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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第八章 錆び付く鉄鋼
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闇に飲まれて(2)

 敵による夜襲は日中に比べたら非常に小規模で、さしたるものでもなく新兵でもそこそこ対応できる程度のものであった。それでもヒヨッコたちだけに任せるわけにはいかないので、こうしてリンドも出ている。

 空にも敵機は飛んでいるが彼が一番気がかりだったのはあのにっくき白い鳥だった。ヴィエイナ・ヴァルソー大尉、この戦争で一二を争うエースパイロットはまさに死の鳥と言え、彼女の機体に遭遇したものはその大半が命を落としている。そのためシェーゲンツァートだけでなく他の同盟軍内でも白い飛行型ALを恐れる兵士は少なくなかった。その中でリンドは何度も彼女と相見え、時として片腕を失う重傷を負いつつも毎回生き残り続けたのは今世紀最大の奇跡と言えよう。

 だが、一度も勝ったことは無い。一矢報いるまでは出来るものの、撃墜したことまではなかった。彼女は余りにも強すぎたのだ。いや、一度だけあった。超大型輸送機エシャネーアーカの格納庫内で彼女と遭遇した時に、大きな工具で強かに殴りつけ腕を折ってやったことがあった。

 いくらエースパイロットとはいえ、女の力では男であるリンドには勝てず手痛い目に遭わされたが、逆に言えばAL戦では勝てないということの証明でもあった。それを認めたくはないものの、認めざるを得ない事実であることもまた承知していたため、リンドはそのことを思い出すたびに顔をしかめていた。

 願わくば、白い鳥がこの戦いに参加していないかせめて南部とかの別の戦線に駆り出されていることを祈ったが、虚しい願いということも理解している。ここ北部戦線は主戦場であり、またシェーゲンツァートはオースノーツを最も苦しめている強国であるから、最強のパイロットであるヴィエイナ・ヴァルソーを出してこないわけがない。この北部戦線にいることはほぼ確実といってよいだろうとリンドは踏んでいるが、果たして……

「ん?ルー、リットール。機体を引っ込めろ」

〈は?〉

「早くしろ!」

 リンドに怒鳴られた二人は急いで機体を傾けて可能な限り機体を壕の中に収めた。直後、敵の砲撃が降り注ぎ防御陣地のあちらこちらに着弾、土と一緒に装備や不幸な兵士達が舞い上げられる。

〈きゃあああーーーーっ!!!〉

 ルーの機体に直撃弾が出る。右肩に被弾したルー機はショルダーアーマーと右側頭部の装甲をはぎ取られ、観測装置の半数が破壊されてしまった。機体は炎上を始めるが、規模が小さかったお陰で自動で作動した消火装置によって間もなく消し止められる。

「ルー兵長応答せよ無事か!」

〈な、何とか……ですがかなりやられてます……〉

 ルーは機体のチェックをしているがそうしている間にも砲撃が降り続け、地面に穴が穿たれていく。それに対する同盟軍側の反撃の砲撃はしけたもので、敵の砲撃が止んだあとのついでに残りを撃っておくか程度の砲撃が行われたのだと思っていたら、まさかの味方の砲撃であることを知って呆れる程度にしか砲撃が行われなかった。

 もうシェーゲンツァートにも砲兵も大砲もかなり数が少なくなっているのが現状だったが、前線にいる多くの兵士は全ての戦線で自走砲などの砲台が不足していることを知らない。

「砲撃が止んだら降りて程度の確認をしろ。整備班も呼んでおく」

〈分かりました〉

 砲撃が完全に止んだことを確認すると、ルーは機体を降りる。機体の状態は彼女が思っていたよりも軽く、右腕はつながっているし右の主砲も煤けてはいるが破損は見られない。彼女はてっきりもう右側は腕も無くキャノンももがれ胸部はフレーム剥きだしくらいなのだと思い込んでいたのだが、これならば応急措置でまだまだ戦える。

「よう。砲撃型でよかったな」

 眠そうな声でそう声をかけてきたのは二人の整備士だった。二人は彼女に断りもなしにハッチを開けて一人がコックピット内に座り中からチェックをし、もう一人が胸部に登って外からチェックを始めた。

「あーこれもダメか……」

 そんな内容の独り言が聞こえるたびに、ルーは生き残る望みが断たれていく音が聞こえてくるようにで、その場で縮こまって突っ立っていた。それを見た登っている方の整備士が

「おいおいそんなとこで突っ立ってたら狙撃されるぜ」

「えっ」

 我に返った彼女はその言葉で慌てて自分の機体を埋めている塹壕に滑り込んだ。狙撃なんてされたらたまったものではない。

 そう自分では言いつつも、仕事なので整備士はいつまた砲撃が降ってくるかもわからない中、機体への応急処置を始めた。

「おーい右腕の五番回路切ってくれー!」

「……切ったぞー!」

「うーい!」

 暗闇の中僅かな明かりでグチャグチャの機体の様子を見てテキパキ直していく様はまさにプロで、ルーは彼等のことを非常に頼もしい存在に思うようになっていた。戦場の花形であるALパイロットこそ至高だと思いAL科を選択したが、こういった存在がなければ花を維持することが出来ないことを、彼女は改めて思い知らされる。

 少しして作業の終わった二人は、彼女に簡単な説明だけして去っていく。

「右腕は交換が必要だがしてる暇がない。右腕で重たいものを持たせるなよ。突撃銃もダメだ」

「ハイ!ありがとうございます!」

「いいってことよ。じゃ」

 二人は若い女に礼を言われたことに気を良くして眠い中笑って次の機体へと向かっていった。その頼もしい背中を見送ると、彼女はコックピットに戻って機体のチェックをする。なるほど、確かに彼等のいう通りこれでは突撃銃すら持たせるのは良くないことはわかった。トルクが正常値の半分近くまで下がっており、どうやら運悪くトルク関係の回路や装置を破壊されたようだ。半数破壊されていたはずのセンサーはいくらかが修理や応急処置によって機能が回復もしくはある程度の性能を確保できるまでになっており、この短時間でここまでやってくれたことに本当に驚いていた。

(すごいんだ、やっぱり)

「隊長、応急処置終わりました。万全ではありませんが戦闘は続けられます」

〈了解、待機していろ〉

「ハイ」

 いつの間にか、絶え間ない戦闘の音が気にならなくなっていた。夜に炎の花が咲き続けている。



 太陽が昇り始めた頃、敵は本隊による進軍を再開した。リンドはあと一時間で休憩だが、敵の動きが気になるためまだしばらく戦うつもりでいる。

 敵主力はまだ十km程度先にはいたが、突出しているせっかちな部隊は三、四kmほどしか離れておらず、そういった敵にはまだ搭載した火器は使わず、座標を教えて戦車に自走砲紛いの砲撃をさせ対処する。この戦いで重要なのは物資の節約だ、弾薬工場も爆撃で操業が滞りつつある中満足に弾薬が届くことは無い。補給部隊も敵の攻撃を受けているが、それを護衛する部隊が足りないため、空からの攻撃に無防備なまま進むしかないのが現状だった。

 特に彼の歩く弾薬庫は弾を大量に積んでいるがその分消費する弾薬も多くなるため、大飯食らいであるから、使いどころを間違えてはならない。重装型でありながら大盤振る舞いできないのはつらいところであった。

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