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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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スクラップ・フィールド(2)

 五個小隊二十機にも及ぶALと十八両にもなる戦車、二十五機のAWに六十機のAA。一個師団一万五千人分の歩兵に加え他兵科の戦力が、第四小隊他が守るBD3ラインに押し寄せていた。多勢に無勢、彼我の戦力差は何倍になろうかと数えるのを放棄してしまいたくなるほどの膨大な戦力を目にした彼らは、ただ絶望するしかない。

 ノーラ准尉は司令部に増援を求める。

「こちら第四小隊ノーラ准尉!敵が押し寄せている!データを送る!増援を!!」

 だが、返って来たのは無情なる一言だった。

〈こちら司令部。増援は送れない〉

「何故!クソ!ノーラ准尉よりオーセス中隊長へ!」

〈こちらオーセス中尉、どうした!〉

「敵が」

 ここでノーラ准尉の機体頭部に被弾、通信装置が破壊され部下とも連絡が取れなくなってしまう。

「もしもし!もしもし!無線が……」

 完全に無線装置がお釈迦になっていることを知ると、彼は部下に発光信号で無線が壊れたことと、反撃を行いつつ徐々に後退することを伝える。

 まずフーフラーファ一等兵の機体が一番損傷が激しいため、先に後退させる。その間、部下には彼の援護を行うように伝えつつ、自身は敵の一番火力の高そうなALを狙って肩のロケットポッドを二発撃った。更にロケット着弾の直前に突撃銃を撃ち、ロケット弾が着弾した敵のロケットポッドを満載したALに命中、大爆発を起こす。誘爆はすぐ近くを走行していた装甲車や歩兵を巻き込み、更に百mほど離れていたALを一機転倒させた。転倒したALは運悪く地雷の上に倒れこんだようで、これまた爆発を起こして左上半身が破壊され動かなくなる。

 炎上する味方機を助け起こそうとした僚機は隊列を崩してまで助け起こそうとするが、その際盾が邪魔で脇に置いてしまった、それがいけなかった。がら空きになった左側を、戦車が狙撃したのだ。

 120㎜砲の放つAPFSDSによって薄い脇腹の装甲は貫通され、内部で爆発を起こしてコックピットハッチと装甲のいくつかが吹き飛んだ。ああなればもうパイロットが生きている可能性は低い。外部装甲が破壊されただけであれば、内部装甲とフレームによって守られ生存できるように作られており、装甲を敢えて一緒に吹き飛ばすことで爆風を外へと逃がす工夫がなされているのが普通だが、少なくともハッチが吹き飛ぶと同時にコックピットの中から凄まじい勢いで炎が噴き出せば、その安全設計も形無しだろう。

 第四小隊も頑張っていたが、如何せん多勢に無勢。後退を始めているものの、一番最初に下がり始めたフーフラーファ機が両足に大型キャノンを食らい、両膝を貫通され落下した。こうなってはどんなALだって歩けはしない、パイロットは地面にたたきつけられた衝撃で気を失っており、脱出する気配は見られない。

「フーフラーファ一等兵!無事か応答しろ!……なんてこった……ペポリ上等兵!」

〈ハイ〉

「一等兵の救出を」

〈了解しました〉

 ペポリ上等兵の乗るノバノはここのところ調子が非常に悪く、外国製のため補修部品がもうないので治すこともできない。当然部品の規格が違うため精密部品に関しては流用もできない。

 右モニタにノイズの走っている状態でペポリ上等兵はフーフラーファ機の元までたどり着くと、左のウインチを発射した。しかし、ボタンを押しても出ない。仕方がないので右を使うと無事発射、マグネットアンカーがフーフラーファ機の胸部に力強く吸着したのを確認すると、引っ張り始める。

 右が見えづらい。右側で牽引しているのでどうしても機体の右側が敵の正面側を向いてしまう。ノイズのお陰で砲弾がよく見えない、だから彼は左のウインチを使って牽引したかったのだ。

