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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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摺り潰されゆく鉄鋼(3)

 連合軍はこのY4ラインを攻めあぐねていることに痺れを切らしつつあった。幸いにも、そのすぐ横にある戦線では戦車を主力とした部隊が同盟軍防衛線を突破しつつあり、もうしばらくで側面からの攻撃を仕掛けられそうである。それに、何より頼もしいのがとあるエースパイロットを載せた空母が、増援として差し向けてくれるらしいことが判明したことだ。

 到着にはまだ時間がかかるようだが、彼らが来ればよりシェーゲンツァート侵攻作戦はスムーズに進行するだろう。



〈敵機構部隊が北側より接近!〉

〈こちら第二〇四歩兵連隊もうもたない!〉

〈誰かっ!誰かーっ!!〉

 Y4ラインが押しつぶされていく悲鳴が、否が応でも耳に突き刺さる。敵は突破したY5ラインの南端からY4ラインの北端に向けて圧力をかけつつあり、その隙に主力部隊をぎりぎりまで接近させた戦艦からの艦砲射撃による支援砲撃と共に、押し上げてくる。

〈見えません!敵が!〉

 ルー兵長は、艦砲射撃によって舞い上げられた硝煙と粉塵のために、まったくもって視界が失われた前方を目を凝らしながら叫ぶ。これでは煙幕を潜り抜けるまで敵の姿がはっきりと見えないではないか。

〈レーダーをよく見ろ!見えるもんだけ見るな!〉

 フーフラーファ曹長は、中破して擱座した味方の戦車を手で引き寄せながらそう助言する。

〈レーダー、レーダー……〉

 彼女は言葉通り今度はレーダーに視線を落とすが、彼女の機体は被弾によってレーダーの大部分が死んでいるため、ほとんど画面に敵も味方も映らない。一応データリンクがあり、味方の取得した情報を受け取れるのだが、その機能すら彼女のALは喪失している。

〈レーダーが壊れてます!〉

 そうだった、とフーフラーファは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。ここももうあまり耐えられないだろう、そう踏んだ彼はリンドに後退を提言すると、彼も賛同した。

「ええ、むしろ遅かったかも。こちら第一小隊オーセス中尉より司令部へ。AAラインへの後退を提言する」

 しかし、返ってきたのは思わぬ返事であった。

〈ダメだ〉

「何故です。基本方針は玉砕せずに遅滞戦闘を行うのが今防衛作戦における基本方針と大本営が決めたはずですが」

〈すでに我々はY4ラインにいる。これ以上の安易な後退は領土の大幅な喪失を招くからだ〉

「まだY4です!」

〈ダメだ。死守せよ〉

「クソ!」

 まるでダメな司令部だ、中央の決めた遅滞戦闘による後退戦術によってシェーゲンツァート帝国軍は今日まで戦ってこられたというのに、何故それを勝手に覆すのか。

〈どうでした〉

「ダメです、ここのクソ司令部は何故か死守を言い渡してきました」

 その言葉を聞いたフーフラーファは絶句する。

「もしかしなくとも、自分はとんでもないミスを犯したのかもしれません」

 リンドはこの時、ここの司令部に指揮権を譲渡したことを思い出し全身から血の気が引いていくのを感じていた。あの時快く引き受けなければ、あの時肩の荷を下ろして楽になりたいからという思いだけで指揮下に入らなければ。

