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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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蘇る機動要塞(8)

 むごたらしく潰されたピルパッテンター機からは、オイルが漏れ出て地面を汚す。これでたった一人になってしまったダンヴィルだが、立ち止まることはしない。ここで三機ともやれば、死んでいった部下たちの仇を討てるというものだし、なによりこの重レーアは以前から連合軍にとって非常に邪魔な存在であったため、排除に成功すればこの地域における連合軍の進撃速度は飛躍的に向上するはずだ。

 怒りを指に込め、ペダルを踏みこんで市街地へと逃げ込む。ここは敵地であるため、同盟軍は派手に戦闘を行わないはずだ。

「さあ来いクソ野郎……」

 重レーアは少し迷っているようであったが、単機彼を追いかけて市街地に足を踏み入れる。指揮型は先ほどスタックしたネイヴェロープの様子を確かめているらしい。

「よーしいい子だ……」

 敵が誘いに乗ってくるか不安だったが、乗って来ただけでなく一機で追って来てくれるとは思っておらず、願ってもない幸運にほくそ笑むと、大きな立体駐車場が隣接している、丁度ALの姿を隠せそうなサイズの建物の影に入ると同時に機体を立ち止まらせ、そしてしゃがませる。

 うっすら映るレーダーに表示された敵機は、ダンヴィル機が見えなくなったことで迷ったらしく、その場に立ち止まったのが伺える。通常ならば周囲の建物に数発弾を撃ち込んでいぶり出すだろうが、やはり自分の国が戦場になっている以上、敵もためらいなく撃つことが出来ないようだ。

 相手はそれなりに若い男だという情報は、連合軍内にも流れている。二度も捕虜になれば情報を完全に把握されるのは当然だし、そもそも以前シェーゲンツァート軍が軍の広報で彼を敵基地からALを奪って脱出に成功した英雄として祭り上げた過去もある。

 若いということは経験が少ない、火力で劣っていてもダンヴィルの積み重ねてきた経験を駆使して圧倒してやればいいのだ。

 彼は思考を巡らせる。そしてレーダーに目をやりまた使えなくなったことで、ビルのガラスに目線を移動させる。右を見て左を見ると、端の方に彼の方に向かってゆっくりと進んでくる重レーアの姿がある。振動計も、彼の機体左後方から迫る振動を検知している。

 グレネードを腰のグレネードラックから一つ取り出すと、機体を走らせ重レーアが迫る方向とは反対方向、つまり右に向かって走り出す。そして重レーアと同じ通りに差し掛かった瞬間グレネードを放り投げるが、重レーアを通り過ぎてもう一つ向こうの通りのブティックに飛び込むと大爆発を起こす。

 流石に走行間投擲ではあたらなかったのか、そう思われたがこれは初めから図ったこと。重レーアは思わず爆発が起きた方に機体を向けてしまい、ダンヴィル機への注意が削がれた。

「よおし!」

 何かしらこういう時かっこいいセリフを言ってみたいものだが、現実は戦法を考えるだけで精いっぱいなので、簡単な言葉とか悪態くらいしかパッと出てこない。言葉で戦うわけではないので、それでも問題ないが。

 グレネードの陽動に引っかかっている間に、彼は機体を全力で走らせ、一気に重レーアの後方まで回り込むと、立ち止まってアサルトライフルとオートタレットを斉射する。背面であれば重装型も装甲は薄くなる、だがギリギリで重レーアも振り返ってしまい、背面と側面に当たったのは僅かでほとんどが正面装甲に弾かれてしまった。彼我の距離僅か百mというあまりにも近距離での射撃だったにも関わらず、まったくもって有効打を与えられなかったことに恐怖したが、ここであきらめるわけにもいかないので再び機体を走らせる。止まったらやられる、彼のムニャンガスはある程度装甲を追加して防御力を上げているものの、重装型の火力の前には紙も同然。あの巨大なガトリングの斉射を受ければ一、二秒で見るも無残な鉄くずに変えられることは必至だった。

 しかし重装型も無敵ではない、誰にでもわかる通りその重量とそのための機動性の低さが弱点であるため、機動力を駆使して翻弄すればいい。すぐにまた移動を再開し、敵が割り切って撃ってこない内に可能な限り移動する。

 向こうも遂に割り切ってしまったようで、建物の被害にある程度の配慮がまだ窺えるのものの、攻撃してくる。だがやはり流石にガトリングをぶっ放すような真似はしてこない。

(その心の弱さがなあ!)