 単騎なら軽量軽快な動きを出来るノバノでも、元のサイズは自身より大きい機体を牽引していてはその機動力もまるで意味がない。寧ろ装甲の薄さが仇となり、被弾するたびに装甲が、フレームが割れ機体にはエラーが山のように表示されていく。

〈隊長!これ以上はっ……〉

 そこでペポリの通信が途絶えた。やられてはいない、通信装置が破壊されたことによるもの。しかし、もうすでに右腕はだらんと垂れ下がって胴体との接続部からは黒いオイルを垂れ流し、左腕は二の腕あたりからもがれている。

「まずいっ!」

 ノーラ准尉はこのままでは二機ともやられてしまうと考え、ペポリに切り離すように光で伝えたが、彼にそれを読み取る余裕はなく、そして命運もここで途絶えた。

 戦車の砲弾が右から胸部に直撃、体勢を崩したところで更にALの撃った銃弾が次々と命中しその場に倒れ、動かなくなってしまった。

「ああっ!」

 すぐにノーラは自身の判断ミスに血の気が引いていくのを感じる。ああ、なんという過ちを犯したのか。炎上するペポリ機の傍で動かないフーフラーファ機にも、狙ってかそれともペポリ機への確実なトドメとして撃たれたものの流れ弾か、敵の攻撃が命中していく。

 せめて残ったルーラインラー二等兵だけでも逃がさなければならない、涙で滲み始めた目を擦り、ルーラインラーに光信号を送る。内容は、

 援護する、後退し第三小隊と合流せよ。

だ。

 何故第三小隊かというと、単純に第三小隊の守る戦線が一番第四小隊から近いというだけのこと。ルーラインラー二等兵は、自分に向かって飛んでくる無数の光る弾に怯えていたが、辛うじてその光通信に気づいたので、盾を構えてゆっくりと後退を始める。塹壕の後方はスロープになっているので、スラスターで飛び上がって隙を作らずとも後退できる。

 宣言通り、ノーラは部下の脱出のために全弾撃ち尽くすつもりで次から次へと出し惜しみせず弾を使い始め、肩のロケットを撃ち尽くすと今度は脚部ロケットを撃つために塹壕から出て機体を敵前に晒す危険を冒す。左足から発射された三発のロケット弾は、敵の厚い装甲を持つノウザーデスというALを撃破すると、今度は右足の残った一発をクォーツァイトの右足に叩き込み、クォーツァイトは右膝から木っ端微塵に吹き飛んで転倒する。それでもまだ戦闘を続行しようとしたところに、トーチカ砲が三発撃ってコックピット付近を破壊しトドメを刺した。

 ルーラインラーは塹壕から出たのを確認せずに上半身を敵に向けたまま下半身だけ反転させ、急いで後方へと走る。被弾するたびにコックピットで火花が散り部品が壊れる。

「弾が……クソッ!」

 援護していたノーラは、ほとんどの弾薬が尽きたことに悪態をつくと、あたりを見回しペポリ機の破壊された腕とそれに握られたサブマシンガンに気づき、そちらへ機体を走らせる。距離にして三百、ALとしては目と鼻の先の距離だが、この猛烈な火線の下では千里より遠く感じられたものの、どうにか腕の元までたどり着くと、サブマシンガンを拾い上げ肘から先しかない腕を外し、銃口を敵に向けた。

 それと同時に、ノーラ機の胸部に戦車の砲弾が直撃、更に一発、そしてALの撃った速射砲が次々と命中し、ノーラ機は機体正面に幾つもの破孔を穿たれ倒れる。

〈隊長!たいちょああっ!〉

 自分の見ている前でノーラ准尉の機体が撃破されたことに動揺したルーラインラーは、砲撃によるクレーターが出来ていることに気づかずに機体は転倒、起き上がろうとしたところに陣地左翼側から接近していた二機のクォーツァイトから射撃を浴びて機体は機能を停止してしまった。

 ほどなくしてBD3ラインの同盟軍は壊滅、ルーラインラー二等兵の脱出は確認されていない……

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