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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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エンドライン(3)

 連合軍はレットルーレ線へと濃密な砲撃を浴びせる。放たれているのは砲弾だけではなく、ロケット弾も含まれており、それらの援護射撃の下を地上兵力が要塞線目掛けて突進する。しかし、当然ただでは近寄らせてはくれない。

 四機のムニャンガスが前進していると、先頭を行く一番機のすぐ真横から、直径二mはあろうかという巨大な円盤が土の中から持ち上がって脚部側面に大きな音を立てて引っ付いた。マズイ、そう思う間すら与えられず、その円盤は大爆発を起こす。その火力は大きさの分だけ絶大で、ムニャンガスの左腕と頭部が吹き飛んだ上半身が、高々と舞い上げられるほどだった。また、爆発の衝撃で、三機ともが転倒し、一機が直径一mほどの同じような、今度は少し天面が膨らんでいる円盤に激突、またもや大きな爆発を起こし吹き飛ぶ。

〈じ、地雷ごほっごほっ……隊ちょ……ごほっ〉

 円盤の正体は対AL地雷だった。それも大型の対AL地雷がすぐ横に現れた金属に反応して磁力で吸着したらしい。地雷のことは各国の軍も想定しており、どの陸戦用の機体もある程度の対磁力コーティングは成されていたが、これほどまでに大きな地雷ともなれば、限度があったようだ。ここだけではなく他の場所でも、地雷や落とし穴といった古典的な罠などにひっかかり、大破乃至行動不能になって機を捨てざるを得なくなった者もいた。

 落とし穴でどうやってALを仕留めるのかとおもうかもしれない。確かにただの穴ならジャンプなりして抜け出てしまえるだろう。しかしそこに一工夫加われば途端に人間からALまで仕留められる恐ろしいトラップへと変貌する。

 説明すると中に爆薬を仕掛けたり、返しを作ってまったく身動きも取らせず抜け出せなくするということだ。そうして破壊されていないものの戦闘中では引っこ抜くこともできずに放棄するしかなくなる、ということだ。ただ中には無理矢理スラスターをふかして自機が焼けて損傷しても脱出したものや、機転を利かせて格闘装備で穴を広げたものもいた。

「見ろよこれ」

 ピュループ上等兵がケプルーム一等兵にある映像を拡大して見せると、目を細めて確認した後噴き出した。

「……ぶっほぉ!」

 ピュループが拡大した映像に映っていたのは、下半身が地上に向かって伸びている敵ALの姿だった。どうやら運悪く転倒した先に落とし穴があったらしく、天高く足を突き出してスタックしているさまはあまりにも滑稽で、戦場の大爆笑を買うこと必至のモニュメントと化していた。何より面白さを加速させたのは、脚部が動いてもがいているところだ。

「傑作だぜありゃあ」

 そういうわけで面白いこと甚だしいのだが、いつまでも見ているわけにはいかない。まだ地上部隊が到達していないとはいえ、砲弾は今も降り注いでいるのだから、盾で眼下の味方と自分自身を守る必要があった。

 敵地上部隊はなかなか前進できないようで、進んでは退くの繰り返しをしており攻めあぐねている。数時間もすると、殆ど前進する兵はいなくなり、後退しきってしまった。砲撃もとっくに止んでいる。

 とりあえず一日目は乗り切ったようで、警戒は厳にしつつも、早速戦死者の遺体の回収や損傷箇所の把握と修理、損傷した兵器の修理に取りかかる。

 巨大要塞故に比較的安全な地下に大きな整備施設があるのはありがたく、整備士達も敵の砲弾に晒されずに屋内で整備出来ていた。

 リンド機には修理の必要な損傷はなかったが、モリノ軍曹の機が至近弾によってセンサーに損傷を受け、ドゥーリッポ上等兵の機が小型ロケット弾の直撃を受け右腕が吹き飛んでいた。その為修理が行われている。この要塞を整備した際に、補修用の部品も潤沢に用意していたので、しっかり新品に置き換えることが出来た。ただし、そう何でもかんでもまるっと替えると後々響いてくるので、使えなくなった部分だけユニットごと置き換え、そこからまだ使える細かな部品を取り出していた。

