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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第九章 帝国
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雨水の守り(3)

 その後、四日後まで敵はまとまった攻撃を仕掛けてくることは無く、散発的な砲撃や爆撃を行うだけで殆ど死傷者も出なかったがあくまでほとんど、六名の死者は出たし十八名の負傷者も出ており内三人は手足を切断する重傷を負っていた。

 たとえ数名という小さな数字であろうとそこには一人一人生きている兵士の命がある、彼等の名前が歴史には残らず膨大な量の書類に僅かに刻まれただけのインクの残滓に過ぎずとも。

 攻勢をかけてこないのは敵の兵力に著しい損耗があり、攻撃を仕掛けることが出来なくなったのだろうか、そう前線の兵士達が微かな希望を抱いたがそうではないことを司令部や経験豊富な兵士は知っていたし、その証明がやがて彼等の前に押し寄せてくることになる。

 運命の四日後、空は二日前より雨脚も弱まりこの日にはもうパラついている程度で戦闘行動には何の障害にもなっていなかった。視界も開けている。精々立ちふさがるのはこの連日の豪雨によって形成された泥沼であった。司令部もリンドも雨が収まろうともこの泥の海ある限り敵の攻撃は上手くいかないはずだと思っていたし、誰だってそう思うはずなのだがここで連合軍は思いもよらぬ一手を打ってきた。

 空に一機のウルザスターと見られる中型爆撃機とその周囲にナイツェントと考えられる随伴戦闘機が飛んでいた、飛んできた方向からして連合軍機であるが、気になったのはその奇妙な陣形であった。

 爆撃機隊を戦闘機隊が広範囲で囲むだとか爆撃機隊で互いを守るように陣形を組むのではなく、先頭に中型、それに続くように戦闘機隊が連なっている。まるで意味の分からない陣形に皆がざわついていたが、誰もその真意を理解できずにいた。

「ん~」

 奇妙な編隊を見上げていたリンドはカメラを調節してどうにかはっきりとした鮮明な映像を見られないか試みて唸っていた。拡大縮小だけでなく光量なども調整しているが、日光のせいで反射して上手く撮れない。

<どうです>

 ルルペラ二等兵は自身も空を見上げながらそう尋ねる。彼のほうでもどうにか詳細を確認できないか試しているが、中々うまくいかないらしい。しかし何かが引っかかる。

〈もしかしてですけど〉

 とモトルリル一等兵。

「どうした」

 何か気になることがあるなら何でも言うように促すと、彼は恐る恐る今頭をよぎったことを口にする。

〈あれ、ウルザスターじゃなくて超高高度を飛んでるバカでかい飛行機ってことないですよね〉

「あ?」

〈あっいやすみませんそんなわけないですよねハハハ……〉

 慌てて謝るモトルリルだったが、リンドは彼の言葉に一つだけ思い当たるものがあり血の気が引いていく。

「それだああ!!司令部司令部司令部!!こちら第一小隊オーセス!ありゃウルザスターとかペトーリじゃないデドリクだ!!」

〈何?確認する……〉

 十秒ほど沈黙の後無線の向こうで司令部内が大騒ぎになっているのが聞こえてきた。

〈隊長デドリクってなんです?〉

 前線での敵機への愛称を知らないモトルリルがそう尋ねると、リンドは簡潔にこう伝えた。

「ありゃ中型爆撃機じゃない幅三百ちょっとあるバカでかい輸送機だ!!」

〈三百……〉

 その大きさが想像できない彼はそのまま黙ってしまったが、あれはとんでもない代物だ。デドリク、それはシェーゲンツァート南部に住む同国最大の海鳥ミナミオオワタリという小動物なら足で掴んで連れ去ってしまう怪鳥で、デドリクにまつわる伝説や昔話は数多くある。そんな巨鳥の名をわざわざ付けるほどの飛行機、その名はエシャネーアーカ、かつてリンドを捕虜にした際シェーゲンツァートへと移送するために使われた超大型輸送機である。

