打ち込まれるは鋼の楔
敵は正面の盾持ちに注意を向けさせている間に、比較的安全なすぐ後ろの位置に控えている通常型のALから、何かを撃ちだした。
曲射で飛んできたそれは思いのほか大きく、そのまま放物線を描きながら四番機である中装型ルスフェイラのビルッチ伍長の機のすぐ目の前に着弾、上半身を飛び出させていた伍長の機体は大爆発に飲まれてしまう。
「ビルッチ伍長応答を」
オッタータ少尉はすぐにビルッチに連絡を取るが通信は途絶しておりノイズだけが聞こえてくる。だがレーダーには四番機の識別信号がまだ表示されていることから、通信装置が爆風で破壊されただけという望みがあった。
彼女の機体を覆っている黒煙が収まりきらないうちに敵は第二射を放ち、二機の対空型が連装12.8㎝対空砲を撃って撃墜する。空中で炸裂した爆弾の威力は大きく、五百mは離れている最前列の二番機モリノ軍曹の機体のアンテナが大きく揺れた。
〈なんじゃいあらぁ!〉
モリノの酒焼けした声がやかましく耳に響く。
「わからんが総員気を付けろ。あんなもの見たことない。司令部にも情報を送信する」
すぐに映像を司令部へと送信すると、解析と他戦線で使用された記録がないかを照会すると即答があったため、安心して彼は戦闘に戻る。
「カムチ軍曹、ジェローリラ兵長、優先目標を敵の新型爆弾に変更する」
〈了解〉
〈了解〉
カムチとジェローリラは対空型に乗っており、基本は高度を下げてきた敵航空機の対応をさせているが、今は謎の大型爆弾を撃墜するように命令を変更した。先ほどの撃墜は命令していないものの、ジェローリラの機転によって撃墜が出来たのだ。
相変わらず敵からの攻撃は続いているが、気がかりだったのはビルッチ機の無事である。ようやく大きな煙が晴れたところでビルッチ機の姿がはっきりとわかるようになった。機体各所から黒煙を曳いているが機体が炎上しているのではなく、装甲に付着した火薬の焼け残りだ。
機体は両腕を肘辺りから先を欠損、頭部は装甲と通信装置が消失し骨組みが半分ほどむき出しになっており、胸部は煤まみれで正面装甲が歪んでいるのがわかる。
「こちら第三小隊、四番機が敵の新型爆弾で大破しパイロットが安否不明。救助求む」
〈こちら司令部了解。回収班を向かわせる〉
すぐに司令部の指示で回収班が工具と医療器具をもって出動し塹壕を通ってビルッチの元へと向かった。救助が始まればビルッチ機を守らなければならない。
「各員、これよりビルッチ機に回収班が来る、救助が終わるまで守れ」
〈了解です〉
〈了解〉
〈わかりました〉
オッタータ少尉は照準を盾持ちの敵機の足元に合わせ、榴弾を発射する。すると当たった箇所の地面が抉れたので、続けてもう一発撃つ。すると通過するギリギリのところで足元が急に凹んだことと、自らの構える盾によって視界が塞がれ足元がおろそかになったことで、先頭の敵が穴につまずいて転倒したではないか。
「よしッ!今だ全機先頭のを撃て!」
集中砲火が浴びせられる直前、彼は敵が何故それほど大きな盾を片手だけで構えられたのかその理由を理解した。彼が見たのは背中のバックパックから頭部横を通り前に向かって伸びる太いアームだった。どうやら敵はアームに盾を懸架し重量を主にそちらで支えていたらしい。道理でマニピュレータあもつわけだ、と納得した。ちなみに彼は気づかなかったが、左腕も盾を支えるために右腕より太くなっており、下腕にもサブアームがあって盾を支えているため、この新型ALは新型の盾とセットで運用するために開発されたようだ。