 リンドは整備の方は覗かず、睡眠と食事を取った後に自機へと戻って戦闘に備える。ようもないのに無駄に士官が足を運んで彼らの仕事を邪魔するわけにはいかない。

 戦況はまずまずのようで、タウケン伍長の死を弔った後、リンドは望遠レンズで敵陣を監視しつつも家族からの手紙を読んでいた。こんな状況下でも手紙が届くのはありがたく、混乱しきった輸送のごたごたで失われるか、敵の攻撃によって輸送部隊もしくは配達員諸共灰になって消えることも少なくなかった。母からの手紙にもリンド宛に直近で三通手紙を送ったそうだが、届いたのはこの四通目だけだ。

しかし無理もない、前線は常に後退し続け、ずっと定まった位置にいることが出来ないのだ。配達員も砲弾の雨をかいくぐって這う這うの体でたどり着いてみれば、目的の部隊は既に引き払っておらず、敵部隊が陣取っているのだから。

 そんな状況で届いた手紙だが、内容としては彼の心に僅かな光を射すものだった。母の具合がよくなっており、病気も治りつつあるらしい。このままならもし敗戦して軍籍を失っても、普通の職で食っていけるかもしれない。

 最早敗戦色濃厚なのは新兵にだってわかるほどのクソみたいな状況だが、彼にとってはいいニュースでまだもう少し頑張れる気がした。後はセレーンが来てくれれば……

 


 連合軍によるレットルーレ線攻略作戦が始まって七日が経過した。相変わらず連合軍は要塞に取り付けておらず、それどころか列車砲の破壊すら成し得ていなかった。一応ある程度要塞に損傷をあたえてはいたものの、それ以上の損耗を食らっており、増援が無ければ攻略は不可能な状況にあるようだ。

 そこで、連合軍は虎の子を出すことになる。本来は到着まであと二日必要だったのだが、部隊だけ先に飛ばして母艦は後から合流するという方針に急遽転換された。

 オースノーツ海軍第一空母機動艦隊所属、バストローン・カイバー級空母三番艦、グスタン・ガリ・ゴーフェインに、五機の飛行型ALが着艦しようとしていた。先頭は真っ白いリジェースF2-b型。リジェースの脚部に飛行安定用の小さな可動翼を二対取り付けたほか、エンジンをマンシュラッス製の改良型エンジンに換装しているなど多数の改良が施してあるため、初期型よりも全体的に十八パーセントの性能向上を成し得ている。その中でもこの小隊のモノは更に特別なカスタマイズが前期に施されており、輪をかけて特にこの白い機体には、高精度のパーツばかりを使用している最高級の機体に仕上がっていたが、それだけの価値がこの機体のパイロットにはあった。

 着艦はAIによって支援されており、パイロットは気を楽にして着艦が可能になっている。速度はみるみるうちに落ちていき、ほぼVTOL状態になったところで、ゆっくりと二段甲板の上段に着艦、夜の闇に白い機体は目立つため、すぐに機体はしゃがまされた。

 後続の機体が着艦していくのを背後に、パイロットが降り立つ。ピチッとしていないのだが、パイロットスーツが映し出す体のラインは女性のそれで、ヘルメットを取ると肩辺りで切りそろえた金髪が海風になびく。

「ヴァルソー大尉、待っていたぞ」

 近づいて来た将校の敬礼に、彼女も敬礼で返す。

「ヴィエイナ・ヴァルソー特務大尉、到着いたしました」

「艦長のコムメッツ大佐だ、出撃は明日の朝マルキュウマルマルになる。ブリーフィングはマルナナマルマルになる。部隊が揃い次第部屋に案内させよう」

「よろしくお願いいたします」

 ヴィエイナは手を降ろし、夜の海を眺める。向こうにはシェーゲンツァート本国の陸地が広がっており、その更に内陸部では戦火の灯りが灯っているのが、沿岸からでも確認できた。

「奴もここに……いるんだろうな」

 彼女が見ていたのは、火の内側にいるであろう憎き褐色の肌の男だった。

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