寄りかかって寄り添って
リンドの邪な予想とは裏腹に別に司令部が部隊配置を間違えたわけではなく、正しい位置に正しい部隊が配備されている。ただ、実際に間違っていたことが一つある。本来この部隊にはロテールという戦時簡易生産型ALが二個中隊分配備される予定だったが、いざ蓋を開けてみれば配備されたのは繰り上げ卒業されたヒヨッコどころではない未熟も未熟なALパイロットと一個小隊分プラス一機、とどのつまりたった六機のロテールだった。
小隊長は十七歳の上等兵の少女で、彼女もここに配備されて初めて自分が指揮官だと伝えられたのだからたまったものではないだろう。
「こいつはまずいぜ……」
この部隊のALは全員が素人、戦車はモスポールされていた五十年前の旧式戦車グロッツォス四輛、その他いろいろあるがやはり経験のある兵士どころか兵器が全く足りていない、一線級の兵器が……
リンドはAL部隊の状況を再確認する。
第一小隊は全機健在ではあるが、ルー兵長機、ビテールン伍長機、モトルリル一等兵機が被弾により小破している。第二小隊は一機中破二機小破、一機喪失しパイロットが戦死した。第三小隊は二機大破内一人戦死、二機小破。第四小隊は一機小破した以外は無事であるが、試作機崩れの内XAA-882-3Fがシステムダウンやエラーをちょくちょく起こして稼働不能状態に陥っている。
不安しか覚えない状況下であったが、リンドはどうにか生き残る術を探そうとしていた。そんな折、補給部隊が後方から戻ってきた。彼等はR3ラインが自分たちのいない間に陥落していたことを知りショックを受けていたが、損失も比較的少ない状態で生き残りが多いことを喜んでいるようだった。勿論、それはリンドのガールフレンドであるセレーンも同じである。
「リニィ!」
「セレーン!」
愛し合う者達は、互いの無事を喜び抱き合う。巨大な防御壁の影で互いの体をヒシと抱きしめ合う二人をよそに、兵士達はあわただしく次の戦闘への準備を急いでいる。
「怪我はない?」
そう言いながら恋人の体をバタバタと触って確かめる彼女に、彼は笑いながら大丈夫だと答える。
「俺のはだいぶ厚着してるからな、ちょっとやそっとじゃ死なないよ」
吹き飛ぶときは一瞬だけどな、という続きは口にはしない。
「もうバカッ!そんなこと言って忘れたの?」
と彼女は悲しそうに左腕を撫でる。重装型に乗って失った腕だ、それは失った当の本人が死ぬまで忘れられない痛みなのだから、言われるまでもない。彼は謝りながら柔らかな頬をその左手で撫でるとぎゅっと、今度は優しくしかし噛み締めるように抱いた。
「ゴメン……忘れるわけないさ」
「リニィ……」
ずっと抱きしめていたかった、離したくなかった、一度離せばもう二度と会えないそんな気がした二人。だが、もうそんな悠長に構ってられない、死は戦いはもう目の前までまた来ているのだから。
「危険になったらすぐに隠れるんだ、無謀なことはするなよ。あんなトラックじゃ一発でも貰えば」
「わかってる、大丈夫だから。だって守ってくれてるんでしょ?」
口が慌てだした彼の口元に手を当てそう尋ねると、リンドは困ったように笑顔を浮かべながら頷く。
「そうだ、俺があの弾薬庫に乗ってるのは君を撃たせないため」
「……死なないで」
「ああ」
別れの時間がやってきた、補給部隊はこの第二防御壁と隣接する第一及び第三防御壁に補給物資を渡し終えたことで、凡そこの防衛線の部隊に物資を渡し終えたため、再び後方の物資集積所へと下がり物資を積載して戻ってくる予定だ。
大型トラックが唸り声を上げながら不整地を走り去って行くのを、リンドはバックモニタでいつまでも見送る。
「もう一回抱けばよかった……」