 そんなものが大型爆撃機と六発のジェットエンジンを持つ大型爆撃機クァカートⅡ複数と共に編隊を組んで飛んできているなど、絶対にろくでもないことが起きようとしているはずだ。

「全機上空に爆撃機編隊多数!一番デカイ奴が一番やばい!身を隠せ!」

 空襲警戒警報が発令され、Y4ラインに駐留する守備隊は大わらわとなり、地下壕に隠れたり、戦車を難燃性の偽装網で覆う。

〈降ってきました!〉

 ルルペラが叫んだ直後、爆発は二千m以上向こうで発生した。それを爆撃を外したと思う余裕もなく、どんどん迫る形で筋状に爆撃が近づいて来るではないか。その更に後に続いて今度は二条の先ほどよりも一個一個の規模は小さいものの爆発が発生し、リンド達のほんの八十mほど手前で止んだ。

「なんだ……外した?何が……」

 頭上で旋回し始めそのまま後方へと帰っていく敵の爆撃機隊の意図がまるで掴めないシェーゲンツァート軍だった。しかし、あの奇妙な編隊の組み方がヒントになるだろう。超大型輸送機と大型爆撃機を編成しておきながら線状の爆撃を同一カ所に多重に行ったことも気になっている。普通はあれなら絨毯爆撃を行うはずであるからだ。

 空高く目の前で轟々と燃えさかる炎は、焼夷弾だろう。爆撃の後敵は攻撃を仕掛けて来ないまま、彼等は炎が収まるのを待っていた。

 炎は意外にも半日も燃え続けた、一体全体どんな燃料を投じたのかわからないが、観測して分かったのは火力自体は通常の焼夷弾やナパーム弾と比べると熱量は低く、車両はともかくALであれば駆け抜けることも可能だということである。

 人や車両、物は当然焼き払えるがなぜわざわざ威力の低い爆弾を作って一人も殺せなかった爆撃を行ったのだろうか。皆不思議がっていたが炎が少しずつ収まり始めた午後九時十八分、その理由がわかった。

〈こちら司令部より各員へ、先ほどの爆撃は攻撃を主としたものではなく地面を乾燥させるためだということが判明した。泥の海が焼き乾かされたことにより敵が近いうちに攻撃を仕掛けてくる確率が高い。攻撃に備えよ〉

「参ったねこりゃ」

 リンドは頬杖をついてお手上げだとため息をつく。わざわざ泥を乾かして通れるようにするためだけにあんなバカでかい輸送機やクァカートⅡを飛ばしてくるのだから、まだまだオースノーツの物量は余裕があるらしい。

 それから偵察部隊の決死の報告により、敵は向こうで大部隊を編成しているという報告が入った。かなりの規模で先日無理矢理な攻撃を仕掛けて壊滅した部隊とは比べ物にならない物量だという。敵の総攻撃ともいえる大規模攻勢に備えるため、既に動いていたY4ラインの両守備隊は、損傷した防御壁の補修や新たな塹壕の構築、また損傷した兵器の修理と整備を総力を挙げて行っていた。

 しかし、この状況下ではそれにも限度があり、損傷していたモトルリル機の右腕を交換することは叶わず、リンドのガトリングシステムの銃弾も届いていないありさまで、このままではガトリングの斉射は十秒そこら分しか持たない。

 大部隊を粉砕するには重装型の一斉射が一番効くが、この戦線にはリンド機含めて途中で後退して合流したこれまた他所の部隊の一機を合わせて二機しかいない。その重装型も弾薬は三割しか残っていないため、重装型としても心もとない。

 サンドイッチを頬張りながら、リンドは機体の調整を進める。整備士も数が足りておらず、限られたリソースを有効活用するため、出来るところは自分で見て他の機体の整備を進めてもらっている。そうでもしなければ、戦力が足りないのだ。

 目前に迫った大攻勢を前にして、同盟軍は、シェーゲンツァート軍は出来るだけの備えをして迎え撃とうとしていた……

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