ろ穴の穿たれた面積の方が広いのではないかと見紛う程に破壊されつくしており、中には穴に落ちて行動不能になり放棄された味方の車両もある。

 流石にALはこの程度ではスタックしないものの、けっつまずいてしまう恐れは十分にあった。そら、今丁度二百mほど先でポパ一等兵のザザルェイファが後退中につまずいて派手に仰向けに倒れてしまった。

「ポパ一等兵大丈夫か」

〈あいたたた、大丈夫であります……〉

 リンドも何度か経験しているが、ALでの転倒は非常に危険で、コックピットの位置にもよるが大体十m以上の高さから勢いよく地面に叩きつけられるのと一緒であるため、必ず操縦する際はシートベルトをしっかり締めていないといけない。それを怠ったために、転倒によってモニタや機器に叩きつけられたことで、顔や体にモニタのガラスが突き刺さったりスイッチ類に顔面を切り裂かれたり骨折、最悪の場合死んだ者も少なくない。とても危険な事故なのだ。

 そういうわけで、ALのシートベルトは車同様非常に大事だった。

 リンドは先ほど離れた部隊を今度は反対方向にパスして、西へと向かう。そちらもやはり被害は甚大で、リンドの前方を負傷兵を何人も載せたトラックが地下出入り口へと激しく揺れながら突っ込んでいくのが見えた。

(あと何人残ってるんだ……)

 どこもかしこもズタボロだった。もしこの難局を乗り越え敵軍を本土から追い返すことに成功したとしても、それ以降は何もできないのではないだろうかとリンドは憂う。既に全土で上陸作戦が開始されているということは、つまり海軍は壊滅している。空軍も壊滅状態で陸軍も半壊している。そこからどう巻き返す?これ以上の熾烈な戦いがオースノーツ侵攻作戦では繰り広げられるはずだ。そこにシェーゲンツァート軍兵士はいるのか?

 そんなことを考えていたせいだろうか、意識が目の前の戦闘から削がれていたことを咎めるかのように、背後で爆発が起きた。

「何が!」

 足を止め振り返ると、そこには先ほど転倒したポパ一等兵の機体が腰から上下に分離、炎上していた。大きな砲弾を受けたのだろう、被弾箇所を中心に分厚い正面装甲には亀裂が外に向かって走り、コックピットブロックは下半分が粉砕されていた。

〈ポパ!!〉

 フーフラーファ曹長が叫ぶ。

「んなろお……」

 歯を食いしばり、敵のいる方を睨む。どれがポパをやったのかわからない、憎しみばかりが募っていく。すぐにでもその場で復讐してやりたい気持ちを抑え、彼は再びペダルを踏みこんで西へと向かって行く。

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