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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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籠城戦

 既に白い鳥の異名を持つあの恐ろしい女パイロットが、シェーゲンツァート北部沿岸に到着していることを知らないリンド達シェーゲンツァート兵は、夜間に味方の戦闘工兵が闇夜に乗じて地雷を仕掛けに行っているのを眺めていた。

 工兵たちは敵のサーモカメラに引っかからないように、戦闘服を熱をほぼ完璧に遮断してしまう特別なものに着替え、顔も熱遮断仕様のドーランを塗りたくって隠密化粧で着飾っていた。その際に彼らが作業に集中できるように敵の動向を見張る必要があり、リンドとルー、ドゥーリッポがその任についている。

 工兵が地雷を仕掛けに行ったのは、比較的要塞に近い箇所でそこまで今のところ敵が達したことはない。ならばなぜ地雷を新たに仕掛けに行くのかというと、敵味方の撃った弾が地面に着弾し、丁度そこに地雷が埋設されていて誘爆を起こしてしまうということがたまにある。特にこの場所ではかなり濃密に地雷を仕掛けているので、そんな事故が起きる確率が通常より高かった。その為、彼らは新たに地雷を仕掛けに行かざるを得なかったのである。

「ドゥーリッポ上等兵、そちらの敵の動きは」

〈こちらドゥーリッポ、気づいた様子は無し。動きはありません〉

「了解。ルー、そっちは」

〈ハイ隊長。こちらも何も動きありません〉

「了解。引き続き監視を続けろ」

〈了解であります〉

 今のところ問題はなさそうで、工兵の方でも滞りなく作業は進んでいるようだ。味方識別タグのお陰で味方の位置はわかる。先ほどからモニタ上で、複数の点が特に不振な動きもなく生物特有のわずかな揺れをドットで示しているお陰で、少なくとも生きていることは分かる。その動きが一切なくなれば死んだか、或いは地雷を踏みでもしたのだろうとわかるし、突然ひっきりなしに大きく動き始めれば何かあったのだろうということが推測できる。はっきり見たいが、熱遮断のお陰で味方であるリンド達からも、工兵の姿を確認することが出来ない。

 二時間後、まだまだ夜更けの中無事工兵たちの作業が完了し彼らは撤収を始めた。複数の塊に分かれて散っていた点が、より大きな集団となってゆっくりゆっくりぞろぞろと要塞線の方へと戻ってくる。

 さて、ここからが重要だ。何せ仕事が終わって緊張の糸が少しずつ緩み始めており、またさっさと安全な拠点へ戻りたいという焦りが彼らから注意の意識を削いでいる。それに今まで散っていたところが一か所に集まっているのだ、そこに重迫撃砲弾など撃ち込まれてしまえば、一瞬にして数十名の工兵隊が壊滅する。

「二人とも警戒を強めろ」

〈了解です〉

〈わかりました〉

 リンドは予めロングライフルをしっかりと構え、工兵隊を狙えそうな敵ALや戦車に狙いを定める。すると彼の予感は的中し、突然夜闇を切り裂いて照明弾が二発上がった。流石の遮熱装備でも光から逃れることはできない。彼らの近くに砲弾が着弾し始め、リンド達は反撃を始めた。

 ロングライフルは連射性がないものの代わりに有効射程距離が突撃銃よりもずっと長く、威力も高い。一発目は外したが、二発目で敵の砲撃型ALの右腕を吹き飛ばし、続けて首元に一発ぶち込んで沈黙させる。

 ルーが撃った榴弾が戦車のすぐ真横に命中し、撃破こそできなかったが爆発によって跳ね上げられた車体は酷いダメージを負い、キャタピラだけでなく転輪、発射装置、エンジンなど重要装備の悉くを破壊されて行動不能に追い込んだ。

 作業用に掘られていた塹壕に飛び込むことが出来た工兵たちは必死に後退しているが、塹壕の中を数十人が一列になって進んでいる状態では、進める速度も遅い。既に数人が犠牲になっているので、これ以上犠牲を出すわけにはいかないが、かといって飛んでくる砲弾をどうにかすることもできない。とにかく今はその攻撃自体を減らすことで彼らを守る必要があった。

 照明弾はまだもう少しの間対空していそうなことをカメラが測定した照明弾の高度から想像すると、リンドはスモークディスチャージャーを遠距離にセットし、右胸部から一発味方のすぐ横に向けて発射した。

 三百mも飛んでいった弾頭は、煙幕を引きながら味方のいる塹壕から僅かに二十mほどの位置に着弾し、そのまま向こうへと数回バウンドして転がっていく。煙幕はどんどん周囲に広がっていき、味方を覆いつくす。幸い風は殆どないため、煙幕は長時間その場に滞留し続ける。その間に工兵たちは塹壕に沿って進み、安全圏まで達すると味方のAWが出てきて、彼らを護衛しつつ最後に戻っていった。

 犠牲は二人、負傷者は六人出てしまったが、それだけにとどめられただけ良しとすべきなのだろう。その後敵は工兵たちが何をしていたのかを探っているようで、偵察を出したり高性能な探知機を装備した特殊ALを出したりしてきたが、地雷が新たに埋設されたと気づいたのかどうかまでは流石に見ているだけではわからない。

 それから二時間ほどしてリンド達は見張りを後退して睡眠に入った。



 硝煙が立ち昇り、目暗ましの煙幕の中から、マズルフラッシュと共に連続した銃弾が地雷原の向こうの連合軍へと撃ち込まれる。轟々とAL用の巨大な機関銃が唸りを上げ、人間を押しつぶしてしまいかねないサイズの空薬莢が地面に落着する。相変わらず敵は攻めあぐねているようで、思いのほか敵を寄せ付けていない要塞線は、他戦線を押し上げていっている連合軍にとって目の上のたん瘤になっていた。

 午前九時、朝食を終えたリンドは後退をフーフラーファ曹長に告げて再び銃を手に取る。

「ん……?んん……」

 操縦桿を握ろうとしたリンドは、左手に違和感を感じた。どうにも動きが悪い、特に小指と薬指の動きがぎこちなく思い、最後に点検した日を思い出そうと手帳をめくる。

「開戦前かぁ?いや違うな……」

 彼自身でも驚きだったが、どうやら最後に義手の調整をしてもらったのが本土決戦開始から二週間ほど経過した日だった。その日以来、義肢の技師とは会っていない。

「こちらオーセス中尉、整備部に尋ねたいんだが義肢の調整に覚えがある者はいないか」

 リンドは義肢の面倒を見れる者がいないか、整備部へと尋ねる。

〈こちら整備部、モルガン軍曹が出来るはずです。手配しましょうか〉

「頼む。交代時間のえーっと、十五時になったら尋ねる」

〈了解です、伝えておきます〉

「頼む」

 義手の調整の約束を取り付けられたことに安心し、ほっと一安心だ。彼のつけているような義手はA兵器の技術を応用してはいるものの、ALとはまるで勝手が違い、義肢専門の整備士が必要とされる。ここにはいないのではないかと危惧していたが、どうやら義肢も触れる整備兵がいたようで、ひとまずは安心だった。

 あとは交代の時間までに義手がもってくれることを祈って、彼は操縦桿を握り直す。

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