表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
333/382

蘇る機動要塞(2)

 第一中隊全部隊が後退を始める。他部隊もそれに合わせゆっくりと後退を始めたが、そのためには壕から身を乗り出す必要があり、全身を晒してしまうことで被弾が増えていく。

「俺がひきつける。全員下がれ」

〈でも、隊長は……〉

「問題ない、俺がどれだけクソみてえな劣勢の中で生き残って来たと思ってんだ」

 事実、何度も死にかけ腕も失い、二度も捕虜になりながらもそのたびに生還してきた。それよりも彼にとって、多くの仲間たちを失ったことの方がもっと辛かった。

 リンドは後退せずに敢えて左右に目立つように走りながら、機銃弾をばら撒いて敵の注意を惹き、付ける。とはいえ既に腕部機関砲はばら撒けるほどの残弾数はなく、数発敵陣に向かって撃つのが限界であったため、ばら撒くという表現は些か誇張と言えるかもしれない。

 ちょっとこぼす程度の弾を撃って大きく走り回ってみると、当然敵の狙いは彼に引き寄せられる。気を付けなければいけないのは、今彼が乗っているのはいつもの分厚い装甲を着込んだ重装型ではなく、装甲の薄いロテールであるため、いつもの感覚で被弾しているとあっという間に蜂の巣になって死ぬということだ。

 敵の指揮官機らしき機体を発見したのは、リンド機に向かって僚機に指で指示したためだ。その際、他の機体がその機体の方に意識を向けているのを彼は見逃さない。あれは部下が隊長格に対して行ってしまう普遍的な癖だ。

 しめた、唇を舐めたリンドは、あえて足を止めて機体を安定させると、腰を落として速射砲を連射、指揮官機は被弾し仰向けに倒れた。だが、手応えはない。恐らく損傷を与えた程度だろう。

 再び動き出した直後、速射砲に被弾し砲は中程からへし折られ地面に突き刺さったのを見て舌打ちすると、彼は機関砲を撃ちながら後退していく。既に第一分隊の残存兵や他の足元の兵達も後退しつつある。まだ完全ではないが、これ以上は彼も生き残れる確率が低くなるためやむを得ず切り捨てるほかない。あっという間に後方カメラに映っていた、足を引きずりながら歩く友軍兵士の姿は消えた。

 


 一晩が経過した。

 第八〇八独立機動旅団、それがこのオースノーツ軍所属の部隊の名前である。旅団と言っても戦いに次ぐ戦いで多くの兵士を失い、主戦力たるAL部隊も八割が喪失していた。そこに、待ちに待った補充のAL二十二機とパイロット二十五名がやって来たのだが、彼らを見た時兵士たちの目は更に淀んだ。

 皆、あどけなさの残る十五、六そこいらの少年少女たちで、彼らの中隊長だけでなく先輩兵士たちの殆どが彼らを見て言葉を失った。そんな彼らの初陣は、シェーゲンツァートの北部内陸寄りのシェーゲンツァート軍がBDラインとして抵抗している激戦区。

「中隊長より各機へ。これよりBDラインを超えCAラインへと突入する。敵の戦力はおよそAL十機前後約二個小隊、AW一個小隊、戦車二個小隊、歩兵等だ。互いに連携し、何かおかしなものが見えたらすぐに報告しろ見間違いでも構わねえ。戦果を焦るなよ、自ずとそういうのはついてくるもんだ」

 功を焦って死ぬ兵士は多い、ついつい敵の撤退に見せかけた作戦に引っかかって袋叩き似合うこともある。たかだか勲章なんぞ鉄クズの為に一個しかない貴重な命を捧げる方がバカバカしい、そういうスタンスでやって来たため、常に最前線で戦って来てここまでこのダンヴィル大尉は生き残って来た。昇進だって、必死に生き残ってきたら勝手に引っ付いて来ただけ。臨んだわけじゃない。

 彼の指揮する第二〇一AL中隊はALだけ数えると二十二機(元々は四十五機)だが内十八機はガキで構成されている。ちなみに足りない七人と四機は予備だ。それをよりにもよってこの地獄の戦線にいきなり放り込むなど、司令部は焦りすぎていると彼は感じており、彼らの内半数も初陣を生き残ることが出来ないだろうと予想していた。せめて隣の戦線であればまだ大丈夫だったろうに。ダンヴィルは昨日だけでも八機のALと四人の部下を失っている。

〈あれ、これだっけ……ん?あれ画面が戻らない……〉

〈俺はここにいるエースパイロットをぶっ殺してやるぜ〉

〈バーカお前に出来るわけねーっしょ〉

 ナーバスに陥っている彼を更に悩ませたのが、無線から聞こえてくる子供たちの会話である。警戒しろと言ったのに何故無駄話をくっちゃべっているのか。シェーゲンツァートでもそうなのだろうかと考えつつ、彼らを黙らせる。

「お前ら誰がべらべらと話していいと言った」

〈あっ!すみませぇん!〉

〈お前のせいで怒られたじゃんか〉

〈ああ?〉

〈お前ら隊長が〉

 十八番機、ウランメッツィ二等兵の乗る陸戦ALクォーツァイトDb3型に数発の被弾、コックピット付近に幾つもの破孔が生じ、機体は小爆発を起こしながら仰向けに倒れ沈黙した。

〈うわああーっ!!敵!敵!〉

〈ミャムが!大変だミャ〉

 二十二番機ゴノイ一等兵の機体に今度は戦車による砲撃と思しき砲弾が直撃し、腹部に命中して爆発、機体は上下に分断され転がった。瞬く間に立て続けに二人の仲間がやられたことでパニックに陥った少年兵達は、防御姿勢を取ったり動いて敵に照準を合わさせないといった基本的な戦術も忘れてしまっていた。これではただのボーナスステージだ。

「身を隠せ!訓練通りにやれ止まるな!」

 自らも機動しつつ部下にそう命じるが、初陣で敵の姿も見ないままに仲間が二人もやられたのでは、子供が冷静さを保てるはずもない。また一機、やられた。今度はロケット弾による直撃で両足が吹き飛んでうつぶせに地面に墜落して動かなくなる。

「うおっ!!」

 混乱をきたした部隊の中で、僅かに冷静さを保っている機があれば目立つ。二番機でシェーゲンツァート侵攻作戦前よりも前から彼の副官を務めていたジーツジーツ軍曹の機体が彼のすぐ近くで爆発、機体は大破したが軍曹は生きており、脱出を始めている。

〈あっ!敵だ敵!いたぞ!〉

 一人、新兵でも冷静さを保った者もいた。八番機のトルプル二等兵はしっかり自機をシェーゲンツァートの築いた塹壕に身を隠しつつ、離れた箇所に小さめの防御壁に身を隠した敵機を見つけた。数はおよそ四、距離にして大体千百mほど。

 これらの防御壁は今までの巨大なものと異なり、高さは約八m、幅は十から二十mとALが膝立ちすればどうにか姿を隠すことができる程度の大きさ。厚みも減っているので大型のものと比べると防御力は落ちるが、このように沢山建設できる。

 そこに大きな頭を持った見慣れぬALや、最近出て来たばかりのザザルェイファなどが見えたが、昨日ダンヴィル機に損傷を与えた上半身が自走砲のような奇妙なALは見当たらない。後方に後退してしまったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