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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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蘇る機動要塞(7)

〈ばっ、化け物……〉

 十六番機のメルトダ二等兵は、両足のショックアブソーバーと油圧シリンダが完全に破壊され立ち上がれなくなった自機の中で、モニタに映る二丁の巨大ガトリングを背負った重レーアを目にし、そう口にした。その直後、横にいた指揮型レーアルツァスが突撃銃を三発、的確にコックピットに側面から撃ち込み完全に停止させる。

「三番五番六番は重レーアを撃て!ありったけブチ込め!十一、十二番十三番は頭でっかち!十九と二十は指揮型!撃てーっ!!」

 ダンヴィル自身も重レーアに銃口を向けつつ叫ぶが、言葉が言い終わる前に五番機ノン一等兵機が撃破され、ダンヴィルの機体も右フロント及びサイドスカートがネイヴェロープの銃撃によってもぎ取られる。しかしそれでも彼は怯まない。この程度の被弾など、彼を止めるに足らないからだ。このままでは本当に全滅してしまう。まだ若い部下たちを生かさねばならないのは、大人として、指揮官としての義務だからだ。

 その義務も殆ど失敗しているが、それでも彼はアサルトライフルとガンタレット、バックパックからアームで伸びている三連ガトリングガンを同時に射撃しながら重装型へと突っ込んでいく。しかし、正面からでは、あまりにも無慈悲に悪魔的に分厚い増加装甲が、その程度の口径の弾など弾いてしまう。重装型の正面装甲を貫きたいのならば、バズーカの一つはもってこなければ話にならない。

 彼我の距離およそ二百八十と非常に近距離であったにもかかわらず、空しく弾かれる銃弾を見た彼は、スイッチで切り替え、走りながらライフルの下にあるグレネードランチャーを発射し見事に重レーアに命中するも、リアクティブアーマーによって防がれてしまった。

 機関砲を向けられた彼は、盾を翳しつつジグザグに走って一旦街の中へと逃げ込む。その間ネイヴェロープが機関砲で相手をし、重レーアは自分を撃ってくる三番機に向かってロケット弾を一発発射、弾頭は直前で対空機銃によって破壊されてしまったが、爆風が一瞬グンロッツォ機の視界を奪い、その僅かな隙を狙って間髪入れずに二発目を発射、右腿に被弾し太もものフレームが大きく破断し重量を支えきれずに自壊する。そして倒れたところに、機関砲を撃ち込んで機能を停止させた。

 機械なのだから当たり前だが、あまりにも無表情にそして事務的に処理していくその姿に、本当に人間が操縦しているのかと疑わせる。

 グンロッツォは死ぬ直前にグレネードを放っており、放られたグレネードはネイヴェロープの頭部付近で爆発し、頭部右前方が破壊され、レーダー、メインカメラと右モニタが死ぬ。ネイヴェロープは大きな頭部にコックピットがあるため、この被弾によってコックピットの機能に著しいダメージを負ってしまった。これによって他にも機体機能に損傷が生じたらしく、ネイヴェロープはその場に片膝を突き動かなくなってしまった。

 重レーアは被弾した部下の機体を庇う素振りを見せ、その隙を見計らって一番機、十一~十三番機は重レーアに向かって集中砲火を浴びせた。指揮型が千切れかけた下腕にくっついたままの盾をぶらぶらさせた状態でかざしながら、更にそのカバーに入りつつ、胸部の機関砲で十一番機の股関節を損傷させ、十一番機はその場から動けなくなる。

 十一番機を守るために、ダンヴィルはガンタレットで重レーアの注意を惹きつつ、左肩アーマーの後ろについている迫撃砲を短距離にセットし発射した。人間の使うそれよりも大きいが、重迫撃砲よりも小さいため発射音はさほど派手ではない。ボヴン……とまあまあ重たい発射音と共にほぼ真上に飛び上がった砲弾は、重力にひかれて落ちていくと、まっすぐ重レーア目掛けて落ちていった。直撃すればかなりの打撃を与えられるはず、しかしそうならなかったのは指揮型の絶妙なアシストによる対空迎撃で着弾前に撃墜されてしまったためだ。