 命取りなのだ。やらねばならぬ時は、思い切ってやらなければそれはやがて自分を殺す結果となる。周囲に着弾する銃弾の中を、彼は突っ切って走行間射撃をしながら距離を詰める。お互いに銃弾が装甲に命中して弾かれ、細かな部品や装甲の表面が抉れていく。

 敵機は大きな公園の中央に陣取っていたので、それを迂回するように側面に回り込んで銃撃しようと、もう一度グレネードを投げる。今度は陽動ではなく、命中させるつもりで。

 人間の背丈ほどもある巨大なグレネードは、舗装路面を粉砕しながらバウンドすると、敵機の足元に転がっていたトラックの荷台に激突、起爆する。火柱が上がり、爆炎に飲まれる重レーア。この隙に側面から距離三十mほどの超至近距離射撃を一気にフルオートで叩き込む。

 右側面に回り込むことに成功したダンヴィルは、また足を止めしっかりと構えると、アサルトライフルをフルオートに切り替えて狙いを定める。そしてトリガーを引こうとした瞬間だった、爆炎の中から炎がダンヴィル機目掛けて噴き出した。

「うおっ!」

 延焼したのかと思ったがそうではない、明らかに一条の炎が彼の機体に向かって伸びて来た。すぐにそれが火炎放射器によるものだとわかったが、わかったところで食らったものは無かったことにはできない。炎に巻かれた彼は、慌てて機体を下げて一旦距離を取ろうとするが、視界の殆どが炎に覆われて周囲の状況が確認できない。機外温度千三百度を示す中、彼は民家に足をひっかけてしまいそのまま民家を押しつぶしながら転倒する。

「なんっ、だああーーっ!」

 シートベルトのセーフティロックがかかり、体に強い衝撃がかかるがモニタには叩きつけられずに済む。急いで機体を立て直そうとするが、立ち上がろうにも突いたマニピュレータが、瓦礫で滑って上手く立ち上がれない。そこに激しい連続した衝撃が、背後から与えられ機体の状況を示すモニタの様子から、後方より攻撃を受けているらしいことがわかる。だが、機体はまだ持ちこたえているどころか損傷は少ない。どうやら小口径弾による銃撃らしい。

 どうにか機を立ち上がらせようとしたところで、より強烈な衝撃が機体正面辺りに与えられ、今度は後方に向かってふっとばされる。何が起きたのかわからない、体全身に走る痛みに耐えながらも晴れ始めた縦線の走るモニタの前に映った重レーアの姿を見て、咄嗟に右腕を伸ばす。右腕には三十五㎜モーターカノンが搭載されており、装甲車程度なら撃破は可能だ。

 自分を見下ろすシルエットに向かってモーターカノンを撃つが、当然全て弾かれ代わりに敵機は片足を上げてダンヴィル機の右膝を踏みつぶす。破砕されたフレームと装甲が地面に突き刺さり、後ずさりしようとする彼の操縦を阻む。

(いたぶりてえのか……いやこいつただ弾を節約するつもりでさっきから踏みつぶしてやがるのか!)

 ただ節約のためだけに、まるで虫けらのように殺されねばならないのか。あまりにも無情な現実に彼は狼狽える。敵はもう片方の足も踏みつぶして完全に逃げられなくしたところで、今度は左手にショットガンを取ると、彼に向ける。

「畜しょ」 

 悪態をつく猶予すら与えられないまま、無数の穴がダンヴィル機の胴に穿たれる。これで第二〇一中隊は、交代要員として後方にて待機している三名を除き全滅した。大した損傷もないままに引導を渡した重装型レーアルツァスは、名前も知らない敵機の前に佇んでいる。

「……こちらリンド・オーセス中尉。BA2エリアの確保完了。敵AL部隊は全滅。我が方の損害は装甲車二両、戦車一両、AL一機……以上」

 通信を終えたリンドは、足元に倒れた敵機には目もくれずにエナジーバーの封を開け、齧った。

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