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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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ジョーカー(3)

 弾が有効射程距離内でも効かないとなれば、やることはただ一つ。距離をさらに詰めて弾を貫通させるだけ。

「急降下をかける、あのリヴェンツを仕留める」

〈かしこまりました〉

 エンジンの出力を上げ、機体を加速させながら急降下するヴィエイナ。細かな回避運動はチューフが最小限の動きで行うことで、余計な機動をさせて機体に負荷をかけないようにしながら行う。

 飛行機雲が緩やかな曲線を描きながら地表に向かって伸びていく。それを描いているのは白い鳥、しかしその羽根は愛の詩を囁き、平和をもたらす使者ではなく、敵対する者に等しく死を与える絶望の死の鳥。すべてをまっさらにしてしまう凶鳥。

 リンド機目掛けて急降下を掛けながらも、ながら作業のようにAWを二機、対空砲を三基も潰してしまう。カメラが補正はしているものの、それでもこの空気を切り裂き雲をたなびかせる速度では、モニタには歪んだ世界が映しだされ、正しい実像は見えない。このまま速度を乗せて装甲を撃ち抜く、重たい指をトリガーにかけようとした時であった、僅かに敵機がガトリングシステムを起動したのが見えたため、右に向かって急速な機動を行った。直後、無数のガトリング弾が彼女が通るはずだった航路を薙ぎ払う。あとコンマ二秒でも反応が遅れていれば、彼女は今頃シェーゲンツァートの空に花火として咲いていた筈だ。

 神業の回避を見せる彼女だが、当然それには相応の代償を払う羽目になる。超高速での急激な横移動は、機体に歪みを与え各所に破断や断線などを招いた。また、パイロット自身にもダメージを与えた。高性能な耐Gスーツですら吸収できなかった横方向へのGが、ヴィエイナの体を押しつぶし、全身に骨が軋み内臓が押し潰されるような激痛を走らせる。

「ごおっ……ぐうう」

 未知の感覚は、彼女の胃を押し上げ押しつぶし、思わず吐きそうになったところをギリギリで堪えた。もしここで吐いてしまえば、マスクにゲロが充満し詰まってしまうだろう。そんな中でも、彼女は決して操縦桿から手を離さず視界の隅に映るぼやけたモニタを頼りに操縦し続けていた。しかし、流石に細かな操縦は出来なかったため、そこはチューフによって最大限の補助を受け回避運動を取りつつ飛行を維持していた。そのお陰で回避した後の反撃までは出来なかったのが痛かったが。

〈ヴィエイナ様、帰還いたしますか〉

「いい!まだだ!来たばかりで帰れるわけないでしょ!」

〈ですが先ほどのような〉

「うるさい!」

 激昂した彼女はAIを黙らせると、操縦桿を握り直して低空飛行から上昇を掛けつつ上りざまに裏側から砲台を一基潰した。

 だが、お返しに誰かの放った対空砲火の至近弾がすぐ真横で爆発、右翼第二フラップが損傷を受け使用不能になった。姿勢制御や上昇下降に支障が出ただけでなく、フラップが歪んで外側が常にはみ出た状態になってしまったために、計算されつくした整流機構が乱れ、最高のパフォーマンスが出せなくなってしまっている。

 常にエラーの表示されてしまうコンソールを睨みつけると、すぐにモニタに視線を戻して機体をロールさせながら攻撃を躱す。そんなとき、通信が入った。

〈隊長、ヴァレーツ2以下四名戦闘空域に到着、戦闘を開始します〉

「わかった、ヴァレーツ2と3は対空砲を中心に潰せ、ヴァレーツ4及び5は地上兵力の脅威となる要塞砲を破壊しろ」

〈ヴァレーツ2了解〉

〈ヴァレーツ3了解〉

〈ヴァレーツ4了解〉

〈ヴァレーツ5了解しました〉

 ヴァレーツ2はザーレ中尉、ヴァレーツ3はジェリク曹長、4はメイネーイ少尉で5がカニータ准尉だ。四機のリジェースはは、綺麗な曲線を描きながら二手に分かれると通った後には次々と屍が残されていく。全員がエースパイロットであるため地上から、若い兵士を中心としたシェーゲンツァート軍兵力が彼らを落とせるはずもなく、一方的な被害を被ってしまう。

 たった五機のALに防衛線が押しつぶされようとしている現実を、シェーゲンツァート軍兵士達はどう受け止めているのだろうか。ともかく、彼等たった五機の空軍のALの為にレットルーレ線は崩壊しかけており、それに合わせてオースノーツ連合陸軍兵力が勢いづいて更に戦線を押し上げていく。

「いいぞ、まだやれる」

 痛みの中に笑みがこぼれるヴィエイナ、調子が乗ってきて今なら憎き重装型のリヴェンツを仕留められると操縦桿を握る力が強くなっていたのだが、ここで思わぬ水を差されることになる。

〈ヴィエイナ様、ライフルの残弾残り二十です〉

「あ?クソ……」

 今使っているマガジンが最後であることは彼女も把握している、ここにきて飛行型ALのペイロードの低さが響いて来たらしい。

「でも一人帰るなんて出来るわけがないだろう!」

 そう吠えて狙いをより定めつつ、高度と速度を落として飛行を続ける。それはまるでわざと自らに銃口を向けさせるためのように。その間にも、彼女の部下たちは命令通りに指示された敵を攻撃し続ける。

〈被弾!〉

 そんな中、メイネーイ少尉が右足に被弾、脛に砲弾を浴び脚部の喪失はしなかったものの、装甲が破壊されフレームが剥き出しになってオイルが迸っている。

〈右足の油圧が死にました〉

「ヴァレーツ4は後退、ヴァレーツ5はその援護を。安全な空域まで後退したのを確認したら戻って」

〈了解です〉

 カニータ准尉の援護の元、メイネーイ少尉の機体が後退していく。シェーゲンツァート上空はほぼ連合軍が制空権を取っているためカニータもすぐに戻ってくるだろう。他の隊員たちもカニータ以外は被弾しているが、後退するほどの損傷でないため継続して戦闘している。

 地上からは彼女の狙い通り動きが弱まった彼女の白い目立つ機体に向けられる火線が増え、相対的にザーレ達に向けられる銃口の数は減る。速度を落として尚彼女は全く被弾することなく飛び続け、同時に目はリンド機を捉え続けていた。余裕があるときは銃口を向け、トリガーを引く。高度を千六百四十fにまで落としたが、それでも命中した銃弾は重装型の重装甲の前には軽く弾かれてしまい、火花を空しく散らすだけだ。

「クソ、昔より硬いんじゃないか?」

〈情報では敵空挺ALは空挺作戦で用いなくなった分、フレームと装甲を強化して従来より性能が向上しています〉

「やっぱりね。フンッ!」

 機体を捻りながら高度を更に六百fと少し落とす。高度千fは人間からするとあまりにも高い空だが、航空機からすれば墜落寸前の危険高度。一瞬の過ちで地面と一体化する危険性があるのだ。それを彼女は対空砲火を躱しながら非常に落ち着いた様子でやってのける。

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