蘇る機動要塞(5)
「全機隊列を乱すな!冷静に!」
混乱に陥った部隊にダンヴィル大尉は呼びかけ、グンロッツォ曹長らも新兵たちを落ち着かせようとするが、あちらこちらに蟲のごとく湧いて出た小さな敵達が彼らの周りを這いずり回っているのだから、落ち着けるはずもなかった。
「グンロッツォ!ベルメルー!」
〈はい!〉
〈なんでしょう大尉殿!〉
「一旦部隊を後退させる、信号弾を撃つ!」
こうなれば一度蟲の巣から出るほかない、そうでもしなければ冷静さを取り戻す前に隊の半分が食われてしまうだろうから。ダンヴィルはパネルを頭上の小さなレバーを九十度捻って右手で薬指部分のトリガーを素早く二回押す。すると頭部すぐ後方の胴体天面から軽やかな破裂音と共に二条の白煙が空へと昇ったと思うと、五十m辺りの高さで破裂、青と赤の煙が噴き出した。弾頭はゆっくりと落下し、ほぼ全機のモニタに映し出された。信号弾が発射されると、自動的に信号弾をモニタの端にアップで表示するようにシステムが作られているため、否が応でも注目することになる。
それによってようやく新兵たちも我に返り始めたが、シェーゲンツァート軍がそう易々と罠にかかった獲物たちを逃すはずがなかった。
いつの間に回り込んでいたのだろう、いや、そもどこに隠れていたというのだろうか。突如として部隊の背後に現れたAL、ザザルェイファとルスフェイラが一機ずつ、前者は右腕が無く後者はいくつかの装甲が失われ、メインカメラのレンズは四枚とも大きなひびが入っている。ザザルェイファはバズーカで最後尾にいた十七番機マリオッチ二等兵のがら空きの背中を撃った。バックパックに直撃したため、彼の機体は一撃での爆発は防げたものの、その爆発によってバックパックは吹き飛び衝撃波によってパイロットは突き上げられ、失神してしまう。そのままうつ伏せに倒れたマリオッチ機は、青果店と隣の法律事務所を半壊させた。
また、ルスフェイラはショットガンで十番機であるウブフゥ二等兵機の側面を僅か百mの近距離で射撃、弾は薄い脇腹の装甲を突き破りコックピットブロックを貫通、ウブフゥ二等兵の体は挽肉に成り果てる。ALサイズのショットガン弾の直撃を生身で受ければ、指の一本もまともに原形を留めてはいないだろう。
「マズイ!」
退路が使えなくなった。道自体はいくつもあるが、この二機が倒れたのは大通りの二本、そこに二機のALが倒れて道を塞いでしまったことで、迅速な後退が行えなくなってしまった。他の道はいくつもあるが、地方都市故に道幅がどれも狭くALが通ろうとすれば確実にどこかをぶつけまくることになる。
最悪それしかあるまいと残存機をそれぞれ各個の判断で道を後退するように伝えたが、新兵ではそれすら迷わせてしまう。大体は死に物狂いで機体をあっちこっちへとぶつけて損傷させながらも後退を始めたが、中には立ち止まってしまうものもいた。
「ベールッツプ二等兵!すぐ後ろの道を後退しろ!」
〈えっあっ、でも道が狭くて〉
「かまわんぶつけろ!やられたらそれ以上じゃない損傷だ!」
〈あっあっ……〉
どれだけ呼びかけても、混乱によって思考が停止してしまった彼女の脳は、平時なら簡単に判別がつく状況でも、最早百年前の骨董品コンピューター以下と化してしまった。この状況下で立ち止まれば、あっという間に毒虫は群がる。先ほどジャンガーナイス機に一発食らわせて逃走したと思われた戦車が、また別の建物の一階駐車場から現れ、砲弾を胸部に撃ち込む。直撃したベールッツプ機、爆発と共に黒煙が上がってダメかと思われたが、超至近距離で百十五㎜砲の直撃を受けていながらも、まだ動いていた。
「なんだぁ……榴弾か?」
