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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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その身削ぎ落として(2)

「うおおーっ?!」

 素っ頓狂な声を上げ、リンドは咄嗟に左腕を持ち上げてコックピットを庇う。短めだが幅の広い赤熱化した刀身をふるった見たこともない謎の細身の黒い敵ALは、胸部にある二門の機関銃を撃ちながら距離を詰めると、剣を振り下ろしショットガンを銃身の途中で切り落とす。

「あっ!てっめええ!」

 ショットガンの銃身は切断された部分が若干潰れてしまっており、もう使えないように見えるため、リンドは銃を捨てると、機銃を撃ちながら牽制しつつ後退する。だが、機動性において上回る敵機はそれを軽々と回避すると、右のサイドスカートに装備していた同じ剣を取り赤熱化させつつ右手に持っている剣をもう一度振り下ろしてきた。

 それを左の手甲で受け止めるが、手甲どころか腕の装甲にまで食い込まれてしまいこれ以上はまずいと距離をもう一度取って右腕の機関砲を足に向かって撃つ。

〈隊長ーっ!〉

 リンドの危機と見たビテールン伍長が空になったロケットランチャーをぶん投げて敵機にぶつけると、チェーンガンを撃ちながら接近する。

「伍長左!」

〈死ね!〉

 その場に停止し腰を落として機体を安定させると、左に向かってチェーンガンを振りながら撃った。三本の銃身が回転しながら銃弾を発射し、敵の左の額とマニピュレータに命中させ左の小指を吹っ飛ばしたが、懐に入られた。リンドはそれを支援しようとしたが今度は空挺隊のウフフェヴジアが二機リンドに攻撃を仕掛けてきたため、援護ができない。

 慌ててルルペラ二等兵が突撃銃で援護しようとしたが、敵機とビテールン機が近く援護できない。

 ビテールン伍長はチェーンガンを振りかざして横なぎにしてやろうとしたが重たいために速度が遅く、左肩に剣を受けてしまった。左腕と胴体をつなぐ接続軸あたりで左腕を切断され、銃のグリップを握ったままだったために銃のバランスを崩しチェーンガンを取り落とす。

〈ちっきしょおー〉

 それでも彼は右腕で思い切り殴ろうとしたが、左腕がなくなったことでがら空きになったわき腹に、横に振られた剣が突き刺さった。

 右腕を振りかざした姿勢のままビテールン機は動きを止める。反応はレーダー上からはまだ消えていないため機体の機能は生きているようだが、その場で全く動かない。剣を引き抜き抜こうとした敵機はルルペラ機の銃撃を受けたために剣をあきらめて後退し、防御壁の向こうへと消えていった。こうなればステルス機は追えない。

「クソッ!クソッ!ビテールンがやられた!ケレッテ確認してくれ!」

〈ええっ!!わ、了解であります!〉

 ビテールン伍長がやられたという言葉に驚きを隠せず、シールドを構えながらビテールン機に歩み寄る。その間、リンドは敵の攻撃をその身に集中させつつ迎撃を行い、ケレッテ一等兵がビテールン機に接近しやすいように陽動を取る。

 彼が身を挺して隙を作っている間に、ケレッテはビテールン機の横っ腹に突き刺さったままの剣のグリップを握ると、引き抜いて放り捨てる。破孔は熱によって歪みオイル類もパイプやチューブが塞がれたのか、ほとんど出てこなかった。あるいは蒸発してしまったのかもしれない。

 銃をマウントにかけて両手をフリーにすると、ビテールン機の脇を抱えて引っ張り物陰まで運ぶと寝かせて自機をしゃがませコックピットハッチを開けて飛び降りた。

「えーっと解放コード……」

 ケレッテはコックピットハッチの右側に降りると、カバーを開いてテンキーに指を這わせる。これで正しいコードを入力すれば外部からでもハッチが開けるというわけだが、もし右側に剣を受けていればこのパネルが潰れていた恐れがあったため、不幸中の幸いといえるだろう。

 ハッチは一部が熱によって融着していたため破壊音を一つ上げで傾きながら開いたが、開くよりも前に鼻を突く悪臭にダメだと彼は察してしまう。中からはこの戦場に充満している人体が焼ける匂いと、なにかしらが焼けたことで生じた有害なガスの臭いが流出し、むせて顔を腕で覆う。