 あからさまに絶望を見せる若き隊長に、フーフラーファは励ましの言葉をかける。

〈隊長のせいじゃありませんよ。どっちにしろ司令部を失った我々はここの司令部に組み込まれていたはずですから〉

「ですが……」

〈そんなことより隊長!今は戦闘中です!前見て!〉

「あ、ああっ。すみません」

 リンドはおぼつかない手で操縦桿を握りなおすと、煙幕を突破してきた敵戦車に銃撃を加える。

 そこに、第二小隊長以下リンドの直接指揮下に入る部隊の指揮官たちが、後退の有無について尋ねて来たので、リンドは申し訳なさそうにできないと答える。

〈ええ!何故ですか!〉

「ここの司令部命令だ」

〈嘘だろ……〉

 部下たちの失望の声が大きい。リンドとてここは後退したいのは山々だが、後々敵前逃亡として裁かれたくはない、もうそんな経験は二度とごめんだった。

〈何とかならないんですか?〉

「どうにも……以前どうにもならなくなって後退した時は敵前逃亡でうおっ!……ALを取り上げられて懲罰部隊行きになったよ」

〈撤退の判断を下せたんですか?〉

「当時はまだ指揮官じゃなかったさ」

〈ああ……そういうことで〉

「すまんが、アホの司令部命令だ。もう少し耐えてくれ」

〈了解です……〉

 そのもう少しの間にどれだけの同胞が銃弾に倒れるのだろうかと考えると、彼は頭を抱える。

 突撃銃を両手で構えて三点バーストで敵を撃つ。バシュ、バシュ、バシュ、と一定のリズムで打ち出される弾丸と巨大な薬莢。飛んできた銃弾が装甲の上を滑り、明後日の方向へと消え去る。モニタに泥にスタックした戦車を捉えると、ゆっくりと照準を合わせる。戦車は戦車の悪路走行能力すら弄ぶ泥の池に飲み込まれ、激しくキャタピラが回転するたびに泥をひどく跳ね上げて、空高く舞い上がった大量の泥は近くの味方に泥の雨を降らせる。

(あれだけじゃ乾かしきれないってことか、厄介だな雨は)

 わざわざ専用爆弾まで開発してエシャネーアーカまで飛ばして乾かした手間も、自然には敵わないということらしい。そもそもこの数日の間に少し雨が降ったのだからまた湿るのも当然だ。その際敵は爆撃を再度行わなかったため、コストが見合わないと判断したのかそれとも在庫がなくなったかのどちらかだ。案外オースノーツもバカである。

 空になったマガジンが、オートでサブアームによって回収されると同時に次のマガジンへと交換される。今度のマガジンがかなりくたびれていることに気が付いたリンドは、このマガジンは何回使われているのかと動作不良が起きることを懸念する。

 これでもどうにかシェーゲンツァート軍は持ちこたえていたが、ついにオースノーツ連合はジョーカーを投入することにした。それはリンド達がよく知っている、イヤというほど経験してきた存在だった。



〈こちら司令部より総員へ通達。北北西の方角より大型機が高速で五機接近中。低空爆撃を行ってくる恐れあり、注意せよ〉

「ああ?」

 まずリンドやフーフラーファ等はその報告に違和感を感じた。なんでわざわざ低空で爆撃をする必要があるのか、そもそも敵は制空権を握っているのだからそんな危険を冒す必要はないのだ。

〈どう思います?曹長〉

 ビテールンは経験豊富なフーフラーファにそう尋ねると、彼は首をひねって

〈おかしいだろ〉

 と答える。

〈何か新兵器でも持ってくるのかもしれませんなあ〉

 と第三小隊副隊長、モリノ軍曹。彼は隊長のオッタータ少尉が戦死したため指揮を引き継いでいる。

「じゃないといいんだけどなあ……」

〈距離二千!〉

 第四小隊のノーラ准尉が叫ぶ。空で二千といえばもう目と鼻の先、隊長たちは作戦会議をすぐに切り上げ対空戦闘を始める。

「対空砲撃よーい!!撃てええーーっ!!」

 Y4ラインから一斉に空に向かって砲撃が開始される。だが、そうはさせまいと地上では連合軍がその迎撃行動を阻んでくる。一斉に全隊で対空戦闘を開始したため対地火力落ちてしまったせいだ、すぐにリンドは全隊に切り替えさせる。

「第四、第二小隊、リンリ隊は地上の敵を!第一第三小隊とノモメス隊で墜とす!」

 すぐに火線は地上と空とに分かれ、超速で接近する大型機を狙う。一機が被弾により墜落、大爆発を起こした。敵はどうやら輸送機だが何故そんな高度をそんな速度で飛んでいるのか一瞬だけ疑問に思う、しかし一考の余地すら与えられないほどに時は迫っていた。また、敵輸送機は速度を落としていることに気が付きここでようやく敵の目的に気が付いたリンドは叫んだ。

「空挺!!」

 三十二ものジョーカーが空より舞い降りる。

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