どうやら戦車は徹甲榴弾ではなくただの榴弾を撃ち込んだらしい。弾薬の選択ミスかと思ったがダンヴィルはそうでないことに気が付いた。
(弾が無い)
そう、もうあの戦車は榴弾しか残っていないのだろう。通常ならば仕留めきれたはずの敵に撃てる砲弾は榴弾のみ、思えばジャンガーナイス機も真横からゼロ距離での被弾をしておきながらもまだ動き続けている。既にあの時にはもう撃つべき貫徹力の高い砲弾はなかったのだ。
「各機!恐らく敵戦車は既に徹甲榴弾もAPFSDSも在庫が底を尽いてる!打ちどころが悪くなけりゃ直撃を受けても死にゃしない!」
これは部隊にとって朗報だった。少なくとも今足元をうろついている戦車はALを撃破する決定打を持ち合わせていない、つまり落ち着いて狙いを定めて撃破できる可能性が高まったということ。とはいえ、後方を二機のALに抑えられている危機的状況であることに変わりはない。
この二機を速やかに撃破して退路を確保しなければならない。
〈チュチュイク!右の片腕のを撃て!〉
グンロッツォが七番機のチュチュイク一等兵に指示すると、チュチュイクは二連装ライフルをザザルェイファを撃つ。ザザルェイファも銃口が自分に向けられる前に動き出しており、バズーカをグンロッツォ機に向けて撃った後、弾切れになったバズーカを背中のラックに懸架しつつ移動する。何発かの被弾を受けたが、その前に丁度ALが隠れられるくらいのビルの陰に隠れると、そのまま反対側から飛び出し、目の前にいた十五番機、クルン一等兵機に体当たりをかます。
〈があああ!!〉
猛烈なタックルをもろに食らったクルン機は、八mほどの高さのビルに叩きつけられてしまうが、一番の問題は、銃を奪われてしまったことにあった。ザザルェイファはクルン機の持っていた三連装砲身の小型ガトリングガンを、片腕が無い分しっかりと脇に挟んでホールドすると、クルン機の前方四十mにいた四番機ベルメルー兵長の機体に発射する。
ベルメルーは咄嗟に盾で庇ったが、盾からはみ出していた右腕の下腕を銃ごと破壊されてしまい、反撃手段を失う。
グンロッツォがすぐにベルメルーとクルンを守ろうと狙いを定めるが、撃てない。ザザルェイファのすぐ真横、射線上に倒れたクルン機がいたからだ。
〈クソ!十五番が被ってる!〉
舌打ちして彼はどうにか射線上にクルン機が重ならない位置を探したが、この街中では無理だった。そもそも両者の距離が近すぎてどうあがいても流れ弾が当たる。そうして撃てずにいる中、ようやくクルン一等兵は目を覚ましたのだろうか、機体が動き始めた。
〈撃て!クルン撃て!〉
動くのではなくその場で目の前の敵機を撃てという指示をグンロッツォは出すが、脳震盪を起こしていた彼は、何を言われているのかわからずとにかく機体を起こそうとしてしまった。ゆっくりと視界の右端で先ほど倒した敵機が動き始めたことに気が付いたザザルェイファは、ガトリングをビルの隙間に挟むように立てかけて、クルン機の腰に装着されていたメイスを無理矢理サイドアーマーの根元から引きちぎると、胸部におもいきり叩きつける。そのまま何度も叩きつけようとしたところで、グンロッツォは意を決して銃撃、クルンにも被弾があったが重大な損傷を受けたザザルェイファは、オイルを垂れ流しながらもガトリングを拾いつつ後退、部品をいくつか落としながら逃走する。
〈クルン生きてるか!〉
〈な、なんとか……ですが機体が動きません〉
先ほどの被弾により、システムが完全にフリーズしたらしく行動不能になったクルン機。ダンヴィルは機を捨てて脱出するように指示すると、残ったルスフェイラの撃破にとりかかる。




