焦点、合わせて
無駄な対面会議を終えたリンドはやはりイラついていた。オンラインで済むものをわざわざ出向いてやったというのに、思った通り画面上でも事足りる内容を無駄に長々とくっちゃべってはリンドの指揮能力や、隊の能力を疑いなじるようなことを言ってくる。ガトリングを撃ち込みたい衝動を抑えながら黙って聞いていたが、怒り心頭、鬼の形相でロテールのコックピットに飛び込む。
そもそも彼は士官学校に進んでいない、戦時特例で部隊を率いるために無理矢理士官に引き上げられただけで、通常ならばそれでも任務の合間合間に後出しにはなるが、士官としての勉強を叩きこまれるはずだった。しかし、戦況の混乱と逼迫のせいでそれすらも有耶無耶となり、お古の教科書をもらい受けて空いた時間に自主学習をちょっとだけ出来るにとどまっていた。
指揮官は色々と大変で、非戦闘時でもやる仕事が多く、それをフーフラーファ曹長が手伝ってくれているお陰でどうにかなっていた。今も彼は部隊の半分を受け持ってくれている。
また感謝すべきは各部隊長である。一応全貌の把握くらいはリンドも務めているが、全員への指示はやはり彼のレベルでは不可能に近い。ろくな教育を受けていない、勉強が得意というわけでもない彼には九人の部下を受け持つことすら、過酷であったというのに。オッタータ少尉は死んでしまったが。
機器をチェックしていくうちに怒りのボルテージも下がって来たので、落ち着いて現状を整理し始める。
まず第一小隊は生存者がリンド、フーフラーファ曹長、ルルペラ二等兵、ケレッテ一等兵、モトルリル一等兵、ピュループ上等兵、ムルタ伍長にルー兵長と十人中八人が生き残っているのは、この熾烈な本土決戦においては奇跡というに他ならない。ただ、ムルタ伍長はPTSDに陥っており、戦闘からやむを得ず外されている。
第二小隊は生存者が隊長のマターリ少尉、副隊長のノイントイン軍曹、ベルーケウ上等兵、ポパ一等兵、ケプルーム一等兵、ノウヴォッサウントス二等兵、タウケン伍長の七名。ただし、タウケンが負傷して後退、ノウヴォッサウントスはムルタ同様に精神をやられてしまっておかしくなってしまった。
第三小隊はモリノ軍曹、ジェローリラ兵長、キョーットル二等兵、ライメル二等兵にレレリ一等兵の五名、壊滅的な打撃を受けている。また、ライメル二等兵とレレリ一等兵は負傷し後退したものの、レレリ一等兵は右足と右目などを失う重傷のため戻ることはない。彼が生き延びることを願った優秀なリーンレーン兵長は死んだ。
第四小隊は、ノーラ准尉、ペポリ上等兵にフーフラーファ一等兵、ルーラインラー二等兵、僅かにこの四名しか残っていない。引っ張り出された試作機も、フーフラーファ一等兵のルスフェイラB3型だけで、逞しい腕の内右腕は失われた。XAA-992という武器腕のALは両腕を破壊されたため放棄され、パイロットのウンルヴィル技術士官は生還したものの、その後の後退中に乗車していたAPCが砲撃の直撃を受け戦死してしまった。
AW隊のノモメス隊は二番機を残して当初の機甲戦力は全て失い、ここで調達したナイウォールトという左右非対称のオープントップ式AW一機を加え、兵士は整備士を除くと僅かに八名という惨状で、隊長のバーロラ中尉も戦死してしまった。
機動戦闘車のリンリ隊も一号車と回収した旧式のバルンデル戦闘車、敵のものを鹵獲したズルダルという車両のみで、元の兵員は残り十五名、拾って組み込んだ他部隊の車両乗りが四名で、後は装甲車が一両と車両が二両のみ。
戦力は戦闘開始時から半減しており、補充もなく装備も失い続けていることを考えると、以前のような戦線の維持は不可能だった。それでも敵が待ってくれるわけでもなく、上層部が兵員の補充をしてくれるわけもなく、弾薬も食料も足りないまま彼らはいつ尽きるかもわからない銃を敵に向け続けなければならなかった……
「そろそろ来るんじゃないでしょうか」
リンドはフーフラーファ曹長にそう尋ねると、
〈ええ、五日もほとんど何もなかったですからね。そろそろ敵も交代の部隊を差し向けて来る頃でしょう。そら来た〉
来た、とはいつもの定時爆撃のことだ。地上部隊は五日前以来威力偵察くらいで本格的な戦力をぶつけてくることはなく、代わりに砲撃やらこのような爆撃で嫌がらせを昼夜問わず続けてきた。それは以前よりあったことであるため慣れっこだが、それでも毎回人が死んでいるのだから、軽くは扱えない。
連合軍は恐らくかなり万全の状態を期してくるだろうが、同盟軍側は本当にどうにかこうにか戦える戦力をかき集め、悪あがきをするに近い状態にもっていくのがやっとで、数週間前にはまだ希望が心の大半を占めていたリンドも、流石に絶望的な状況と認めざるを得ない状態になってしまっていた。
しかし兵士はどれほど追い詰められようとも、すぐ真後ろに守るべき者達がいる状況では戦い続けるほかない。銃を捨ててしまっては兵士に何の存在意義があろうか。災害なら災害救助隊でも設立した方がいい。
「眠っておいてくださいよ曹長」
「了解しました。ご武運を」
「ええ」
リンドはフーフラーファと別れると、自機の元へと戻る。まだ彼が使っているのはロテールで、レーアルツァスは直らない。部品がようやく残骸から回収できたようで、目下故障個所を交換整備中らしい。整備士達がきっちり仕上げてくれるまではリンド達戦闘部隊が戦って時間を稼がなければならない。
現在第一小隊の内、半数が休んでいる。起きているのはリンド、ルルペラ、モトルリル、ルーの四名で、AC1ラインの第八防御陣地から第十一防御陣地に展開しており、一陣地に一機ずつ鎮座して足元の小さき仲間たちを守る。ここで展開しているのはリンリ隊と第一〇一歩兵連隊、第六一二歩兵連隊、モウヴィス遊撃隊(AA中隊)他いくつもの壊滅した部隊からの寄せ集めで、中には海軍陸戦隊所属や陸軍戦車師団の生き残りまでいるという。
連携もへったくれもないがここまで生き残った仲、互いがボロボロの手を取り合って助け合っていた。リンドも、戦闘再開の予兆が見えるまではALの巨躯を生かして、塹壕掘りや物資移動を手伝う。
ただロテールは片腕がマニピュレータじゃない分こういった作業時におけるALの汎用性が無いため、いつもより作業に苦戦する。簡易生産機ということでウインチすらないため大量の物資や重車両の牽引も出来ない。
こういう時工兵隊の工兵用ALがいてくれれば大助かりなのだが、もはや何機のアイルララが残っているのやら。工兵用のALは今まで何度か彼も見かけたことがあったが、あからさまに作業用といった趣で、戦闘向きの装備は自衛用の対空火器くらいだった。
大型グラップルアームに大型クレーンアーム、いくつものウインチやフック、サブアームにフロントの股間部には伸縮折り畳み式の塹壕掘り用のドーザーアームまでついていた記憶がある。とはいっても、それぞれ現場でカスタムされたり使用される場所でも仕様が異なっているので、一機として同じ機体は無いとかなんとか。
などとぼーっと考え事に耽ってしまっているときに限って、敵はやってくるものだ。前方の空に無数の光る星が輝き、その星々は墜ちて来た。