 ならば更に二発撃ち込んでやる、そう思いボタンを押そうとした瞬間モニタに信じられないものが映った。

「なっ!!おまっ!!」

 彼が目にしたのは、あろうことかメイスを抜いて敵機に向かって駆け寄っていく六番機と十二番機の姿だった。そのあり得ない状況を目にしたことによる困惑によって、彼の脳は数秒思考停止する。何故距離のある止まっている敵に向かってわざわざ格闘武器を抜いて接近するのか、何故二機もそれをやっているのか。何故……

 どの国でもALパイロットの教育には、格闘戦を挑みに行くなと教えるのが当たり前だ。それはALを生み出したオースノーツが真っ先に記した文言で、新兵たちにだってそう教え込まれているはずなのだ。それなのに、何故あのバカ共は?

 新兵たちによる理解の範疇を超えた愚行がうまくいくはずがない。急いでカバーに入ろうと飛び出す。

「下がれバカがお前らぁ!!」

 しかし、彼の声は届かない。

〈大丈夫ですやって見せます!〉

〈懐に飛び込めば!〉

 何もわかっていない、懐に飛び込めるのはビュンビュン飛び回れるようなファンタジックなロボットと主人公だけで、自分を主人公だと思い込んでいる野暮ったい陸戦用ALに乗っている雑兵ではない。時折こうしてどこの戦場でも、自分は初陣であっと驚く活躍を見せ、そこから成り上がれると思い込んでいる若い兵士が出てくるし、ダンヴィルも見るのは初めてではない。ただ、そういう奴は皆死んでいってこの部隊には残っていないだけのこと。

 再び自分に敵機の照準を向けさせようと信号弾を打ち上げながら走るが、遅かった。彼の見ている前でまず六番機が機関砲のバースト射撃を受け、正面装甲に穴が開きその場に倒れ込む。その隙に上手く十二番機が、十三番機が指揮型の相手をしているのを利用し重レーアに肉薄するものの、メイスの間合いに飛び込む前に、逆に敵機に距離を詰められてしまった。

 まさか向こうが引くのではなく前に進んでくるとは思わなかった十二番機ピルパッテンター二等兵は、判断しあぐねてしまった。重レーアは圧倒的重量差を利用して体当たりをかますと、正面からぶつかったピルパッテンター機は後方に吹っ飛ばされ、正面衝突の交通事故と同等かそれ以上の衝撃を受けた彼女は、モニタや計器類にゲロを撒き散らす。一部のスイッチが跳ね飛び、レーダーモニタが脱落して彼女の右腕を直撃、中を通る冷却パイプが外れて、自動停止するまでコックピット内を凍てつく白いガスが吹き荒れた。

〈う、ぶぁ……あ〉

 仰向けになった彼女が次に目にしたのは、あちこちにエラーが表示された計器類と、ひび割れ縦線の走る正面モニタに映る重レーアの足の裏だった。

〈きゃあああ!!!〉

 ピルパッテンターの幼い悲鳴が上がる。昔学校で雷が鳴った時のクラスメイトの女子の、その鬱陶しいまでの悲鳴をふと思い出しつつ、ダンヴィルは重レーアの側面を撃ったが、直後に重レーアが機関砲を片手撃ちしてアサルトライフルを破壊してしまう。その際、誘爆によって右手が破壊されてしまった。

「畜生畜生!モデステル!」

 彼はまだ戦っている十三番機、モデステル一等兵を呼び出すが、彼も名を呼ばれる直前に指揮型によって撃破される。

〈隊長ーーーっ!!いやああーーっ!!〉

 何度も何度も重レーアはピルパッテンター機のコックピットを重量をかけて踏みつけ、どんどん機体は歪んでいく。無線機を通して、彼女の悲鳴と共に踏みつけられるけたたましい騒音が耳をつんざく。

〈ぎいやあああああ!!!いやああああっ!!誰かーーっ!!〉

 次第に彼女の声は聞こえなくなり、最後に無線が破壊されてそれ以降完全に通信は途絶え、そして彼女のいるはずの機体胸部は、通常の半分以下の厚みにまで圧縮されてしまっていた。

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