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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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その身削ぎ落として(4)

「ガンシップだって対処……クソがよ本家本元見せてやろうじゃねえの」

〈何か言いましたか!〉

「言ってない!」

 独り言がつい無線で部下に通じてしまっていたことに気恥ずかしさを覚えたリンドは、その恥ずかしさを敵の重装型クォーツァイトにぶつける。ガンシップは対空型に対処させたことで一旦現空域から離脱したおかげで、撃墜こそできなかったもののその脅威はひとまず払うことはできた。とはいえすぐに戻ってくる恐れが高いため、対空型にはガンシップ対応に集中させることにする。

 ガトリングシステムを起動しロケットポッドの蓋を開けると先手必勝、敵重装型に一斉射をかました。いつもなら横に薙ぐなどして重装型の基本的運用方法である面制圧攻撃を仕掛けるのだが、今回は一機の敵ALを目標としているためぴったり上半身は動かさず、百発百中のつもりでトリガーを引いた。

 ガトリングの銃身が回転し始め二秒後には無数の小型徹甲榴弾を吐き出し、ロケット弾は白煙を引きながら飛んでいく。距離にして九百mという遠く思われる距離ではあるが、ALサイズになると程よい距離となる。銃弾の空気抵抗や重力による減衰も巨大ロボットのサイズのお陰で人間のものと比べると、まったくの障害にもなりやしない。

 マズルフラッシュによる自身への目つぶしを防ぐために、ガトリング発射時は頭部及びガトリング付近のカメラに薄いフィルターが降り、カメラへの悪影響を軽減させる。これによりセンサー類に異常を起こすことを予防すると同時に、発射中でもパイロットはモニターで周囲の状況を視認できるようになっている。

 風は西の風2m/sであったため殆ど風の影響を受けずにリンドの狙った通りに銃弾は吸い込まれていった。だが、彼の計算違いだったのは敵も同時に一斉射撃を行っていたことだ。

 ガトリングのマズルフラッシュが起きる直前、モニターには敵機が腰を落としてすべての銃口を彼に向けたのを目撃していた。おまけにロケットポッドも展開しているものだから、完全に敵機も一斉射を行うところと断言できる。本来ならば射撃は中止し回避行動に移る必要があったがもう遅い。ガトリングの回転が始まってからでは動くことはできるわけもなく、二つの射線は交差した。

 銃弾同士が当たることはそうあるわけではない、しかしこれほどの濃密な弾幕ともなればその確率はグンと上がってくる。おまけにロケット弾も飛んでるとなれば、被弾した弾頭が爆発することもある。

 空中で炸裂したロケット弾数発の爆発が周囲に爆風を浴びせる。リンドの撃った一斉射撃は敵機の上半身を中心にうまく命中したが、敵の撃った方は銃弾がばらけて被弾こそあったものの、リンド機に致命的なダメージを与えることもままならなかった。とはいえ、それでも少なからずダメージを与えることには成功しており、右のガトリングが被弾し使用不能、右肩のセンサーを破壊されるなどまた装甲に多少の被弾と損傷を受けたが、戦闘続行可能なレベルであった。しかし、整備点検は必要だろう。そのような余裕があれば、の話だが。

 右わき腹の装甲が音を立てて脚部に当たった後地面に落ちる。それをよろめきながら踏みつぶす。

「バランサーがちょっとイカレたかぁ?……いや、いける……それより敵機!各機あの重装型に撃ち込め!」

 リンドの指示に、ルー兵長が疑問を呈する。

〈えっでも敵は一斉射を食らいましたよ?〉

「あんなんで重装型がやれるか!俺を見ろ!」

 至極もっともな理由で怒鳴られたルー兵長は、ヒッと小さく怯え泣きそうになるのをこらえつつ煙に巻かれている敵重装型を拡大すると、煙の中からまだ動いている敵機がゆらりと現れた。リンド機同様装甲や武装などにダメージを負っているものの、まだ戦闘継続可能といった様子でガトリングを回転させ始めた。

 だが、一発撃つ前に右のガトリングの砲身が一本銃身の途中から破裂してしまった。どうやら被弾により歪んでいるのに無理やり撃ったためらしい。

「撃て撃て!早く!」

 改めて、第一小隊各機は重装型を中心に銃撃を始める。ガトリング砲の損傷により戸惑った敵機は碌に反撃もできぬまま、次々と砲弾を浴び続けるがそこは腐っても重装型、中々倒れない。リンドも突撃銃で攻撃を続行するが、オースノーツ製の追加装甲はかなり優秀らしく被弾はすれども貫通できないでいる。

(敵もこんな気分だったのか)

 ここにきて漸く重装型に乗る彼を相手取ってきた敵兵達の気持ちを理解し、僅かばかりの同情を抱く。とはいえこれは戦争、敵に同情心を抱けば死ぬのは同情した側。無情だろうと敵は殺さなければならないし、死んではならない。

 まだ動き続けていた敵重装型であったが、多数の被弾によって関節が破壊され動けなくなったところでモトルリル一等兵の放ったバズーカランチャーの弾が腹部に直撃、丁度増加装甲が剥がれ落ちた箇所への被弾であったため、内部から爆発を起こし胴体の増加装甲のほとんどが爆風によってパージされあっという間に全身から爆炎を噴き出して倒れた。その直後誘爆を起こして周囲の味方を巻き込んで大爆発を起こす。

「うおっ!!」

 弾薬庫の爆発というのは、通常の爆発とは比べ物にならないほど強力でまるで花火が一斉に添加したかのような派手な音と、コックピット内の空気までビリビリと痺れさせるほどの衝撃波を発生させた。地上の歩兵たちも塹壕の中でひっくり返ったりしており、AW隊は転倒し負傷者も出てしまうほど。

 すぐに担架がやってきて負傷したノモメス隊の隊員数名を運び出し、転倒によって損傷を受けたAWは他のAWによって牽引されて後退していった。

 予想外の損害を受けた第十二特別陸戦隊であったが、爆心地にいた敵のほうが当然もっと酷いことになっていた。随伴する三機のクォーツァイトのうち一機は既に擱座していたが、残る二機ともが戦闘継続が不可能なまでに損傷を受けているように見える。一機は両腕は残っているものの下腕が途中から失われており、頭部のメインカメラも完全に破壊されている。もう一機は勢いよく仰向けに地面にたたきつけられたらしく、動かない。もしかするとパイロットが衝撃で首の骨でも折れたということも考えうる。どんなに機体が頑丈だとしても、中の人間の頑丈さまでは変わらないため、外は無事でも中は駄目ということが時折起きる。

 それ以外にも車両がひっくり返ったり相当数の歩兵等が被害を受けたようだが、向こうにとっては悲劇でも同盟軍にとっては好都合。

「各員無事か。無事な者は追撃しろ」

 リンドはそう指示すると、自身も機体の状態を確かめつつ突撃銃を撃った。が、一発撃った瞬間に先ほどの重装型と同じように銃身が炸裂して花開いたため、悪態をついてマガジンを回収し銃はアームでラックに戻す。銃身がダメでも銃自体はモジュール化されているため、銃身だけ交換すればまた使える。だが、これは使えない銃を持っていてもデッドウェイトになるためあまり使われない。こうする理由は単に銃ですらも不足している状況だったからだ。

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