転倒した敵は頭部及び機体天面がむき出しになった、ALの装甲の厚さは主に戦車と同じ配分だと思っていい。正面が一番分厚く、側面、背面、天面、そして底面は薄い。ただし、歩兵によって下側から攻撃が行われることは織り込み済みであるため、重要箇所は下側でも装甲が厚くなっていたりするため、厳密には戦車と全く同じというわけではない。
そういうわけで弱点をさらけ出した敵は次々と第三小隊及び戦車隊の攻撃を受けて爆発、炎上する。残った敵は足取りが慎重にならざるを得なくなったようだが、それでもやられた味方を顧みることなく進んでくる。もう一度足元を撃とうとしたが、先ほどのが彼の機体の位置から敵機の足元を撃つ限界距離だったため、同じ戦法をとることは出来ない。
「こちら第三小隊、敵の新型ALの持つ装甲が厚くて破れない!支援求む!」
手持ちの火力では真正面から敵の装甲を撃ち抜くことが難しくなってきたため、オッタータは援護を求めたが、返ってきたのは無情な返答だった。
〈できない。現在左翼側より敵の部隊がなだれ込んでいる。砲兵隊はそちらに注力している。そちらで対処せよ〉
「第四小隊は!」
〈待て……第四小隊から二機回せるそうだ〉
「すぐに頼む!!」
〈了解すぐに向かわせる〉
どうにか二機の増援をもぎ取ったが、第四小隊はボロの寄せ集め、あまり期待できるものではなくそもそもあの部隊に砲撃型や重装型を上回る火力を持つ機体がいないはずだ。つまるところ結局必要な高火力は得られないということになる。
咄嗟とはいえ第四小隊の名を出した二十秒前の自分をぶんなぐりたかったが、いまは兎に角敵を押さえねばならない。こうしている内にも敵は更に近づいてきており、おまけによく見るとその後方から敵の戦車隊が現れたではないか。
戦車はその距離から砲撃を始めており、五番機が胸部に被弾したものの距離と角度のおかげで跳弾しほぼ無傷に済む。戦車の前面の投射面積はALと比べれば圧倒的に小さく、この距離ではあまりにも小さくおまけに動いている。だが、狙い目はあった。敵も流石に走行間射撃では当てられないため、砲撃の直前から撃った直後まではその場に停止しているためその時に撃てば当てやすいが、あくまで当てやすいというだけ。
「ライメル、キョーットル、レレリは敵ALの足止め、ヴォリトロは俺とALの後方にいる敵戦車隊を狙え」
〈了解〉
同じく砲撃型に乗るヴォリトロ兵長が返答した直後、ヴォリトロ機の上半身に立て続けに二発、砲弾が直撃し首の根元から爆発を起こして沈黙した。
「あっ!兵長返事を!兵長!」
だが返事はなくシグナルロストの表示がモニタに映し出され、奥歯を食い縛る。
〈ああっ!ヴォリトロ兵長が!隊長兵長が!〉
「わかってるわめくな!とにかく敵ALの足止めと撃破に専念しろ!戦車隊は俺がやる!!」
二機撃破され酷く焦っていたオッタータ少尉は躍起になって敵戦車隊に照準を合わせ撃った。だが、やはり戦車は当てにくく、至近弾で一両が爆風によって押されたが、行動に問題はなくすぐにまた向かってき始める。
〈第四小隊ペポリ上等兵とジュッジョ一等兵、到着しました!〉
ようやく現れた第四小隊からの増援はモルガット帝国製の山岳地帯用のALノバノと改修されたサイオス一機、あまりにも心もとないが、試作機崩れを寄こされるよりよっぽどマシだった。あれは下手すれば移動中に停止しかねない。
「こっちは二機やられた、今あのクソしぶとい盾の奴とその後ろにいる奴が新型爆弾をこっちに飛ばしてくるからそれを足止めか撃破しろ!俺は更にその後ろにいやがる戦車を先にやる!」
〈了解であります!〉
〈わかりました!〉
何とも幼さ残る返答にオッタータは頭に痛みを感じるも、ないよりはマシだと思うようにし主砲を発射した。炎と共に砲塔が一つシェーゲンツァートの空に舞い上がった。




