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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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死の泉(2)

「ええっ!まだ終わってないじゃないか!」

 義手の調整を終え格納庫に戻ってきたリンドは、自分の機体が一時間前に預けてから補給の一つも終わっていないことに気づき、声を上げる。修理や調整がこの短時間では出来ないことくらいは彼とて承知しているため、武器弾薬の補給だけを伝えていたのだが、それすらもまだ終わっていないことに、腹を立てる。

「軍曹!何故終わっていないんだ」

 彼は機体を預けた整備科の軍曹を問いただすと、油に汚れた疲れ切った表情でトルクレンチ片手に首を横に振る。

「あと少し、もう少しだけ時間をいただけますか?」

「……何分いるんだ」

「申し上げにくいのですが、一、いや二時間ほど……」

 顔色をうかがう様子を見て彼は奥歯を噛みしめ一言怒鳴りつけてやろうかと思ったが、次に軍曹がちらりと横を見たのでその方向に目を向けると、そこには何機もの整備や補給待ちのALが待っていた。その向こうのAW整備区画にはAWも同様に。

「なるほどパンクかよ……」

「何分先ほどのD通路崩壊で復旧に一部人員や運搬車が持ってかれまして、我々ももうてんてこ舞いなんです……」

 D通路及び出入り口の崩落、それは憎き白い翼、ヴィエイナ・ヴァルソーによって撃破された可愛い部下のルー兵長の乗機の弾薬庫の誘爆によって引き起こされたものだ。幸いにして融合炉はセーフティーが作動し、そちらの誘爆は免れたものの、大変なことになってしまった。

 彼らの苦労を思えば、出かかった言葉も引っ込むというもの。しかしかといって、部下を待たせてゆっくりはいそうですか、と二時間も三時間もここで正直に整備が終わるのを待つこともできない。手伝いだって、機械知識のない彼が整備士達が東奔西走している中で邪魔になるわけにもいかない。そんな彼が代わりに口から出した言葉がこれだった。

「何か、その間使える奴はないか」

 待ってくれる、それがわかった整備士は嬉しそうに頷いてリンドの後方を指さした。

「ジャンクみたいなもんしか無くて恐縮ではありますが、あれが!唯一!」

「あ?……あれ?マジかよ……」

 リンドが思わずそう零したのは、彼が目にしたのは片腕しかないサイオスだったからだ。壁に背中を付けて横たわっている旧式に近づいて行ってみれば、コックピットハッチ付近には銃創と血が付着した何かを引き摺り出した痕跡がくっきりと残っており、触れてみると乾いていることはわかったが、あまり気分のいいものではなかった。

「もう少しマシなのは……」

「申し訳ありませーん!他のはもう乗ってってしまいましたーっ!」

「ああクソ……」

 腹を括った彼は、深くため息を吐くと横倒しのコックピットに潜り込み、機体を起動させる。

「機関銃の弾もないじゃないか……」

 機関銃などの機載兵装の残弾は総じて尽きており、一切の補給もされていない。そのことで文句を言おうかと思ったが、こんな本来誰も乗る予定の無かったスクラップ同様の機体に、わざわざ補給するくらいなら他の稼働機に補給した方がよっぽど有用であるため、当たり前であることに気づいて止めた。

(サイオスなんて軍学校以来だぞ……)

 一線を退いたサイオスは、後方で作業用や基地守備用に当てがわれたり、友好国に払い下げたり軍の学校で操縦トレーニング用の実機に引き下がっていたため、彼も以前腐るほど乗ったことがあったが、まさかもう一度、しかも本土決戦の最中に乗る羽目になるとは思いもよらなかった。

(あっちこっちでエラー吐いてやがる!まったく!)

 エラーが出ていないところを探した方が早いんじゃないかと思うくらいには、全ての部位でエラーが出ていた。一番痛いのは光学センサーに故障があって千m以上への望遠拡大が出来ないことだ。いや、しかし現状ほんの少し乗る程度で敵前線もかなり防衛線に迫っており、千m以内の戦闘になるだろうから、そこまでの機能が無くてもいいのかもしれない。

「立てよポンコツゥ」

 当てにならないバランサーに祈りを捧げながら彼は機体を立たせると、もう既に嫌な音が関節から高らかに鳴っているものだから、コックピットから飛び降りたくなってしまう。

「何時間だったか!」

 驚くべきことに動く機外呼びかけ用スピーカーで、リンドは先ほどの整備士に尋ねると

「二時間!それだけください!」

「わかった!もたせて見せる!」

 リンドはライフルの弾倉を腰に引っ掛け、ライフルを腰にマウントしバズーカを片手で抱えると、スロープを上がっていった。

「バズーカが重い……ライフルだけでよかったかも……」

 ALの腕よりも重い武器をこんなゴミに片手で持たせるのはあまりにも無謀だった、せめて火力くらいはと思って欲張って持ってきたが、失敗だったかもしれない。かといって捨てるには惜しいので、フーフラーファ曹長にでも渡せばいいかと思い、そのまま腕が壊れないよう祈りながら彼は前線へと戻っていった。

 フーフラーファ曹長はグレネードランチャーを敵歩兵が随伴している戦車隊に向かって撃っていた。戦車に直撃こそしなかったものの、至近弾による爆風が何人もの兵士を舞い上げ、体を粉砕する。そんな折、レーダーに新たな味方の反応が突然現れたので、さっと一瞥する。そこに映し出された識別はサイオスであったため、ただの作業用かと思いすぐに視線を元に戻したのだが、戻す直前に見えた文字に思わず二度見する。

〈隊長!〉

 通信回線を開くスイッチを跳ね上げた瞬間に聞こえて来た大声に、リンドは思わず驚いてしまう。

「うるさっ!何ですか!」

〈本当に隊長じゃないか……なんでそんな骨董品に!〉

 ロテールより酷くなってるという彼の言葉には、同意しかないがこれしかなかったのだと弁明する。

「補給がまだあと二時間かかるそうで。余ってるのがこれしか」

〈嘘だろ……二年ぶりですよサイオスが動いてるのを見るなんて〉

 もう世界中探しても、この初期のALが稼働しているのは殆ど見られない。古さだけで言えばオースノーツやキサナデアの最初期のALが前線で稼働していたりするのだが、まだAL技術の未発達の状態で生産されたサイオスは欠陥が多く、最終的に後継機に主力の座を譲るまで欠陥が改善されることはなかった機体。そのため、第三国に輸出された機体ですら、ほぼ全てが既に退役してスクラップにされていると言われていた。そんな鉄屑で、自分の隊長が戻ってくるとは思いもよらなかったのだ。


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