リンドは、正面モニタ脇に張り付けたセレーンの下着姿の自撮り写真を指でなぞりながらそう呟いた。
翌朝、午前九時ごろのことである。
〈敵部隊接近中、十二時方向距離千二百〉
司令部より接近しつつある敵の第一報が入った。地下壕内の食堂で朝食をとっていたリンドは一気に残りの食事を口に押し込むと食器もそのままに外へと走る。他の兵士達も同様で塹壕内はあわただしくリンドは途中でフーフラーファ曹長、リットール上等兵と合流し自分たちの機体へと急いだ。
彼等はそれぞれいくつかの巨大防御壁と塹壕に分かれており、リンドは引き続きリットールとルー、そして新たにムルタ伍長の面倒を見ることになった。ムルタは先ほどまでは諸事情でフーフラーファ曹長に面倒を見てもらっていたが、これからは彼の指揮下に入る。
〈よろしくお願いいたしまっ!すっ!〉
上ずった声でそう挨拶してきたムルタに、リンドは落ち着くように宥める。
「落ち着け落ち着け、取って食いやしねえよ。歳だってそこまで変わんねえしな」
〈ハア……〉
そうは言われても、この戦場ということと座学でも習ったシェーゲンツァート帝国きってのエースパイロットが目の前にいるという二つの状況で、緊張しない者がいるだろうか。ましてやつい先日戦時特例によってただでさえ短くされている訓練時間を更に繰り上げられた十六の少年に。
「俺の装甲とこの馬鹿みたいにデカい防御壁がお前たちを守ってやるから、無謀な戦いとここから飛び出すなんて真似さえしなければ問題ない。いいな」
〈は、ハイッ!〉
砲撃音が聞こえた、立て続けに鳴った砲声は同盟軍側から発せられたもので、砲弾は接近中の敵部隊に向かって放たれているらしい。およそ距離千二百前後で爆発が起きているのを皆は眺めていたが、すぐに敵からも砲撃が始まり、砲弾は味方砲兵部隊への報復砲撃として行われたようで、後方の砲兵陣地では甚大な被害を被っていた。どうやら敵は砲兵部隊の位置を察知しており、砲兵隊が陣地転換をする前に叩いたらしい。
これで味方からの支援砲撃は殆ど見込めなくなったといってよい状況になったとも知らず、リンド達は戦闘に備えていた。
「各砲撃型、優先目標敵AL。自由砲撃にて砲撃開始」
リンドは第一中隊の全砲撃型ALに攻撃を命じる。砲撃型は、千mほど先にいるALを優先目標に捉えAPHE等を発射した。この距離では機動戦闘であればまず当たらないが、防御側はどっしりと腰を据えて狙うことが出来るため、移動している敵よりも精密射撃においては圧倒的優位を取れる。
シェーゲンツァート本土にある外縁部の大型レーダーは、あらかた空爆によって破壊されているため以前ほどの緻密な情報支援は得られないが、現場では工夫してどうにか移動式レーダーでも大型レーダーの役割を果たせるように、技術者たちが頑張っていた。
〈APHE装填、目標敵AL……発射!〉
ルー兵長の声を音声認識システムが捉え、主砲に指定した砲弾が装填される。万が一間違った砲弾が装填されても、マニュアル操作で交換が出来るため問題ない。ただし、何でも音声認識というわけではなく勿論照準合わせと発射は手で行う必要があった。
砲弾は敵ALから十mほど逸れた位置に着弾する。風などの情報を更新しすぐに照準を修正すると、もう一度発射する。今度は右の足首に命中し、脚部をやられた敵ALはそのまま前のめりにつんのめった。それをすんでのところで切断された足首を地面に突きさして耐えるが、そこに戦車隊の撃ったAPHEが腹部に命中し、爆発を起こして上半身と下半身が断裂しかけた姿で燃えながら倒れる。
〈あっ!〉
獲物を横取りされた彼女は、眉間に皺を寄せ何か言いたげに口をパクパクさせたが、すぐ目の前の防御壁に着弾があったためやむを得ず愚痴るのを止めた。




