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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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摺り潰されゆく鉄鋼

 偵察によると、Y4ラインに迫っている敵との彼我の戦力差は1:5から6、防衛側のほうが有利であるというのが戦場の常識であるため、攻撃側がより大きな戦力を用いるのは何もおかしなことではない。だが、それでも五倍から六倍の戦力の差があるのは、非常に厳しい戦いを強いられることになる。

 しかも連合軍は制空権をほぼ掌握しており、航空支援も得られるのに対し、同盟軍は航空部隊は壊滅し付近の砲兵もまた同様に撃破されてしまってほとんど自分たちの持ち前の戦力だけで戦う必要がある。

 既に敵からの航空攻撃は始まっており、エシャネーアーカこそいないものの、クァカートⅡを中心とした大爆撃機部隊が、同盟軍陣地を襲っている。対空砲も頑張ってはいるが、高高度を飛行する敵機にはなかなか当たらない。

 リンドは最近レーザー式対空砲というのが開発されたと耳にした、光線を飛ばして上空の敵飛行機を撃墜するものらしいが、装置がデカすぎてポンポン設置できるものではないということと、そもそも噂に過ぎず本当に実在しているのかも曖昧であったため、あったらいいなあくらいの気持ちで防御壁に身を寄せて爆撃から身を守っていた。

 炸裂する爆弾に、味方がやられていく。その日の夜には遂に第一小隊にも戦死者が出てしまった。リットール機の胸部に運悪く200kg爆弾が直撃してしまい即死。塹壕に下半身を埋めた彼の機体は、両手を広げ仰け反った状態で胸から炎を上げていた。

 それ以外にも他の小隊でも戦死や重軽傷を負ったパイロットも出てきたし、機体もリンド機含めて損傷している。そこに今度は砲兵による砲撃が始まったものだから溜まったものではない。これにより第三小隊長オッタータ少尉が両手を切断、両目を失明する重傷を負い、三時間後に死亡した。苦しみぬいた上での戦死であった。

 そうして砲撃が終わったと思ったらお次はお待ちかねの地上部隊による制圧である。ALと戦車を中心に置いた機甲戦力が、火力と防御力を持って敵の火力を引き付けつつ、全体の戦力を一気に押し上げてくる。敵は奇策などを弄さずに正攻法で、圧倒的な物量で押しつぶしてすりつぶしてくる戦法を取ったらしい。正攻法は対処方法はいくらでもあるが、押し返すことは一番難しい。

「砲撃型ぁ!無駄弾はねえぞよーく狙って撃てー!」

〈ハイ!〉

 悲鳴にも似たルーの声が爆発の中に混じる。ルーも良く戦ってはいるが、新人にこんな極限の戦場は余りにも過酷が過ぎた。涙を流しながら無我夢中で砲撃用のトリガーを引き続けており、比較的高い命中率も下がっている。だが、彼女に今冷静さを持ち直す精神的余裕はなく、いつ死ぬかわからない恐怖に志願したことを後悔していた。

 あの時は家族や生活を守りたくて友人と共にノリで志願してしまった。その友人三人も彼女は知らないが全員がこの防衛戦において戦死している。彼女たちもまた、同様に後悔したのだろう、銃を手に取ることの覚悟があいまいだったことへ。

〈こちら司令部より第一小隊へ、敵主力はオーセス中尉正面と考えられる。そこを集中的に攻撃し〉

 ここで司令部との連絡が途絶えたと同時に、後方で大爆発が起きた。それは丁度確か第三〇二大隊の司令部が設置されたところ……

「こちら第一小隊オーセス中尉、司令部応答せよ。こちら第一小隊オーセス中尉、司令部応答せよ!」

 何度呼びかけても通信が繋がらず、聞こえてくるのはノイズばかり。どうやら先ほどの爆発はやはり司令部が吹き飛んだものらしい。

(嘘だろ……冗談キツいぜおいおい……)

 ここにきて指揮系統を失うなど、あってはならないことだった。敵の大攻勢を前に第三〇二大隊所属第二特別陸戦隊は頼るべき司令塔が倒れ、リンドが指揮を執る必要が出てきた。いきなり大部隊を率いろなどとあまりにも無茶なプレッシャーに、彼は全身の血の気が引いていくのを感じていた。

(無理だ……俺は士官学校出じゃないんだぞ)

 眩暈すらし始めていたところだったが、思わぬ助け舟が入る。

〈こちら第十八特別防衛旅団司令部、第三〇二大隊のオーセス中尉へ〉

「こ、こちらオーセス中尉」

 何事だろうかと身構えていると

〈貴官の所属する第三〇二大隊司令部は今敵の攻撃によりリッケル大佐以下全員が戦死した。これを受けて当司令部が第十二特別陸戦隊の指揮を執る〉

 何とありがたい申し出か、思わずその言葉に飛びつくリンドだったが、遠くないうちにその迂闊な判断を後悔することになるとはこの時露にも思わなかった。ただ一刻も早くこの重圧から逃れたかったのだ。

「感謝する!」

〈了解、既に他の隊からも了承は得ている。引き続き第三〇二大隊は戦闘を続けられたし〉

 陸戦隊だけでなく、大隊所属の他の部隊も既に十八旅団の指揮下に入ったようだ。これならば現場の指揮だけに集中して戦闘にも打ち込める、そう思っていた。

 敵はどんどん迫っており、敵を一体ずつ集中して攻撃しようとしても、敵の銃撃が激しく機体を防御壁から乗り出すことが出来ない。一応銃にもセンサーとカメラが付いておりそちらの方でロックオンもできるのだが、精々片腕を突きだすことしかできないこの状況下では、一度に投じられる火力も少ないため、撃破が難しい。

「埒あかねえぞこれ!」

 じれったくなってきたリンドは、いつもの手を使うことにした。重装型には重装型らしいやり方がある、こんなちまちましたやり方は性に合わない。

 リンドは手を後方に振って自分が前に出ることを伝えると、そのあたりに通っていた味方の射線が止められ、同士討ちを防ぐ。そして空いたところにリンドは一気に機体を前に出すと、一斉射の用意に入った。

 敵は突然前に出てきたリンド機に疑問を抱くが、すぐにそれが重装型であることに気が付き火力が集中される。ガンガンと全身に浴びる銃弾だが、距離があるため重装型には有効弾とはならない。このうちに出来るだけ一掃してしまおうと、リンドは一斉射を始めた。

 右から左へ十度ほど、小さな角度であるが角度は距離が離れれば離れるほど先の範囲も広まっていく。約千m先にいる敵のAL他はガトリングシステム二基と重機関砲、ロケット弾十二発の斉射を受けた。初めて重装型の斉射を見た新兵たちはその圧巻の様子に目を奪われるが、これでもかなりセーブして撃っている方で、本来ならこの倍は撃てるのだが、ロケットポッドへの誘爆を防ぐためとこの先いつ補給が受けられるかわからない状況を鑑み、弾を節約したかったこともあって抑え気味に撃った。

 それでも、敵には少なくない損失を与えたようで、敵の攻撃線の中央に展開する主力部隊の戦力を大きく削った。生じた穴を塞ぐのは大変だろうが、この機会を同盟軍が逃すはずがない。

「各機撃て!」

 現状を打破すべく、同盟軍は必死に迎え撃った。

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