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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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蘇る機動要塞

 味方戦車が一両撃破されたのがモニタに映った。車長と砲手が逃げ出すのを確認したが、被弾個所の近くにある操縦手ハッチが開く様子はない。被弾個所からは小さな火の手が上がっており、早く脱出しなければ戦車全体が燃えてしまうだろう。もしかすると既に内部には火が回っているということも考えうる。

 リンドはちらちらとそちらを気にしつつも敵への迎撃を続けていると、ようやくハッチが開いたのを見て安堵する。中からぎこちない動きで操縦手が這い出てきたので、どうやら被弾によって負傷したらしい。三十秒もかけて車上に出た時には既に炎はすぐ真後ろまで迫っており、黒煙に咽ながらも彼もしくは彼女は逃れようと戦車壕の上によじ登ってそのままはいつくばって離れようとしていたが、三mばかり進んだところで動かなくなってしまった。

 先に避難していた車長と砲手が身を屈めて駆け寄り、引き摺って塹壕へと戻っていくのを見届けたが二人の様子からどうやら既に息絶えていたらしい。ばつの悪い表情で彼は照準を睨み、次に速射砲の熱を見て突撃銃を撃つ。

「次から次へとまあ……やってらんねえぞ」

 ついそうぼやいてしまうのも無理もない。倒しても倒しても新しい奴がやってきては餌食になって倒れて燃えていく。正直言ってあまりにも資源と兵士の無駄だろうとしか思えないが、戦争というものは大概そうだ。勝てば得られるものは大きいが、失うものものは勝っても負けてもとても大きい。

「ほーら、な」

 人差し指一つで今また一つか三つかそこらの命が失われた。爆発と共に、重たいはずの戦車の砲塔がまるで枯れ葉のように軽々と舞い上げられ、主砲から地面に突き刺さった様はまるで墓標のようで、イヤなものだった。縁起でもない。

 こんな物量で押し潰す単純な戦い方だが、それによって皆死んでいった。リットールもビテールンも第四小隊も……。おまけにオースノーツ軍は質より量というわけではなく質も高い。シェーゲンツァート軍とオースノーツ軍だけで比べるならば、兵器や戦術等殆どの面においてオースノーツ軍の方が優れているのはALを見るだけでもわかる。

 基本的に殆どの国のALは実用重視でデザイン面というのは全然考慮されていない。そのため非常に有用で性能も高いが見てくれが中々に悪く、一般人からの人気が全くないようなALというのもある。シェーゲンツァートにも。

 しかしオースノーツはそこにデザイン性を持たせる余裕があるので、性能はいいし見た目もいいしということがよくある。

 レーアルツァスも悪くはないしミリオタとか硬派を気取っているオタクにはウケはいいらしいのだが、リンドとしてはもう少しスタイリッシュさが欲しかった。せめて頭部は固定式でなく首はあってほしかった。

 見た目はそこまで戦争の勝敗を決めることは無いので、こうして何とも奇妙な見た目をしたロテールに乗って戦っているわけだが、被弾によってずいぶん上半身の正面傾斜装甲も歪んできた。歪みによって側面にあるメンテナンスハッチは二枚は閉じなくなって無理矢理針金で止めているし、三枚はダメージによってヒンジから吹っ飛んでいる。

(距離は……二百は詰められたみたいだな……そろそろ後退か?)

 今朝の侵攻開始から既に敵の前線は二百m防衛線に近づいており、彼我の距離はおよそ残り千六百、一気に詰められたら逃げることはできないくらいの距離になっており、危険性が高い。そうなる前に後退したいが、逃げられるだろうか。

 再度主砲の冷却度合いを確認すると、冷却装置は優秀なのか発射可能な温度にまで下がっており、リンドは唇を舐めて湿らせると、待ってましたとばかりに主砲の照準を敵戦車に合わせて撃った。一発目からの命中は無いが、二発目は命中したもののリアクティブアーマーによって弾かれる。舌打ちをしてもう一発撃つとやはり別の箇所のリアクティブアーマーによって弾かれる。

「しぶてえな死ね」

 ストレートな悪態をついてもう一発撃つと、今度はターレットリングに砲弾が滑り込んだらしく弾薬庫に誘爆して先ほどの戦車と同じ道をたどる。内部を駆け巡ったであろう灼熱の爆炎によって、乗員は当然全滅。

 さて、主砲は残り十八発。一両二発以内で収めたいところだったが今のように仕留めるまでに四発も必要だった場合もあるので、うまくいかない。そもそも撃ったら必ず当たるわけじゃない。

「ん?うおっ」

 急に敵がリンド機に向かって一斉に攻撃し始めるようになった。今までは全体的に押しなべて攻撃しているようだったが、今は明確に彼へと砲火を集中させているようだった。敵部隊はどうやら彼が隊長機であることに気が付いたらしい。以前だったら重装型で目立っていたため、優先して排除すべき脅威として見られていることも相まって集中的に攻撃を受けていたが、この簡易生産機になると流石に指揮官が隊員たちよりもあからさまにしょぼい機体に乗っているなどとは思いもよらなかったのだろう。そのお陰で以前のような集中砲火を浴びずにすんでいたが、これからは違うらしい。こうなるともうロテールでは耐えられない。

「こちらオーセス中尉より整備部へ!俺の重レーアの修理はまだか!もうやばい!!」

 応答が無いためもう一度問いかける。すると二回目が言い終わる辺りでようやく応答があった。

〈こちら第二〇五整備大隊〉

「オーセス中尉だ!俺の重レーアは修理は!まだか!」

 悲鳴にも似た彼の叫びが被弾による激しい金属音や爆発音とともに出た相手に聞こえたので、十分彼の逼迫した状況は伝わったはずだ。すぐに待つようにとの返答があったので、反撃をこなしながら返事を待ち続ける。

〈待たせた、修理は終わって補給をしている〉

「終わったのか!」

〈修理は。機体は万全じゃないが歩行に問題はない。ガトリングシステムは奇跡的に在庫があったから直せた。ロケット弾は殆ど在庫が無いから一基しか積んでないぞ〉

 ガトリングシステムは二基ともあるようだがロケットポッドが一基しか搭載されていない重装型は果たして重装型と言えるのだろうか。ガトリングと重装甲だけでもなるほど確かに重装とはいえるかもしれないが、物足りない。とはいえないものねだりをしてもしょうがないと自分に言い聞かせて、冷静になるように努める。

「クソ……仕方ねえか……で、どう受け取ればいい!」

〈こっちに来てもらうしかない〉

「またもやクソだな……どうせこっちもあまり持たんからそう遠くないうちに引き取りに行く!ロテールは原状復帰は無理だぞ」

〈いらんよそんなポンコツ。どうせ乗れる奴もいない〉

「そうか」

 最後に名前も知らない整備士は寂しい言葉を告げて無線を切った。

「オーセス中尉より全機へ、少しずつ前線を下げる。後退可能な者は相互支援をしつつゆっくりと下がるんだ。一気に下げるなよ」

〈了解〉

〈了解しました〉

〈わかりました〉

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