「ごほっごほっ!ビテーごほっ、伍長!ごほっ!伍長っ!」

 当然返答はない。ハッチが開き切ると中に炎がちらついているのが見え、のぞき込もうと思ったが本能がそれを制止した。見るべきではない、と。だが、死亡を確認しなければきっと隊長は納得しないだろうと気づき、腹をくくってそっとのぞき込んだ。彼が見たのは真っ黒に焼けた人型の何かで、急いで外を向くとその場で嘔吐した。

 見知った人があのような姿になったなんて到底信じられないが、リットールだって死んだのだ。しかし、やはり恐ろしいものを見てしまったと後悔してやまない。つい思い返してしまうが、目や口のようなものを見たような気がし始めて、その場に四つん這いになってまた吐いた。

「はあっ……はあっ、オヴェッ、ゲエエエーッ!はあ、はあ……」

 もう嫌だ、本音が漏れ出る。もうこのままいっそ故郷へと帰りたい逃げてしまいたい、ケレッテは泣いた。そう思うのも無理はない、いずれ自分もこうなるのではないかと思ってしまうのも当然だ。だが、開きっぱなしの自機のコックピット内から聞こえてきた無線が、彼を現実に引き戻す。

〈ザザ……後退!うわああっ!……さっ……だ!クソ……〉

 ゲロ臭い口を拭い、彼は立ち上がる。一度だけビテールン機のコックピットの方を振り返るとすぐに自機へと飛び込みハッチを閉じた。

〈ケレッテ戻りました〉

「伍長は!」

〈ダメです〉

 あまりにも非常で短く簡潔な答えに、リンドは下唇を噛む。

(わかっていたことじゃないか……)

 明らかにコックピットにまで達している刃の時点でもうわかっていた、しかし気心の知れた、数々の死線を共に潜り抜けてきた部下を失ったという事実を認めたくはなかったのだ。フーフラーファ曹長と違い向こうが上だが歳も近く、友人のような距離感で接することができ、またパイロットとしての腕も確かで信頼の置けた同胞だったために、その喪失感もひとしおだった。

 今彼の為にできることといえば、再び性懲りもなく姿を現した格闘用ALを仕留めること、ただそれだけ。

「格闘用のALなんざイカレた奴に乗りやがって!ぶっ殺してやらあぁ!!」

 リンドは防御壁に立てかけられていたボロボロの盾を拾い上げると、弧を描きながら接近してくる敵機に対し投げつけるふりをした。それに引っかかった敵は盾を弾こうと左腕を構えたが、その際わずかにモニタを腕で覆ってしまう。その視界不良の一瞬の隙を突いてロケット弾を至近距離で一発ぶっ放す。

 弾頭はその庇った腕と重なったために敵パイロットには完全に死角となって接近、距離も非常に近かったため避ける余裕も、アラートが鳴る時間すらなく左腕の肘から先が吹き飛び、更にカメラもダメージを負ってしまう。

 それでも敵は果敢に懐に飛び込もうとしてきた。胸部機銃が重装型の増加装甲を空しく叩く。格闘用プログラムを積んでいない重装型などやれる、そう確信して。

 しかしこの重装型に乗っているのはリンド・オーセス、最もうまく重装型を操るエースだった。

 突き出された剣を肩で受け流し、ロケットポッドを貫かれつつも片手で頭部をつかんでメインカメラを握りつぶしつつ力任せに反転、敵機を防御壁にたたきつけ踏みつけるようにして壁に少し埋め込む。距離を取ると即座に左のガトリングシステムを起動、超至近距離で二秒間撃った。

 この距離で撃ったのは初めてで、リンド機のモニタはマズルフラッシュによってホワイトアウトしてしまい、パイロットの目の保護の為に自動的にフィルターがかけられたほど。

 どんな機体でも、この距離でガトリングシステムの直撃を受ければ原形を保っていられるはずがない。敵機の上半身はわずかに右腕の下腕が残っているだけで下半身は腰も粉砕され、左脚だけが地面に倒れた。

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