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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第八章 錆び付く鉄鋼
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蝕まれゆく自由

 シェーゲンツァート攻防戦開幕から二十日、東海岸だけでなく北部や南部にも少しずつ連合軍による上陸が始まっていた。原因はひとえにシェーゲンツァート海軍の敗北にあった。

 世界有数の強さを誇るシェーゲンツァート帝国海軍が壊滅し、また制空権を確保しなければならない空軍も最早都市部の防御網を維持するので精いっぱいという有様で、地上で待ち構えている陸軍や海軍及び空軍の陸戦隊は頭上に味方の航空機ではなく敵の爆撃機や戦闘機が飛び交っているのを眺めている他無い。

 北部のレキーレッテ海水浴場だった場所より少しだけ内陸部に入った第十八防御陣地では、兵士達が敗走していた。勿論しているのはシェーゲンツァート軍で、砲弾が降り注ぐ中を這うようにして後方の第四十九高射砲陣地へと向けて逃げていく。

 敵はもうすぐ真後ろに迫っており、小銃弾の音が間近に聞こえる。まだ十五くらいの若い少年兵は、泥と血にまみれながらも必死に這いずって逃げており、見慣れた仲間の死体の上を乗り越えていく。

 彼の百mほど後方では、一機の隻腕のルスフェイラが前方より迫る敵AWに向かって銃撃を加える。元々十五機いた部隊も、残りはこの一機だけ。今朝がた最後の仲間が倒れたばかりだった。近づいて来る対AL兵装を抱えている歩兵に気づき、機銃を撃って仕留めるとAWを突撃銃で粉砕し、味方を確認する。このパイロットは後退する味方のために殿になっていたのだ。

 リロードが必要になり最後のマガジンを装填している中、砲弾が胸部に直撃し仰け反るが、このルスフェイラは現場で改修された装甲強化型、廃戦車の正面装甲を胸部に取りつけているため生半可な装甲じゃ撃ち抜けやしない。

 頭部機関銃で落ちてくる爆弾を撃墜すると、突撃銃の狙いをズンベージに向け撃つ。だがズンベージの装甲は水陸両用ALだけあって小口径の弾では遠距離からの射撃では弾かれてしまう。せめてあと二百m程近ければ撃ち抜ける可能性はあったのだが。

 敵は当然この目の上のたん瘤であるルスフェイラを狙いに来る。次々と銃弾が飛んでくるが、下半身を大きな塹壕にしゃがませているので、正面側に投影されている面積は少ないため、まずそもそも命中弾が通常より少ない。また、突撃銃には厚くはないがこれまた現場改修で防盾を付けているので、手や頭部、胸部を守ることが出来る。大砲こそ止められずとも、対戦車兵器や機銃弾くらいなら十分に止められる。

 それでも被弾はするし、その度に装甲が削られ装備が吹き飛んでいく。次第に被弾した箇所から油圧用オイルが抜けたことで右腕の油圧が抜け始め、腕が下がり始めた。このままではトリガーを動かす電気系統しか動かなくなるだろう。

 ガンッ!とひときわ大きな音が鳴って、胸部に中口径キャノンが直撃し装甲が歪んでルスフェイラは動かなくなる。これで沈黙したかと思われたが、二分ほどすると再び動き始めた。何があったのかはわからないが、まだ戦闘可能であるようだ。とはいえ、最早このルスフェイラに継戦能力はもうほぼ失われている。普通ならここで脱出すべきだが、このパイロットは戦い続けた。指が飛び頭部カメラが割れ、シリンダーがへし折れる。

 モニタやメーターには絶え間なくエラーが表示され、遂に油圧が全て喪失してしまいルスフェイラは腕を下ろした。銃口は地面を向いておりこれでは発射したとしても土を掘り返すだけで、何の意味もない。ここは畑じゃあない。

