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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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摺り潰されゆく鉄鋼(2)

 敵にとってのピンチは味方にとってのチャンス、逆もまた然り。

 攻撃線の再編を急ぐ敵に追撃をかけてそうはさせまいと同盟軍が邪魔をする。だがその一方で意識がそちらに向いているうちに連合軍は両サイドからの攻勢を強める。

 リンドは防御壁の裏に戻って再びちまちまと敵を迎え撃っていたが、突然今まで飛んできたことのないタイプの銃撃が胸部を叩いた。続けてロケット弾が着弾、近くの兵士が二人二十mほど舞い上げられ地面に墜落する。

「なんだなんだ!」

 どこから飛んできたのかわからず困惑する。感覚で大口径弾ではなく車両の機関砲程度であることは分かったが、それらしき車両はどこにも見当たらないではないか。

「各機気をつけろ!なんかわからんが機関砲で狙撃されてる!」

〈機関砲?なんでんなもんでALに……〉

 ビテールンはリンドの言葉に訝しみ、どういう攻撃なのか考えを巡らせるが自身が遭遇していない攻撃では情報が少ないため判断がつかない。せめて目撃できればいいのだが……

 何か思いもよらぬ敵が潜んでいるのでは、と思い彼はムルタ伍長に望遠レンズで探すように伝えた。

「距離は分からんがそれなりに遠くのはずだ。二千あたりを探せ」

〈了解です!〉

 ムルタは目を細め、カメラを最大限ズームにしリンドを狙った謎の敵を探す。地上の敵は先ほどから攻撃を続けてきているが、リンドの言う車両らしきものは見当たらない。もちろん戦車や装甲車はたくさんいるが、ALを狙うような機関砲を搭載したものというと、見当たらない。そんな車両なら砲塔を載せているはずだから、機関砲塔搭載の車両ならわかる。だが、やはり見当たらない。

 車体を隠蔽している可能性を鑑み、サーモカメラで車両が隠れていそうな稜線をくまなく探す。だがこれは間違いだったことにすぐ気づき切り替える。なぜなら戦場というのは、熱源のパーティー会場みたいなもので、すぐ近くの味方の兵器が熱源となり邪魔をし、敵もより多数で押し寄せてくるため、特定の熱源を探すことなど不可能、残骸も熱を帯びているしなにより飛んでくる銃弾やら砲弾やらロケット弾がそれぞれ個々に熱を持っているため、目まぐるしく飛んでくる熱を持った物体のせいでシステムが処理落ちしたため慌てて切り替える羽目になったのだ。危うく戦場でシステムダウンするところだった。

 普通に探してもダメ、サーモはなおさらダメときた。ではどう探すのがいいか。悩んでいると再びリンド機にそれと思しき攻撃があり、ちょうど彼はそれを目撃していた。

(……二十発はあたってるよな?多分)

 正直言って数えられるほどゆっくりした攻撃ではなかったが、戦車の車載機銃よりは大きくALの携行火器よりはずいぶん小さい口径による銃撃に見えた。新兵である彼も、ここしばらくの経験によって少しだけ成長をしているようだ。

 その映像をスロー再生してみると、銃弾は上半身に水平よりも上の角度から飛んできているらしいことがわかる。ということはつまり車両による攻撃ではなく空からの攻撃と判断できるだろう。レーダーを注視するが飛行機はこの低空では飛んでいないし、そもそも常に位置が移動し続ける飛行機で正確に同じ場所に遠距離から機銃を浴びせることはできない。

 ということは必然的に一つの予想ができる。

〈ヘリコ!ヘリコです!おそらく攻撃ヘリコがどっかにいます!前方の!〉

 ムルタが叫ぶ。思わぬ真犯人に、リンドは目を丸くしつつも、言われてみると被弾個所は上半身の天面部に集中しており、重力にひかれて弾が落ちていく軌道を計算して狙いでもしなければ地上からなかなか当たるものでもない。そんな奇妙な芸当まずできるわけがないので、初めから空からの攻撃と気づくべきであった。

「助かった!戦闘に戻れあとは自分で始末つける!」

〈はい!〉

 ヘリコプターの仕業と分かればこっちのもの。リンドはカメラを拡大し、攻撃ヘリコがいないかを探していると、二千二百m前方上空三百m付近に三機のヘリコの存在を確認した。それぞれがホバリングしながら機銃で同盟軍を攻撃しており、先ほどから他の部隊も機銃による狙撃に被害を受けていたところだ。

「クソ虫どもめ駆除してやる……」

 鬱陶しい害虫をヘリコに重ねながら、第三小隊に連絡する。

「こちらオーセス中尉より第三小隊。指定座標に敵の攻撃ヘリコを三機確認した。対空型は速やかにこいつら鬱陶しい害虫どもを駆除しろ」

〈モリノ軍曹了解〉

〈リーンレーン兵長も了解しました。全身全霊撃墜いたします!〉

 今回が三度目の戦闘参加であるリーンレーン兵長はまだ緊張が解けていない様子ではあるが、戦意は衰えておらずやる気を保っているようで頼もしい。こういった兵にも生き残って後々指揮官になってほしいものだと物思いに耽る。

 戦場で考え事に意識をそぐなど言語道断、そんな愚行を制裁するかのようにリンドに不幸が降りかかる。敵の戦車による砲撃が左胸部に直撃、増加装甲の上に取り付けたリアクティブアーマーのおかげで命拾いしたものの、それでも殺しきれなかった威力のために直撃した周辺の増加装甲が失われレーアルツァス本来の装甲が一部むき出しになってしまう。

「クソ!しまった俺としたことが!」

 警報とエラーが鳴り響くコックピット内で、迂闊な己を罵りながら慣れた手つきで警報に対処していく。

〈隊長無事ですか!〉

「大丈夫だ!装甲の厚さに救われたよったく!ええい!装甲が丸見えじゃねえか!」

 一部とはいえ胴体正面の増加装甲が破られてしまった、これでは敵の放火を一身に浴びながらの一斉射は難しいだろう。後で落ち着いたらあて布ならぬあて装甲をしてもらう必要があるだろうが、はたしてその余裕があるかどうか。

 二機の対空型が浅い角度で両腕の高射砲を撃っており、敵のヘリコは突然飛んできた濃密な弾幕にまず一機目がコックピットに直撃弾をもらい墜落、二機目は後退しようと機首を上げたところでテールローターに至近弾を受け操縦不能に陥った。

 回転しながら墜落したヘリは運よく下の友軍をつぶさずに済んだが、前席のガンナーの座る前部から地面に突っ込んだためにガンナーは押しつぶされ死亡、操縦手は生き残ったが肩をプラプラとさせながらコックピットから這い出て味方に救助される。

 残る一機は損傷を与えつつも後方に逃してしまい、全機撃墜とはならなかった。それでも損傷個所を修理するしばらくの間は出てこれないだろう。ほかにヘリコがいなければ、の話だが。

 敵の攻勢は夜になってようやく落ち着いてきたが、当然止んだわけではなく、砲撃がいつものように嫌がらせのように降ってきている。

(どっかで反転攻勢でもしかけられたらいいんだけどな……)

 そうは思っても、今現在の同盟軍にそんな戦力はない。せめて制空権が一時的にでも取れる航空戦力があればよかったが、もう半数の空域で戦闘機が失われた今、彼らに空で巻き返すことは難しかった。

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