月海原の神話(3)
「参謀!」
司令は参謀を呼びつけるとすぐさま作戦会議に入る。
「この付近に浅瀬はないか」
司令の問いかけに参謀は首を横に振る。
「この海は広く平たく深度が一定です。ある程度の浅瀬となりますとやはり大陸に近づくほかはないでしょう。何せ全くと言っていいほど島がありませんので」
「そうか……ならば………クスリーム(駆逐艦)とペロールル(〃)の高速魚雷をどうにかして命中させればおそらく撃破は可能だろうな」
この二隻の駆逐艦に搭載してある高速魚雷は、その名の通り通常の魚雷と比べると速く、その上最新のソナーを搭載している。それを利用し、魚雷は敵にある程度接近すると自動でその方向へと進路を修正する。以前この星では無線誘導兵器は有効ではないと述べたが、これも確かにその影響を受けるもののあくまで半誘導であるため気休め程度でしかない。しかし、無誘導である通常魚雷よりは断然マシなのである。
「そのためにはパリオーサのヨッターに誘導をしてもらう必要がありますな」
「ヘリのソナーブイで……」
さらに他高官を交え早急に対策が練られていく。その間にも更に二隻の船が沈み数千の将兵が貴重な物資と共に水底へと消えた。同盟軍の兵士は今や恐怖だけでなく復讐の怒りに燃えている。怪物を討伐するなら今だ。
空母からブイを積んだヘリが順次発艦し、船団の周囲にブイをばらまいていく。巨大ALはその間姿を現さず、恐らく船団の動きを警戒してのことだろうというのが大方の見方であった。その実、敵は船団から後方五百m深度112mの地点でゆっくりと追尾をしていたのだ。コンピュータ制御でうまく静穏性を保ちながら注排水を繰り返し深度を維持しつつ、海流に乗っているのである。このALの乗り手は非常に手練れであった。
「まだ見つからないのか……」
リンドはコックピットの中で体を椅子に預けて苛立ちを見せていた。奴が最後に輸送船を沈めてからまだほんの二十分しか経過していないのだが、同盟軍にはそれが一時間にも二時間にも感じられた。
改めて周囲の状況を見渡してみる。ヘリがせわしなく飛び回り、カッターが要救助者の救助のために海面を走り、船団は混乱と救助のため一時停止、サーチライトが海面を照らし先ほど被雷した巡洋艦フリューダイスはようやく火も鎮火し傾斜を復元し始めている。乗船している陸軍の兵士の一部は身を乗り出して海中を食い入るように見つめているが、肉眼では水深五センチすら先は見えないだろう。アルグヴァルの目をもってしても見えないというのに。皆がこうして動き回っているが、自分をはじめ陸戦用のALはほぼ動いてはいない。時折他の船でもどこかの隊のパイロットが乗り込んだかと思うとすぐに出て走り去っていく。いったい彼らは何をしているのだろうか。
金属音が響き、それが機体を外から誰かが叩いているのだと気づくのに時間はいらなかった。すぐにハッチを開くとキリルムとヴィレルラルがこちらを覗き込んでいた。リンドがどうしましたかと聞く前にキリルムの力のこもった声が飛ぶ。
「おい、下手に動くなよ。輸送船ってのはかなり柔いんだ。こないだみたいに強制開放を船の上でやったらえらいことになるからな!」
「は、ハイ」
キリルムは最後に、いいな!と釘を刺し、ヴィレルラルはリンドの目を見て頷くと二人はすぐに離れて行ってしまう。一体何をしているのか見当がつかなかったが、恐らく何かしらの彼らなりの対抗策を講じているに違いないだろうと考えていた。彼は夜風を感じたいと思いハッチはそのままモニターを眺める。
(今の装備で出来ること?)
今の重ヴァルは突撃砲二丁に各種の固定装備、グレネードくらいである。あとは背中に背負っている二門の108㎜対空速射砲くらいだ。現在の重ヴァルはいつものガトリングではなく、元は陸軍の108㎜ポラークス対空砲という大型高射砲だったものを改良したものを背負っている。最大上空一万一千八十mまで届くこの砲はいかなる航空機も一撃で粉砕撃墜する対空の鬼である。一分間に三十八発の速度で弾を撃ち、水平射も可能なすぐれものであるが、欠点はALに搭載するには搭載弾薬量がさっぱり足りないということだ。いつもなら敵が姿を現した瞬間こいつをお見舞いしてやったろうが、ここは船の上だ。排莢した薬莢が船を傷つけかねないし、発射の反動で転覆でもすれば一大事だ。今回はこの突撃銃くらいしか使えないだろう。そもそも敵がもう一度水面に顔を出すとは思えないが。
どうやって倒したものか……悩む