 しかし機銃は撃てるため、機銃で遠くの歩兵を撃ちつつスモークディスチャージャーを発射しようとしたところで、超高速で発射された徹甲弾がコックピットを撃ち抜いた。




「と、投降する撃たないでくれ!」

 トーチカから出てきたシェーゲンツァート陸軍兵士が両手を上げる。土と煤とに塗れた汚れた三人を、銃を携えたオースノーツ陸軍兵士が笑う。

「汚いツラしてやがるぜ、この土虫(※1)ども」

「虫野郎が」

 そう言い捨てるとトリガーを引いてシェーゲンツァート軍兵士達は倒れた。その向こうでは、トーチカ内に若い女性兵士が連れ込まれ、泣き叫ぶのをよそに裸に剥かれていく。このような地獄は戦争においては得てして起きるものだが、このシェーゲンツァート攻略戦においてはそれが顕著だった。惨たらしくシェーゲンツァート軍兵士が殺され蹂躙されていく。まるで、そう命令されているかのように。

 リンドだって投稿してきた兵士を虐殺したことだってあった。戦争は皆の頭がおかしくなってしまう……



 リンド達のいる第四十五防御陣地では、遠距離カメラで敵の姿が確認できるようになっていた。砲撃型に乗っている者たちは、間接照準を用いて砲撃を始めており、第一中隊に所属する四機の砲撃型は味方を助けていた。

「また来たな」

 コックピットではなく地下壕で控えていたリンドは、外に出てボロボロの味方の姿を目にしそう呟く。ここ一週間ほどで何十人もの敗走してきた味方兵士がこの陣地まで逃げてきており、彼等は皆呆然とした様子で部隊もバラバラ、着の身着のままでここまで逃げてきたのだという。

「だいぶ上陸を許しているみたいだ」

 第三〇二大隊長モラキェム少佐は遠く海の方を睨みつけてそう呟く。

「海軍は何をやってんだ!戦艦はっ!」

 第九十九歩兵連隊長ノルル中尉は拳を振り上げ、もう海の底に沈んだことも知らず海軍に向かって怒りを露わにする。

「とにかく負傷者の手当てと兵には防衛戦闘を徹底するように伝えろ。自棄になって吶喊などさせるな、塹壕で耐えるんだ」

「了解」

「では自分も」

 リンドは敬礼すると、塹壕を駆けていく。時に機関銃の弾薬箱を抱えた兵士とすれ違い、時に砲撃に怯えている兵士の上を飛び越え、深さ二十mもある巨大塹壕に出ると階段ではなく斜面を駆け下りて自機の元へと走った。

「中尉殿、機体は万全です!」

「ありがとう」

 整備士に礼を述べると、リンドはワイヤーで登ってコックピットに滑り込み操縦桿を握る。機体は過重量のために斜面に寄りかからせており、しゃがませてはいない。この重量でしゃがませようとしたら確実に関節が崩壊します、と整備士に釘を刺されたためだ。いくらか弾薬を消費して武装を切り離せば出来るらしい。

「俺だ、全機用意は良いな」

 彼の呼びかけに小隊全機から返答がある。

〈フーフラーファ曹長万全です〉

〈こちらビテールン伍長、勿論ですよ〉

〈リットール上等兵は万全であります!〉

〈る、ルルペラ二等兵いまぁす!〉

〈ケレッテ一等兵おります!〉

〈ピュループ上等兵準備完了であります〉

〈モトルリル一等兵準備万全です〉

〈ムルタ伍長オッケーです!〉

〈ハイ!ルー兵長いつでも行けます!〉

「よし……!」

 全員無事、これから第一小隊最期の戦いが始まろうとしていた。リンドは機体を起こして今度は前傾姿勢になり前方の斜面に機体を預けると、ガトリング砲のテストを始める。弾薬を供給せずに何度かスイッチを入れると、四基のガトリングシステムが音を立てて小気味よく回転したので、彼は頷いてもう少し身を乗り出し、ロングレンジライフルを構えた。

「第一AL中隊、各小隊準備いいな」

〈こちら第二小隊準備完了です〉

〈第三小隊ばっちりです〉

〈第四小隊間もなく……準備完了!〉

 それから他の科の部隊からも応戦可能であることを伝えられると、リンドはロングレンジライフルの照準を絞って撃った。放たれた砲弾は音速を越える速度で前方二十km地点に立っていたズンベージの正面装甲を撃ち抜いた。

※1 土虫:オースノーツにおけるシェーゲンツァート人に対する蔑称。キラロル人は肌が薄い褐色のため。

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